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俺がカードゲームで無双できる都合のいい世界 〜カードゲームアニメの世界に転移したけど、前の世界のカード持ち込めたので好き放題します〜  作者: 鴨山 兄助
第十章:文化祭編

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第二百五十話:ソラと文化祭

 ソラと一緒に文化祭を回る事になった。

 あくまで巡回という仕事の最中ではあるが、結局トラブルが起きない限り普通に文化祭を楽しむソレである。

 だからなのか、ただそれなのにか……色々と頭の中でグチャグチャになってしまう。


「…………」


 沈黙は俺だけではなくソラも同じ。

 耳に入るのは外気の音と文化祭の喧騒ばかり。

 自分の心音なんて気のせいという事にしておきたい。


(別に……二人きりなんて初めてじゃないのにな)


 転移直後の中学時代から現在まで、ソラと二人でどこかへ遊びに行くなんて何度かあった事だ。

 だからこんな状況、本来なら今更と言われても仕方がない。

 それでも変な緊張や沈黙が生まれてしまうのは、俺から誘ったせいなのか。

 あるいは文化祭という空気感がそうしているのか。

 カードのようにテキストで明文化されていない物事は、自分自身の事でも分からないものである。


「……こういう感じのは、初めて、でしゅねっ!」

「そうだな……いや、そうかな?」


 ソラの方から会話を切り出してくれたのはありがたいけど、そうかな?

 中学の時には水族館に行ったし、一緒にサーガタワーへ三神(みかみ)博士に会いに行ったし、それ以降もカードショップなら何度も一緒に行ってるし。


「その、カードショップとは関係ないイベントで、こう……一緒なのは初めてだなぁって」

「……そうかなぁ?」


 本当にそうかな? 確かにここカードショップではないけど、カードゲームの専門学校だぞ。

 そこまで特筆して別物扱いして良いのかな?

 というかソラさん今さらっと水族館をカードショップ扱いしたな。確かに館内にカードショップもあったし、イルカショーではイルカの背に乗って飼育員がファイトをしていたけど。

 ウチの文化祭も似たようなものだと思うんだが……この世界的には別物になるのか?


