第二百五十一話:天馬とドンブラこ①
文化祭のチャレンジファイトコーナー。
在校生側はまさかの原作主人公であり、現在は【炎帝】の名を背負う藍。
それに挑戦しているのは早乙女コスモ。これまたまさかの人物である。
試合途中からの観戦にはなったが、現在藍の状況はこんな感じである。
藍:ライフ5 手札4枚
場:〈ブイドッグ・剣改〉
ライフは5なので【Vギア】の発動条件は達成済み。
場には一振りの剣を咥えた、犬型のモンスターが1体いる。
あれは二年生編から藍が使うようになる、〈ブイドッグ〉の新しい姿だ。
一年生編の黒幕を倒した途端の登場、まるでアニメ的な販促が開始したような光景だな。
で、対する早乙女さんの方はというと……
コスモ:ライフ7 手札3枚
場:なし
ライフ差でこそ勝ってはいるが、盤面は0枚という状況。
一見するだけでは、劣勢と言う他ない。
「【天罰】の条件は満たせてますけど、手札枚数が心許ないですね。多分藍ちゃんの攻撃を防ぎきったけど、手札を消耗し過ぎたんですよ」
「だろうな。藍の方にブロックできるモンスターがいないとはいえ、手札や墓地に防御札が無さそうな雰囲気でもないし」
だから藍の優勢……という簡単な話でもなさそうだ。
視線を逸らして早乙女さんの方を見てみる。
この世界にいる並大抵のファイターなら怖気付く、なんなら投了して逃げても不自然ではない相手だ。
そんな格上を相手にしても、ニコニコと笑顔を絶やしていないのは度胸があるのか、それとも感性がズレているだけなのか。
「それじゃあ、今度はコスモの番だよ〜★ スタートフェイズ、ドローフェイズ!」
明るい様子でターンを開始する早乙女さん。
とても帝王を相手にしている中学生とは思えない。
底知れないナニは感じるけど、それが俺の錯覚なのか否か……このターンで少しは分かるのだろうか。
「メインフェイズ! コスモのキラキラ始めちゃうよー!」
早乙女さんがピョンピョンと跳ねると、観客も一気に盛り上がっていく。
ピンチでもこういう反応が貰える辺り、流石は人気配信者といったところか。
「まずはこの子! 〈コズミックペガサス・マイナ〉を召喚★」
手札のカードを仮想モニターに投げ込むと、早乙女さんの場には小柄なペガサスが召喚された。
この前テレビで観たJMSカップのアーカイブ映像にも出ていた、こいぬ座の聖天使だ。
〈コズミックペガサス・マイナ〉P6000 ヒット1
「〈マイナ〉の召喚時効果はっつどー! ライフを2点支払って、デッキから名前に『ペガサス』を含んでいる系統:《聖天使》を持つカードを1枚選んで手札に加えまーす★」
コスモ:ライフ7→5
ライフコストを払い、早乙女さんはデッキからカードを選んで手札に加える。
所謂【ペガサス型聖天使】と呼ばれるデッキでは定番の動きだ。
しかもあのカードの効果は『カード』を指定しているから……
「コスモはデッキから、魔法カード〈ペガサスポーション〉を手札に加えます★」
条件さえ合っていれば魔法カードも手札に持って来れるんだ。
しかも今手札に加えたカードはライフを回復できる魔法。
ライフを回復している事を召喚条件としているペガサス達との相性は最高だ。
「というわけで早速! 魔法カード〈ペガサスポーション〉をはっつどー! コスモの場に『ペガサス』がいるからライフを4点回復しちゃいまーす★」
コスモ:ライフ5→9
コストの支払いによって並んでいたライフを、一気に上回ってきた早乙女さん。
自分の場に『ペガサス』と名のつくモンスターが存在すればライフを一度に4点も回復できる、ペガサス専用のサポート魔法。
JMSカップ優勝の実力は伊達じゃないって事か。
「あっという間に【天罰】の条件も満たしてきたな」
「それだけじゃないです。ライフを回復したので次のペガサスが来ます」
仮にも【聖天使】デッキを使うソラは、流石に気づいているか。
そして予想通り、早乙女さんは次なるペガサスを召喚してきた。
