第十二話 中秋のうさぎたち
うさぎ?うさぎ……うさぎ!俺このうさぎたちと仕事するってこと?うさぎって話せるっけ?話せないよな!なんて考えていれば一羽のうさぎが近づいてきた。
「大丈夫?」
「喋った!」
「喋るよ!僕たち神様の使いだもの。もしかして意思疎通出来ないかもとか考えてた?」
「あーはい。すみませんでした」
「いやいや、そう思うのが普通だよ。現世のうさぎは喋らないもんね」
そう言いながら俺の足元でぴょんぴょんしていた。可愛い、触ったらダメかななんて思いながら見ていれば
「出来れば屈んで!顔がよく見えないし、こっちからだと距離もあるから声が少し聞こえにくいの!」
と言われてしまった。ごめんと謝り急いで屈むと俺の膝の上に乗ってきた。それを見た他の子たちも次々と近寄っては空いている場所を見つけて乗ってくる。見た目通りもふもふだし、かなり毛艶が良い。この子が言った通り本当に神様の使いなんだろうなと思っていると先程の子がまた話し始めた。
「僕は雪兎。ここの子たちのリーダーなんだ。君の名前は?」
「俺はユキです」
「やっぱり!君がユキさんか」
「知ってるんですか?」
「うん。異界郵便局のユキさんって人が僕たちを手伝ってくれるからって言われてたから」
「あーなるほど。そう言うことですか」
「うん。というか敬語じゃなくていいよ。僕たちも敬語じゃないから」
「分か…った。じゃあ俺のことも敬称無しで呼んでもらえると」
「分かった。僕たちのこともさん付けじゃなくて良いから」
「了解。少し質問してもいい?」
「良いよ。何?」
「他の子たちも名前あるんだよね?俺全員の名前覚えきれる自信ないんだけど…」
「覚えなくても大丈夫だよ。これだけの数だし、難しいのは分かってたからみんな名札付けてきたの。首のところやつ」
そう言われ首のところを見てみると確かに名前が書かれたものがついていた。
「本当だ。分かりやすくて助かるよ」
「僕たちも出来るだけ会話して意思疎通はしたいからね。出来ることはやるよ」
「ありがとう」
「どういたしまして。時間が余ってる訳じゃないから移動し始めたいんだけどいい?」
「もちろん。ただ移動しながら幾つか質問して大丈夫?」
「それは大丈夫だよ。じゃあ移動し始めようか」
そう雪兎が言うとみんなが俺から一度離れて襖の方へ歩き出した。
雪兎たちについて行くと変わった見た目の襖が見えてきた。
「あの襖の部屋から移動するから、ユキも早く行こう」
そう言うと雪兎は少しスピードを上げて走り始めた。俺も小走り気味で雪兎たちのあとを追って襖の前までついた。俺が来たのを確認すると背中に背負っていたリュックのようなものから印鑑を出して襖に押した。
「あれ何?」
「あれは分かりやすく言うなら通行手形かな。僕たちが神様から貰うものの一つで、僕たちの移動には欠かせないものだよ」
「一人一つ持ってるのか?」
「うん。一羽に一つ渡されてるよ」
「あーごめん。一羽だったな。それでこれから向かうのはどこなんだ?」
「現世だよ。僕たちは日本各地にあるお供物の回収をしに行くの」
「なんでこのタイミング?」
「中秋の名月だよ。この時期に全国のお供物を一旦全部回収して、その食材とかを使って中秋の名月、いわゆるお月見の宴をやるんだ」
「あーそういえばそんな時期だな。てかお月見はお祭りみたいな行事とは違うよな。なんで宴なんだ?」
「秋の収穫への感謝や、健康や幸福への祈りが込められた行事で、昔の考えで言うならお祭りの日ではあるんだよ」
「そうなんだ」
「うん。そして僕たちはその準備を任されてるんだ。けど僕たちだけだと出来ないこともあるから、人に手伝ってもらうっていう形を取ってるんだ」
「なるほどね。じゃあ俺は雪兎たちの力になれるように頑張らないとだ」
「そう言ってもらえると助かるよ。ありがとう」
なんて話しをしている間に多くのうさぎは移動してしまったようで、俺たちは急いで襖を開けた。襖を開けた先はもう現世になっていた。一応と言って雪兎は勾玉のストラップのようなものを俺にくれた。これには認識阻害の術がかかっているらしく、体のどこかに付けておけば効果が現れるらしい。俺は少し迷ってベルトのところにつけた。俺がつけたのを確認すると雪兎たちは歩き出した。
「これからユキは僕たちと一緒に小さな神社を回ってお供物の回収をしてもらうよ」
「お供物って何があるんだ?」
「ススキや、栗や里芋とかの食べ物が多いかな」
「確かにススキとかはイメージあるな」
「でしょ。じゃあ早速回収して行こう!」
そう言って走り出した雪兎たちと一緒に、俺は回収に勤しんだ。