「でもまぁ、こうしてのんびり二人で歩くのって初めてだと思うんです」

「確かにそうかもな。一応仕事中とはいえファイト目的でどこかへ向かっているわけでもないし」

「はい。でもそれでいいんです」


 そう言う頃には、ソラも俺もいつもの調子に戻っているような気がした。

 変に気を張りすぎたのかもしれない。少し状況が風変わりなだけで、何も変な事はないんだ。

 いつも通りでいい。それでいいんだ。


「そういえばソラ。エオストーレは別行動なのか?」

「はい。今日は化神のみんなでワイワイしたいそうです」

「そっか。仲がいいなら結構な事だな」

「流石に今日は〈聖なる魔剤〉を没収してますけどね」


 そっかー、あの魔剤中毒大天使から魔剤没収済みなのかー。

 後で変な奇行に走ってなきゃ良いんだけど……万が一の時はカーバンクル達にどうにかしてもらおう。


「ツルギくん、せっかくですから模擬店見て回りましょう!」

「それは別に良いけど……どうせ仕事で顔覗かせなきゃだし」


 なんてやり取りをした直後、どこからか「くぅ〜」と可愛らしい腹の音が聞こえてきた。

 なるほど、そういう事か。


「あ……あうぅ……」

「飯、買おっか」


 顔を真っ赤にしながら、ソラは消え入りそうな声で「はい」と言って頷く。

 こんな光景も、随分と見慣れた一ページになってしまった。

 長いこと近くで見ていたからだろう。近くに居続けたからなんだろう。

 ソラの色んな表情を見てきて、一緒に笑うようになったのは、きっとその結果なんだ。


「じゃあ私、回転焼き買ってきますね」

「名称変えようとしてたら呼んでくれ。俺がもう一度〆上げるから」

「大丈夫です。その時は私が代わりにファイトしますから!」


 ソラも逞しくなったなぁ。

 俺は回転焼きの模擬店へと向かっていくソラの背中を見届けながら、そんな事を思ってしまう。


「すみませーん! 回転焼きを1カートンください」


 本当に逞しいねキミ。

 回転焼きをカートン単位で注文する人初めて見たよ。

 というか回転焼きのカートンって何個だよ。


「お待たせしました」


 少し待っていると、大きな紙袋を抱えたソラがトテトテと駆け寄ってきた。

 この絵面も見慣れたものである。


「なぁソラ、回転焼きって1カートン何個だったんだ?」

「20個でしたよ」

「あぁ……鉄板の穴の数か」


 要するに一度に焼ける上限いっぱいの個数を注文したのね。

 それにしても回転焼き20個って、普通なら絶対食い切れないぞ。

 ソラなら余裕で完食するんだろうけどな。


「はい、ツルギくん」


 紙袋に詰め込まれたカートン買いの産物に意識を持っていかれていると、ソラは紙袋の中から回転焼きを一つ取り出して、俺に差し出してきた。


「えっ、俺?」

「あたりまえですよ。流石に全部は無理です」


 それはカートン買いした人間の言うセリフか?

 俺はソラに差し出された回転焼きを受け取りながら、思わずそんな事を考えてしまう。

 というか、この量で全部無理?


「ソラ、もしかして食べる量減った?」

「あはは、実はそうなんです。エオストーレが目覚めた途端こうなってしまいまして」


 そうだったのか。

 というか以前少し頭を過った『ソラの暴飲暴食で出たエネルギーをエオストーレが吸収している』という疑惑は的中していたという事か。

 そりゃあ休眠状態の化神を目覚めさせる程のエネルギーだもんな。いっぱい食べなきゃダメだよな。


「……いや待てソラ」

「はむはむ、ふみゅ?」

「そんなに食べて大丈夫なのか? その、明日の衣装とか」


 既にエオストーレが目覚めている以上、以前のようにエネルギーを吸収されるわけではないだろうに。

 そんな状態で大量の回転焼きをパクパクしたら、衣装が入らなくなるのではないか?


「ごくん。大丈夫ですよ、私衣装合わせの直前なんてもっと食べてましたよ」

「もっ……と?」

「はい。食べても太らない体質なのは元からだったみたいです。だからこのくらいの食事量なんてへっちゃらですよ」


 ちなみにソラ曰く、何の問題もなく衣装が入った瞬間、アイはかなりショックを受けたような顔をしていたらしい。

 そりゃあアイは体型維持の大変さは一番よく理解しているだろうし、当たり前の反応ではあるだろうな。

 とりあえず俺からは、色んな意味で「マジかよ」という言葉を送りたい。


「ん。結構美味いなこれ」

「ですね〜。ついパクパク食べちゃいます」


 そうだな。

 だけどなソラ、回転焼きってのは普通二、三口でパクパク食うものじゃないと思うぞ。

 食べ方が完全にスナック菓子のそれなんだよ。


 トラブルらしいトラブルの足音も聞こえず、俺はソラと一緒に文化祭の学内を歩いている。

 ただの日常、ただの青春、ただの小さなお祭り事。

 それだけの事でしかない筈なのに、自分の中で何か軽くなっていくものを感じてしまう。


「羽、休めそうですか?」


 ふと、ソラが俺の顔を覗き込みながら、そう問いかけてきた。


「一応俺ら仕事中なんだけど」

「それでもです。ツルギくん、ここ最近は色々と……戦ってばかりでしたから。だから今くらいのんびりして欲しいんです」


 ソラに言われて、改めて自分の歩みを振り返ってみる。

 確かに入学してからというもの、ウイルス事件周りでずっと忙しかった。

 特に夏休み辺りからはずっと、気を張り続けていたような気がする。

 実際ランキング戦の直前に、ソラから似たような事を言われてしまったもんな。


「羽休めかぁ、少し忘れてたかもしれない」

「じゃあ今日は少しでも羽を休めちゃいましょう。私はツルギくんに、ちゃんと弱音も言って欲しいですから」


 また言われてしまった。

 だけど、それで良いのかもしれない。

 誰かに心を許すってのは、こういう言葉を受け止める事なんだと思う。

 本当は今でも来年度の事に思考を割いた方が良いんだろうけど……今だけは少し休もう。


「今だけは、歩みを緩めてもいいのかな」

「はい、今だけはゆっくりで良いんです。でないとツルギくん……いつか本当にいなくなっちゃいそうで」


 壊れるでもなく、いなくなるか。

 ソラが言葉の裏に何を含めているのか、いくつか想像はつくけど推測でしかない。

 だけどそれ以上に、俺にとっては「いなくなる」という言葉が引っかかってしまった。


(俺は……いつまでこの世界に居られるんだろうか)


