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異界郵便局  作者: 翠雨
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第十話 想いの迎馬

目を開けるとそこには赤い門が建っていた。リアさんが言ってた門ってこれのことかなんて思いながら俺はコンパスを取り出した。コンパスを見ると二点はかなり近い場所にあった。リアさんから聞いた話しからしても急ぐべきだろうと思い、俺は早足で歩き出した。配達相手は思っていたよりすぐに見つかり、キュウリを渡すことが出来た。話しを聞くとどうやらここでギリギリまで待つつもりだったらしい。俺はお気をつけて行ってきてくださいと伝え、次の配達場所に向かった。次の人は人の良さそうなお爺さんだった。こちらに来てから初めてのお盆だったようで勝手が分からなく動いてしまっていたらしい。俺は伝えられる限りの情報とキュウリをお爺さんに渡して別れた。その次は小学生と中学生ぐらいの姉妹だった。この姉妹もお爺さんと同じで、初めてのお盆で勝手が分からなかったらしい。俺はこの子達にも出来るだけ分かりやすくお盆や門についての説明を行った。この姉妹には一人一つずつキュウリを渡したので残りのキュウリはあと一つとなった。

このペースなら早く終わらせて戻ることが出来そうだと思っていたが、最後の人がなかなか捕まらなかった。俺が移動すれば配達対象になっている人も移動しており、コンパスの上で二点は一定の距離を保ったまま移動し続けるという状態が続いていた。どうするか考えるにしても、歩くのを止めてしまえばそれだけ距離も離れてしまうので歩き続けるしかなかった。この状態は後どれくらい続くのだろうと考えながら歩いて、ふとコンパスを見ると黒い点が止まっていた。この点に着くのが遅くなるとまた動き出してしまい配達が難しくなるかもしれないと思い、俺は急いで黒い点に向かった。コンパスが示す方向は人通りが多く、明るくなっていた。明かりの正体は提灯で、どうやら階段になっているこの場所を陽が落ちた状態でも安全に歩いてもらう為のようだった。階段を上った先ではお祭りが行われていた。お祭りなんてあるんだ、まぁ時期的にはあるかなんて思いながら俺は出店を見つつも歩き続けた。出店を通りを抜けた先に小さな神社があった。コンパスが示すのはどうやらあの神社のようだった。神社の鳥居をくぐると拝殿が見えてきた。その拝殿の近くに一人の女性が座っていた。俺はその女性のところに小走りで向かい声をかけた。

「あのセンさんですか?」

「はい。そうです」

と答えたセンさんは驚いているように見えた。

「異界郵便局のユキと申します。お荷物をお届けに来ました」

俺がそう言うとセンさんはさらに驚いた顔をした。センさんの態度を疑問には思いつつ荷物を渡すと、センさんは固まってしまった。どうしようかと思っているとセンさんから質問をされた。

「これ本当に私への荷物ですか?」

「はい。センさん宛の荷物で間違いないはずです」

「そう…ですか」

そう言うとまたセンさんは受け取った時の状態に戻ってしまった。何か事情があるのだろうが、聞くべきかどうかを迷っているとセンさんの方から話しかけられた。

「ユキさんですよね?」

「はい、そうです」

「ユキさんはこのキュウリがどんな意味を持つものかご存知?」

「えっと、確か亡くなった人が足の速い馬に乗ってはやく戻ってこれるようにっていう意味でしたよね?」

「えぇ、その通りです」

「その意味が驚かれていたのと何か関係があるんですか?」

「よく見てらっしゃるのね。ユキさんの言う通りです。私はね、今年から帰る家は無くなるものだと思っていたの」

「何でですか?」

「再婚したの、夫が。だから私はもうあの子の母親ではいられなくなってしまうから、これが届くことも無いと思ってた。だから家も空けてたのに」

「新しいお母さんが出来たからセンさんがお母さんじゃ無くなる訳ではないと思いますけど」

「その通りだと思うわ。でもね、私はもう傍に居ることも出来ないの。それに比べて新しいお母さんは今一緒に居てくれるのよ。より近くに居てくれる人の方があの子の優先順位は高くなるんじゃないかって考えてしまって。そんな風に思う自分も嫌で………私はもうあの子の母親を名乗れないなって思ったの。置いて行ったのは私なのに」