現世での回収が全て終わり俺たちは本殿に帰ってきた。どこに運ぶのかを聞こうと雪兎の方を見るととても楽しそうな顔をしており、思わず言ってしまった。
「すごい楽しそうだな」
「分かる?とっても楽しいよ」
「現世に行ける機会なんて滅多にないから俺も楽しいけど、雪兎は理由が別にありそうだな」
「そうだね。僕たちは各々の神様がいてこそ存在出来るものであって、神様は人の想いがあってこそ存在を成せるのだと思ってる。だから自分の主人をどう思ってるのか、どのように話されているか、覚えてくれているのかを自分の目で見ることが出来るからとても楽しいんだ」
「なるほどな。それは楽しいわけだ」
「そうだよ!というか運ぶ場所伝えてなかったね。本殿の入り口とは反対側のところに運ぶんだよ。僕も同じところに行くからついてきて」
そう言うと雪兎は歩き出した。俺はお供物を積んだ台車を押しながらその後ろを追った。
幾つもの部屋をすぎ、長い廊下の一番奥にある部屋の前で雪兎は止まった。襖が開いており、見えているかぎりではかなり広い部屋であるように思えた。
「到着したよ。とりあえず部屋の中に入ろっか」
「ああ、うん。かなり大きい部屋だな」
「神様が沢山来るからね。食べ物は前の方に持って行って、それ以外のものはここに置いといて欲しいな」
「分かった」
そう雪兎に返し、俺は部屋の前の方に食べ物を運んだ。
「このあと俺はどうしたらいいんだ?」
「この部屋の飾り付けを手伝ってもらうことになってる。僕たちだと部屋の上の方は上手く飾り付け出来ないから」
「なるほどね。とりあえず俺は雪兎についていれば良いかな?」
「うん、それで大丈夫。早速始めようか。まずはススキを使うよ」
そう言って作業を始めた雪兎の手伝いをする為俺もススキを取りに走った。
飾り付けの作業は順調に進み思ったより早く終わった。後はご飯を運ぶだけということで厨房からご飯を運んでいると雪兎に話しかけられた。
「この仕事がユキに決まった理由ってなんだと思う?」
「えー何だろう。一度似たような仕事をした事があるからとかかな?」
「それもあるね。実績がある人の方が安心できるし。でもそれだけじゃないんだよ」
「え!何?」
「推薦があったんだって。自分たちの時に真摯に向き合って仕事をしてくれたから、きっと彼なら大丈夫だって。もちろん主人からしても一度神様関連の仕事を受けている人の方が頼みやすいっていうのはあったみたいだけど」
「そうなんだ。なんか嬉しいな」
「僕たちは神の使いって言ってもあくまで動物だから、僕たちの意見に従ったり一緒に働くのが嫌って人もいるんだよ。だから主人も人を選ばないといけないんだ。どうしようか迷ってたところで推薦があったから決め手になったみたい」
「そんなこともあるんだな。俺は雪兎たちと一緒に仕事ができてすごく楽しいよ」
「僕もだよ!」
そう言った雪兎はとても嬉しそうに見えた。ご飯を無事に運び終わると俺の仕事は終わりとなった。官吏さんのところまで送ってくれると言う雪兎の言葉に甘えて送ってもらい、俺たちは本殿の二階に来ていた。二階に上がってすぐに灯火さんに会えたため俺たちは仕事が終わったことを報告した。
「分かりました。まずはお疲れ様でした。そしてユキさん、本日はお手伝いいただきありがとうございました。おかげで無事準備を終えることが出来ました」
「いえ、俺は大した事はしてないので。雪兎たちが頑張ってくれていたからだと思います。俺の方こそ手伝わせいただきありがとうございました」
「貴方は本当に聞いていた通りの方ですね。貴方に手伝っていただけて良かったです」
「それはどうもありがとうございます」
「それと一つ。ユキさんに天棚機姫神様から言伝が、もう少しだけ時間をくれと」
「分かりました。可能ならありがとうございますとお伝え下さい」
「はい、承りました。ではお送りします」
「ありがとうございます。あのリアさんは?」
「リアさんはもう業務を終えて帰ってますよ」
「そうなんですね」
「はい、着きました」
そう灯火さんが言って止まったのはステンドグラスの扉の前だった。
「中に装置が?」
「いえ、扉にかざすタイプです。ご存知ないですか?」
「知ってます。装置の方を使い慣れてしまっているのでつい、すみません」
「いえ、使い方が分かるのであれば問題ありませんので。大丈夫なら私はこれで」
そう言うと灯火さんは一礼をして戻って行ってしまった。俺もその背中に一礼をしてからカードを取り出した。ステンドグラスの部分に置くと模様が変わったので、安堵しつつ扉を開けた。
「あ、ユキくんおかえり。お疲れ様」
「ただいま戻りました。リアさんもお疲れ様です」