 ある日突然この世界に転移した。

 だったらその逆が無いとも言い切れない。

 仮にこの世界に居続けられるとしても、転移者という秘密が露呈した時を想像すると『恐れ』を感じてしまう。

 そうなればソラ達は『いなくなる』のだろうか……それが怖くて堪らない自分がいる。


「……いなくならねーよ。自分から消える気はないから」


 だから安心してくれ。

 それはソラに向けてであり、自分自身に向けての暗示のような言葉。

 確証なんてないけれど、そうあって欲しいという俺の願望の現れなのかもしれない。


「そういえば、今日は化神達誰も眠ってないな」

「そうですね。前よりは眠らなくなってるんですよね?」

「多分例のウイルスの影響だとは思うんだけどなぁ。今でもたまに眠っちゃう事あるし」


 俺がそう言うとソラは回転焼きを頬張りながら「私達だけじゃ答えに辿り着けないですね〜」と返してくる。

 だけどソラの反応を耳にして、俺はある事を思い出した。


「そうだ、三神博士! あの人は化神の研究をしていたって言ってたはず」

「実は私も同じ事を思って、三神おじさんにメールで聞いてみたんですけど……」


 申し訳そうにしながら、ソラは三神博士からの返信はまだ来ていないと告げてきた。


「来年には赤土(あかど)町で世界大会のWUCSもありますし。三神おじさん、すごく忙しいのかもしれません」

「確かに、仮にもUFコーポレーションの博士だもんな。サーガタワーのある町が大会の舞台じゃあ、色々研究調査とかで忙しくても納得だよなぁ」


 せっかくエオストーレも目覚めた事だし、俺としては近いうちに博士会いたいんだよな。

 化神のみんなを紹介したいし、例のウイルスについても博士からの見解とか聞いてみたいし。


(あの人、本当にソラの事を気にかけていたからなぁ……逞しくなったソラの姿を見て、ちょっとでも安心して欲しいよ)