「次はこの子★ ライフを1点支払って、おいで〈コズミックペガサス・オリオン〉!」
自分のライフを2点以上回復したターンに、ライフを1点支払う。
その召喚条件を満たして、早乙女さんの場には機械仕掛けのような翼と身体を持った、大型のペガサスが姿を現した。
コスモ:ライフ9→8
〈コズミックペガサス・オリオン〉P7000 ヒット1
「ちょっと厄介だな」
「あのカードですか?」
俺が思わず口に出してしまった言葉に、ソラが反応する。
とは言ってもアレの厄介さは、すぐに分かるだろう。
手札の重要性を理解していれば尚更だ。
「いっくよー、〈オリオン〉の効果発動! コスモの場に『ペガサス』が召喚される度に、カードを1枚ドローして、自分のデッキを1枚破棄する」
「へぇ〜便利な効果……ってそれ〈オリオン〉自身の召喚でも発動するの!?」
「〈オリオン〉も『ペガサス』だから当然でーす★」
そう、召喚するだけで1ドローが確定しているんだ。
当然この後『ペガサス』を追加で召喚すれば、追加のドローもできる。
比較的手札を消耗しやすい【ペガサス型聖天使】にとっては必須のモンスターだ。
とはいえドロー後にデッキを1枚破棄してしまうので、それを活かせるか否かが腕の見せどころになるんだけど。
破棄されたカード:〈腐食錆〉
「藍のやつ、ちょっとラッキーだったな」
「今破棄されたカードですか?」
「あぁ。ライフ回復が得意な【聖天使】ではかなり使いやすい除去魔法だ」
にしても早乙女さん、結構ガチなカードデッキに入れてるのね。
俺としては〈腐食錆〉なんて、前の世界じゃ結構な頻度で見かけた汎用除去魔法だ。
あのカードはコストも条件もなくモンスターを破壊できるけど、破壊したモンスターのヒット分のダメージを受けるデメリットがある。
ライフ回復が得意な【聖天使】との相性は最高だ。
(知ってなのか知らずなのか。その答えに辿り着けるだけの力はあるって事か)
こりゃあ一筋縄で勝てる相手じゃないかもしれないぞ。
俺がそんな事を考えている最中も、早乙女さんのターンは進んでいく。
「コスモの場に『ペガサス』が2体いるから、墓地の〈ペガサスポーション〉の効果を発動! このターン〈ペガサスポーション〉を発動できなくなる代わりに、墓地から手札に戻しまーす★」
「使い回せる回復魔法なんだ……ちょっと面倒かも」
「じゃあコスモ、これ手札から捨てちゃいまーす★」
そう言うと早乙女さんは、手札に加えた〈ペガサスポーション〉をあっさりと墓地へ捨ててしまった。
生意気な挑発なんかじゃない。それは藍もすぐに理解したようであった。
そうだ。あれは歴としたルールによる動きだ。
発動に制限はかかっても、手札コストには制限がかかっていない。
「いっくよー★ キラキラ輝け天馬の翼! 星の海を駆け抜けて、コスモを勝利へ導いちゃえ! おいで〈【星海天馬】コズミック・ペガサス〉!」
白銀の翼を羽ばたかせて、早乙女さんの場に美しい毛並みのペガサスが姿を現す。
ソラも所持しているSRのモンスターだが、どうやらあっちはイラスト違いらしい。
ソラの使うペガサスとは異なり、鎧らしき装甲を身に纏っている。
〈【星海天馬】コズミック・ペガサス〉P13000 ヒット1
「わぁぁぁ。見てくださいツルギくん! お揃いですよ! 後輩さんとお揃いのSRですよ!」
「わかったわかった。嬉しいのはわかったから俺の身体を揺らすのやめてくれ」
どうやら後輩(仮)とお揃いのSRを使っている事が相当嬉しいらしい。
確かにこの世界じゃデッキタイプの一致まではあっても、SRの一致までは珍しいからな。
きっとソラのロマン的なものが刺激されたんだろう。
「『ペガサス』が召喚されたので、〈オリオン〉の効果で1枚ドローして1枚破棄しまーす★」
破棄されたカード:〈黒翼化〉
(あれ……今のカード)
ソラに揺らされていてよく見えなかったけど、今デッキから墓地へいったの〈黒翼化〉じゃなかったか?
