第九話 夏の馬
特例任務を終え戻ってからは特に変わったこともなく、月日は過ぎ七月も残り一日となった。
「明日からもう八月ですね」
「ねー。八月は忙しいよ」
「何でですか?」
「お盆があるから」
「お盆って、日本ピンポイントじゃないですか?」
「それはそうでしょ。私たち日本支部なんだし」
「え?」
「え?聞いたことなかった?」
「はい。初耳です」
「本当にごめん」
そう言って説明を始めたリアさんによると俺たちは日本支部で、主に日本で望まれてここに届いた荷物を配達しているらしい。
「だから気候とかも似てるんですね。四季もあるし」
「そのとおり!ユキくんもだんだん分かってきたね」
「良くない染まり方してる気もしますけどね」
「それはまぁ、諦めてもらって」
「というか、お盆があるからってどういうことですか?」
「キュウリが来るんだよ」
「キュウリ?」
「そう精霊馬っていう迎えの馬のキュウリ」
「迎えの馬ですか?」
「うん。正確には見立てたものね。亡くなった人が足の速い馬に乗ってはやく戻ってこれるようにって意味で作られるものなんだよ」
「そんなものがあるんですね。知らなかったです」
「まぁ家や宗派によっても違うみたいだから知らない人もいると思うよ」
「そうなんですね」
「うん。でこのキュウリがまたちょっと複雑で。基本的にはうちを経由せずに本人のところに届くようになってるんだけど、こっちにきて名前変えてたりすると本人のところに届けられなくてうちに届くようになってるの」
「つまり届けられないキュウリは全部うちにくると」
「そう。しかもそれ全部を私たちでお盆までに届けないといけないんだよね」
「終わってますね」
「うん。だから八月になる前に気持ち作っておいた方がいいよ。八月になるとお盆まではあっという間で長いから」
「分かりました」
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そんなことを言われた七月が終わり八月になるとすぐにキュウリが届きはじめた。
「届いてるものはもう配達はじめちゃっていいんですよね?」
「うん。それで大丈夫だよ」
「分かりました。じゃあ俺もう配達行ってきちゃいます」
「はーい。お願いね」
なんて会話をしながら配達を繰り返す日が続いていた。
「今日もお疲れ様」
「リアさんもお疲れ様です。あのこの感じがずっとですか?」
「いや、十日以降はもっと忙しくなるから今はまだマシな方かな」
「マジかよ!もう結構キツいんですけど」
「大丈夫!ユキくんなら気づけば慣れてるよ」
「だから嫌ですよその慣れ」
「まぁ嫌がってもこれは変えられないから、気合い入れて頑張るしかないよ」
「はい……分かりました」
そしてやってきた八月十日。リアさんの言っていた通りバカみたいな量のキュウリが届いた。
「今日もキュウリの配達行ってきます」
「ふふ、行ってらっしゃい。気をつけてね」
そう言って見送ってもらい配達を終えて帰ってくるを繰り返す俺とは違って、リアさんはたまにキュウリを持って帰ってきていた。
「受け取り拒否ですか?」
「これは受け取り拒否じゃなくて届けられなかったやつかな」
「届けられないって?」
「お盆が近づくと帰りたいって思いが先走って、門の方に向かって行っちゃう人も何人かいてね。門の近くだと私たちは配達出来なくなるから、持って帰ってくるしかないんだよね」
「なんで配達出来ないんですか?」
「簡単に言うなら政府の管轄外だからかな。こっちとあっちを繋ぐ物とかは基本的に神様の物で管轄ってことになってるから、そこで勝手に仕事は出来ないんだよね」
「許可があればいいんですか?」
「うん、その通り。実際神様側からの依頼とかもあるし、許可取るのが大変とかではないんだよ」
「じゃあこの時期は許可貰えばいいんじゃないですか?」
「それは無理だね」
「何で?」
「この時期の門はキュウリが届いた人が通れるってなってるんだよ。つまり、持ってない人たちは勝手にそこに来てしまっている状態なの。持ってない人がそこにいるってだけでも仕事の邪魔にはなっちゃってるから、そこで他の仕事までされはじめちゃうと神様側からするとすごい迷惑なんだよ」
「それは確かに」
「まぁ門のところで一旦帰るようにっていう呼びかけはしてくれてるから、私たちもこまめに再配達するしかないかな」
「お盆までに届けられるといいですよね」
「こういうのはお盆までに届けられないパターンが多いよ」
「え!じゃあ帰れないじゃないですか」
「そんなことないよ。お盆が終わるまではあっちに行けるから。逆に門の方まで行っちゃってる人はお盆が始まると一旦帰ってくるから、十三日以降の方が渡せるかな」
「なるほど。じゃあ実際は十六日が終わるまではこの状態は続くんですね」
「そうだね。まぁでも十三日以降は今よりは少し落ち着くよ」
なんて話を聞いてから俺は気合を入れ直し、ギアを一段階上げた。
そうしてあっという間に日付は十三日になった。がまだここには再配達となっているキュウリがいくつも置いてあった。
「今日からは再配達ですか」
「そうですよ。でもユキくんはこれだけだから」
そう言ってリアさんが渡してきたのは五人分だけだった。
「え!これだけですか?」
「うん。今年は再配達場所固まっててさ、人数多い方は私行ってくるからユキくんにはこっちの方頼みたくて。ちょっと離れてるみたいではあるけど、そこまでの距離ではないと思うから多分すぐ終わると思うよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「いやいや、むしろごめんね。移動多いかもしれない方お願いしちゃって」
「それは全然大丈夫です」
「そう?それなら良かった。じゃあお互い頑張ろう!気をつけてね」
そう言うとリアさんは配達に向かった。リアさんが移動したのを確認してから俺も部屋に入り、装置に伝票を置いて配達を始めた。