 今度試しに、俺の方から連絡入れてみようかな。

 なんて流石に迷惑かな。

 連絡入れるにしても、世界大会が落ち着いてからの方が良いかもしれない。

 その時にはソラにチームの優勝トロフィーでも持たせた状態で会いに行こうかな。ちょっとビックリさせてやろう。


「段々と中学生っぽい一般客も増えてきたな」

「きっと進学希望の人達ですね。みなさんチャレンジファイトコーナーの方へ向かってます」


 ソラの言う通り、中学生らしき一般客達は皆同じ方へと向かっている。

 その方向にあるのは在校生に挑戦できるチャレンジファイトコーナーだ。

 何故中学生は皆そちらに向かうのか、この答えは単純なものだったりする。

 在校生とは未来の先輩でもある。ならば入学後は戦うべき相手にもなるという事だ。

 そして毎年、受験希望者はチャレンジファイトの催しを利用して、今現在の自分がどれだけ在校生に通用するのかを試しにくる。

 ちなみにこれは全部、牙丸(きばまる)先輩と黒崎先輩からの受け売りだ。


「ツルギくん、ちょっと見に行きませんか?」

「行くか、未来の後輩候補のファイトを見てみたい」


 そしてあわよくば観客席で腕組みしながら「面白いルーキーだな。新年度が楽しみだ」的な事を言ってみたい。

 なんてロマンを脳内に描きながら、俺はソラと一緒にチャレンジファイトコーナーへと向かうのだった。


「在校生側って誰がファイトしてるんでしょうね?」

「一応希望者は誰でも在校生側で参加できるルールなんだよな。挑戦者側が勝てば、倒した在校生のクラスや学年に応じた景品が貰えるんだって」


 移動中にチャレンジファイトのルールについてソラと話す。

 聞くところによると景品もピンキリとの事。

 例えばEクラスに勝った場合、景品はちょっとした記念グッズ。

 対してAクラスやSクラスに勝つ事ができれば、文化祭の出し物とは思えない豪華景品になるシステムだ。


「Sクラスに勝った時って、どんな景品になるんですか?」

「たしかUFJの年間パス。しかも5万円以上するスーパーロイヤル仕様のを学園長の自腹で出すんだってさ」

「景品、自腹なんですか……」


 そうなんだよ。何故か上位の景品は学園長の自腹という事になってるんだ。

 学校の予算を引き出せなかったのか、単にSクラスの在校生が負けるわけないと高を括っているだけなのか。

 俺にはよく分からん。


「あれ? でもこれって、もしも六帝評議会の人に勝てた場合はどんな景品になるんですか?」

「あぁそれ、一応帝王に勝てた時のパターンも用意されてたぞ」


 一回だけ目を通したチャレンジファイトの景品一覧に書いてあった。

 まさか六帝評議会という独立した項目があるとは思わなかったぞ。


「評議会メンバーに勝てた場合……高級ゲーミングPCと4K画質対応27型ワイドモニターのセットだ。学園長が自腹で購入し後日送付するんだって」

「学園長さん、負けるわけないって高を括りすぎじゃないですか?」


 仰る通りでございます。

 いっその事、誰かわざと負けて学園長の財布に強烈なダイレクトアタックをかましても良いんじゃないか?

 そうすれば良い薬になると思うぞ。


「おっ、やってるやってる」


 学園の敷地内にあるグランドに作られた、専用のファイトステージと観客席。

 既に挑戦者と観戦者で大盛況である。

 ひとまず俺とソラは観客席へと向かい、現在行われているファイトを見る事にした。


「試合の途中みたいですね」

「だな。在校生側は誰がファイトして……」


 適当に席に座ってファイトステージに目を向けた瞬間、俺とソラは揃って一瞬言葉を失ってしまった。

 そして次に喉から捻り出せた言葉はというと……


「「……あっ」」


 これである。

 何故なら在校生側に立ってファイトをしているのは、俺達があまりにもよく知っている赤髪の女の子。


「あっちゃー、止められちゃったか。ターンエンド!」


 六帝評議会序列第5位【炎帝(えんてい)武井(ぶい)(らん)であった。

 なにやってんだアイツは。


「藍ちゃん……絶対チャレンジファイトコーナーの近くを通った瞬間に入って行ってますよね」

「だろうな。ファイトの匂いを感じた瞬間に巡回の仕事なんて頭の中から抜け落ちてるだろ」


 行動原理の分かりやすいカードゲームアニメの主人公め。

 というかよく見たら藍のライフは現在5で【Vギア】の条件を満たしている。

 その状態でターンを終えたって事は、挑戦者は藍の猛攻を耐え抜いたという事か。

 流石にどんなファイターなのか気になってしまい、俺は挑戦者の方へと目を向けてみる。


「……あっ、あの子!」

「えっ!? ツルギくん、あの子ってもしかして!?」


 ソラも気づいたらしく、少しテンション高めで俺の背中や肩をパシパシと叩いてくる。

 でもその気持ちはよく理解できるし、観客席の人々も挑戦者の女の子に注目が移っているように感じる。


「あぶないあぶない。盤面がら空きになっちゃったからドキドキしちゃった」


 言葉は焦り表現していても、顔はそれを表していない。

 白に近い灰色の髪に、青いメッシュとインナーカラーが見える、イマドキなお洒落をしている女の子。

 俺はその子に見覚えがあった。というかこの前偶然にも直接会った。


「早乙女、コスモ」

「コスモちゃんだ〜」


 隣の席に座るソラが珍しく目を輝かせながら、挑戦者の子の名前を口にしている。

 早乙女コスモ。

 藍と戦っているのは、ソラと同じく系統:《聖天使》のデッキを使ってJMSカップを優勝した、配信者の女の子だった。

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