その話を聞いて俺は悲しくなった。そして、言葉に詰まりながらもセンさんに話した。

「うちは思いで荷物が届くんです。だから、うちに届くってことは願われたってことで、その……つまり、うちに届いてるってことはそれだけ思われたってことでもあるはずなんです。センさんはああやって言ってましたけどお子さんにとっては今もセンさんはお母さんなんだと思います。そうじゃなきゃこれも作らないと思いますし」

俺がそう言うとセンさんは泣きながら聞いた。

「本当にそう思う?」

「俺が子供の立場ならそう考えます」

そう答えるとセンさんは泣きながらも嬉しそうに笑った。


センさんは門の方に向かうということだったので、俺は送れるところまで送らせてもらうことにした。

「働き始めたのは四月からなの!じゃあまだ半年も経ってないのね」

「はい、まだまだ新人なので至らない点もあったかもなんですが」

「そんなことないわ。ユキさんが届けに来てくれたから私は家に帰る決心が出来たのよ」

「そんなことは」

「あるわよ。本当にありがとう」

そんな会話をしながら出店の通りを歩いていると綺麗な赤色が目に入った。

「リンゴ飴好きなの?」

「え、あーはい。好きだと思います」

「思います?食べたこと無い?」

「味の想像がつくので食べたことはあるんだと思うんですけど…俺郵便局で働くより前の記憶が無くって。だからなんか中途半端な答えになっちゃうんですけど」

そう答えるとセンさんは少し待っててと言ってお店の方に行ってしまった。戻ってきたセンさんは手にリンゴ飴を持っており、それを俺に差し出した。

「はい。どうぞ」

「え!なんで」

「お礼。さっきも言ったけどユキさんじゃなかったら私は今も帰れないままだったと思うから。それに食べたら何か思い出すかもしれないじゃない」

そう言って差し出されたリンゴ飴を少し迷いつつも俺は受け取った。

「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」

「いいえ。どういたしまして」

そう言うとセンさんは歩き出した。そのセンさんも含めた光景が何故だかとても懐かしく思えた。

その後もお互いのことを話しながら三十分程度歩き続けると門が見えてきた。門は相変わらず開いているが規制は行なっているようだった。門に近づくにつれセンさんの口数が減っていった。

「緊張してますか?」

「うん。まあね」

「深呼吸してみます?」

「それはいいかも」

そう言って二人で深呼吸をしてみるもセンさんはまだ少し緊張しているようだった。

「これ知ってますか?手の甲側の親指と人差し指の間のこのくぼみのところ押すと緊張が和らぐんですよ」

「それは初めて聞いたかも。ツボってこと?」

「多分?ツボだと思います」

「多分って、先輩に教わったの?」

そう聞かれて気づいた。あれこれは誰に教えてもらったんだっけ?働き始めてから覚えたものじゃないよな。ってことはそれより前の記憶?全部を忘れてる訳じゃないってことか?それとも俺が少しずつ思い出してる?なんてことを考えていたらセンさんに心配されていた。

「ユキくん?大丈夫?」

「え!あ、はい」

「私変なこと聞いちゃったかも……」

「いや、そんなことないです。センさんのおかげで少し記憶が戻ったというか、思い出せた事がありました」

「そうなの!それなら良かった。ユキくんのおかげで私も落ち着いてきたよ」

「お役に立てたなら俺も良かったです」

なんて話しをしていたら門の前に着いた。

「ここまで本当にありがとう。これからのユキくんに末永い幸せが訪れるように祈ってるね」

「ありがとうございます。センさんも帰省楽しんでください」

そう言って門に入っていくセンさんを見送り、門番の人に挨拶をした。より多くの人が迎馬と帰れていることを祈りながら俺は郵便局へ帰った。

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