もしそうだとすれば、早乙女さんも随分珍しいカードをデッキに採用してるもんだな。
「さらに〈コズミック・ペガサス〉の召喚時効果はっつどー★ 相手モンスターを1体墓地送りにしちゃいまーす! 〈ブイドッグ・剣改〉は退場してください★」
召喚時効果を合図にして、〈コズミック・ペガサス〉は頭部から生えた雄々しき一本角を容赦なく振り下ろす。
すると藍の場にいた〈ブイドッグ〉はあっさり両断されてしまい、墓地へと送られてしまった。
これで今度は、藍の方が盤面のカード0枚になってしまった訳だ。
「やるね〜」
「ありがとうございます! でもまだまだこんなもんじゃないですよ〜。〈オリオン〉の【天罰】で、コスモの場にいる『ペガサス』はみんな、元々のヒットが3になりまーす★」
「……うっそー」
ヒット1だったペガサス集団が、一瞬にしてヒット3にまで強化されてしまう。
ペガサス特有の打点不足もこれで解消されるという訳だ。
とはいえ相手する方からすれば厄介極まるのは事実。実際に今、藍が戦々恐々とした感情を顔に出している。
「さらに〈【星海天馬】コズミック・ペガサス〉の【天罰】で、味方の系統:《聖天使》のモンスター1体につきヒットを+1しちゃいまーす★」
〈【星海天馬】コズミック・ペガサス〉ヒット3→5
この世界基準だと凄まじいヒット数に成長した〈コズミック・ペガサス〉。
残りライフ5の藍が食らえば、一発で敗北が決まってしまう数字。
だけど……見たところ藍はこれで負ける気はないようだ。
アイツの眼に、弱気や諦めは欠片も浮かんでいない。
「アタックフェイズ! 〈コズミック・ペガサス〉で攻撃!」
「残念だけど、それは通さない! 墓地から魔法カード〈カサ乱舞地蔵!〉の【Vギア】を発動! モンスターの攻撃を無効化してカードを1枚ドロー」
藍の墓地から飛び出てきた無数の笠が、ペガサスの一撃を防いでしまう。
だがまだまだ早乙女さんの場には攻撃可能なモンスターが残っている。
その上〈コズミック・ペガサス〉には専用能力もある。
「〈コズミック・ペガサス〉で2回攻撃★」
「本来持ってない能力……って事は【星紡】で!?」
「正解でーす♪ 〈マイナ〉の【天罰】から【2回攻撃】をコピーしました★」
そう。味方の【天罰】をコピーして自分が使用する〈コズミック・ペガサス〉専用能力【星紡】だ。
これで〈コズミック・ペガサス〉はヒット5を維持したまま、もう一度攻撃が可能となる。
早乙女の攻撃指示を受けたペガサスは、その一本角を光らせて藍に襲いかかる。
「これを受けたら藍ちゃんの負けですよ」
「うーん、意外と大丈夫だと思うな」
隣で心配しているソラに反して、俺はどうしてもそう思ってしまう。
何故ならさっきまで藍の場にいたモンスター〈ブイドッグ・剣改〉。
あのカードがもうあるのであれば、その仲間達がいてもおかしくない。
「アタシは手札から〈ブイモンキー・鏡改〉の効果を発動!」
藍が手札からモンスターカードを捨てると、襲いかかってくるペガサスの前に、大きな鏡を装備した猿型モンスターが現れた。
やっぱり持っていたか。
「このカードを手札から捨てる事で、次にアタシが戦闘によって受けるダメージは全部相手に跳ね返る!」
ヒット5の〈コズミック・ペガサス〉の攻撃エネルギーは、〈ブイモンキー〉の持つ大きな鏡に吸い込まれていく。
そして吸収されたエネルギーはそのまま、早乙女さんへと跳ね返された。
これで早乙女さんのライフに5点のダメージが入る。そうなれば【天罰】も解除されて、一気に形勢逆転だ。
「魔法カード〈エンコードポーション〉を発動。効果ダメージを0に減らしてライフを3点回復」
だが早乙女さんも中々やるようで。
反射ダメージを上手く回避して、自分にライフを回復までしてきた。
コスモ:ライフ8→11
「……〈ブイモンキー・鏡改〉の【Vギア】で、カードを1枚ドロー」
流石に今の反射ダメージを躱されたのは、藍も悔しかったらしい。
正直俺もこの展開は予想してなかったし、隣にいるソラはキラキラと目を輝かせている。
多分【聖天使】デッキでここまで上手く立ち回れる人と遭遇できて嬉しいんだろう。
「続けて〈マイナ〉で攻撃★」
コピー元の【2回攻撃】の持ち主、小柄なペガサスである〈マイナ〉が藍に攻撃を仕掛ける。
ヒットも〈オリオン〉の効果で3になっており、この連撃をまともに食らえば今度こそ藍の負けだ。
「だったらこれ! 魔法カード〈勝利のお札-1、2、3-〉を発動。墓地に同名カードが1枚あるから、効果で〈コズミックペガサス・オリオン〉を手札に戻す!」
藍の発動した魔法カードから、二枚目のお札が飛び出して〈オリオン〉の身体に貼り付く。
魔法カード〈勝利のお札-1、2、3-〉は、墓地に存在する同名カードの枚数によって効果が変化する。
墓地に存在する同名カードが0枚なら相手モンスターの攻撃を1回無効化し、1枚なら相手モンスターを1体手札に戻す。
「ありゃ、おかえり」
お札の効果で手札に戻された〈オリオン〉を手にして、早乙女さんはどこか抜けたような口調で呟いている。
だがこれによって、攻撃中の〈マイナ〉のヒットは1に戻った。
「その攻撃はライフで受ける!」
藍:ライフ5→4
小柄なペガサス体当たりを受けて、藍のライフは削られてしまう。
だが〈マイナ〉のヒット1に戻ってしまった以上、早乙女さんは普通に追撃しても藍にトドメを刺せない。
後は早乙女さんの手札に最適解が無いことを祈るばかりだ。
「う〜ん、2回攻撃の効果で〈マイナ〉を回復……ブロッカーは用意しておきたいし、コスモはこれでターンエンド★」
コスモ:ライフ11 手札5枚
場:〈【星海天馬】コズミック・ペガサス〉〈コズミックペガサス・マイナ〉
下手に追撃をかけず、ブロック可能なモンスターを残してターンを返したのは上手いな。
どうやら俺の想像以上に実力は本物らしい。
だけど少し気になるのは……良くも悪くも動じている様子が無いことくらいか。
(ライフは初期値を上回る数値まで回復できた。手札もそこそこあるし、モンスターの数もある……だけどそれだけ)
防御は出来ても、攻めに欠けている。
特に今の早乙女さんの場にいるモンスターは全て、破壊耐性の類を持っていない。
決して余裕風を吹かせられる状況とは言い難い筈なんだ。
それはJMSを優勝できる程度の実力を持つ人間なら理解できない筈がない。
(なのにあの子……えらく余裕だな)
俺達が観客席に座った時からそうだ。
早乙女さんはずっとニコニコと笑顔を浮かべ続けている。
それはある種のビジネススマイルなのかもしれない……いや、見方を変えれば慢心のそれなのかもしれない。
だけど慢心だとすれば色々と腑に落ちない。相手の実力くらい、早乙女さんならある程度察しもつくと思う。
じゃあ、あの余裕はなんだ?
慢心でも、単純な演技でもないなら……あれはまるで……
(遊んでる……ファイトに勝敗そのものに興味がないのか?)
そんな推測が、俺の頭の中に浮かび上がって仕方なかった。




