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ソウゾウ楽園  作者: 金曜の夜まで雨
20/21

20.出会い⑨

 


「本当によかったよなぁ」

「本当になっ!あの集団の中にいたら、地獄を経験することになっていただろうぜ」


 教室に戻る途中の廊下で、そう話す5人組の生徒とすれ違った。この階で授業を行なっていたのが[E2]の教室しかないことから、同じクラスの生徒であることが断定できた。声に出していた「本当によかった」というのはチームが決まったことに対する気持ちなのだろう。その一言からだけでも、教室の様子がなんとなく想像できる。

 僕が教室から出たときには、口論のようなものが始まっていたからな。それから少し時間が経った今は、どんな雰囲気になっているのか興味が出てきたな。


 すでにチームの決まった人間にとってチームを作るため必死になる人間を見るのは、人を見下せる気分が味わえて自己肯定感が得られるものになるだろう。もしかしたら、その気分を味わいたくてチームが決まっても教室に残っている生徒がいるかもしれないな。


 教室後ろの扉には3人の生徒が集まって話していた。それはセカイも話したことがある、マチとリハン、それにキーヴァの姿だった。マチとリハンの2人が一緒にいることは、不愉快ではあるが予想をすることはできた。しかし、まだ紹介もしていないキーヴァと一緒にいることは予想することができなく、衝撃であった。


 チーム作りを任せたにしては、キーヴァと接触するのが早いな。僕と話していたところを見て、チームに誘ったのではないかと考えての接触だったのだろうけど、紹介を待つくらいの余裕もなかったのか?

 そういった疑問を抱きつつ、ヨミのことを話そうと近づく。逸早く気がついたマチが駆け足で近寄ってくる。まるで、子犬が駆け寄ってくるかのような姿に頬が緩んでしまう。


「セカイくん、もう一人の……ヨミくんだったっけ?どうだった?やっぱり、誘うのは無理だったかな」


 ヨミという名はキーヴァから聞いていたのだろう。そして、教室から出て行った目的がヨミをチームに誘うことだとも。さっきすれ違った生徒の反応を見れば、チームを組むことがそれだけ重要なのかは理解しているつもりだったが、ここまで頑張ってきたことに対して労いの言葉をかけてくれても良かったのではないかと気持ちがあった。


「いや、ヨミを誘うことは出来たよ。出来たは出来たんだけど……チームにどこまで協力してくれるかは分からないかな」


 ここで言う協力は、クラスの昇格に協力してくれるということではなく、チームとして戦うことに協力してくれるかという意味で言った。

 ヨミは大会に参加するために、仕方なくチームを作る選択を取った。チームを組まなくとも大会に参加できるルールであったのならば、ヨミは迷うことなく、一人で参加していただろう。そして、チームを組むときには、自分の足手纏いにならないくらいの実力者を探していた。ということは、ヨミは1人で戦うつもりでいるわけだ。

 僕としては別に構わないのだけれど、他のチームメイトが同じ意見だとは限らない。後々、衝突が起こってしまうくらいならば、ここで了承してもらおうと考えたわけだ。ふふっ、素晴らしい。ここ数日で確実に対人スキルが成長しているじゃないか。


「それは不安だけど、まずはチームを無事に組めたことを喜ぶべきじゃないか?どうかな、2人は」

「自分は大丈夫っす。ヨミさんのこと、信じてますから」

「そ、そうだよね。ヨミくんとも話をしたかったんだけど、リハンくんの言う通り、今は喜ばないとね……本当に、良かった」


 ヨミが勝手することを了承したわけではなく、マチとリハンの2人はヨミと実際に会ってから考えようと後回しにするみたいだ。まぁ、そう簡単に僕の思い通りにはならないってわけか。そんなことよりも、リハンのクソ野郎め、組めたことを喜ぶ前に感謝を伝える相手がいるんじゃないか?……もちろん、それは僕のことなんだけど。

 感謝というのは、人の気持ちが表に現れる。そのため感謝を表す表情や仕草、タイミングから相手にどんな思いを抱いているのかが推測しやすい。ただ、自分が気持ちよくなりたいがために感謝を欲しがっているのではなく、マチの気持ちを確認してみたかったのだが、感謝自体をされないというのは想定外だった。


 喜ぼうとかいう流れにしやがって、と適当な理由をつけてリハンに負の念を力の限り送る。


「ところで、どうしてみんなは廊下にいるの?」


 流れを変えるため、別の話題を振る。


「教室の中だと騒がしくて会話すら碌に出来なかったから、廊下に出ようって提案したんす」

「廊下は教室と違って静かだったから、おかげでキーヴァくんのことをたくさん知れたし、廊下に出て良かったよ」

「いえ、マチさんが自分のこと誘ってくれたからっすよ」


 キーヴァを誘ったのはマチか。

 早めに仲を深めておきたいって気持ちがあったんだろうが、そのせいで感謝をされる機会が減ってしまったことを考えると、マチの行動を素直に受け入れることができなかった。


「それは良かった」


 どれだけ取り繕っていたとしても、セカイにはそう返すことしかできなかった。


「この後、紙に生徒番号と名前を書いて先生に提出しにいかなくちゃいけないんだけど、これは私がやっておくよ。まだ私、チームのために何もやってないし。だから、みんなの生徒番号を教えてもらえない?」

「ちょっと、待ってくれ。それなら、俺も手伝わないといけないはずだ」


 キーヴァも同じ気持ちのようで、力強く頷く。

 何もやっていないマチが一人で役割を持とうとするのなら、同じく何もやっていない2人が協力を申し出るのは当然のことだ。


「ううん、大丈夫だから。先に自由時間を楽しんでよ」


 そんな2人の申し出を拒むように、両手で制する。


 入学したばかりということもあり、2日間は自由時間が多く設けられている。初日の自由時間は校内限定のもので、単に新入生が学校生活に慣れるためのものではなく、強化活動を見学する時間として活用するために設けられている。強化活動とは剣術や弓術など能力戦闘とは別のサブスキルを鍛える活動のことをいう。

 セカイのような能力だけで完結している生徒には必要のない技術のように思えるが、戦闘手段を身につけておくことは、命を奪い合う場において無駄になることはないだろう。それに、強化活動を通じて他クラスや上級生と関わる機会が増えるというメリットも存在する。様々な生徒と関わっておけば、学校での情報が入手しやすくなるのはもちろんのこと、将来の貴族として人脈の拡大を望める。そして、人脈が広いということはそれだけでも武器になり得ることがある……。

 そういった数々のメリットから強化活動への参加は自由でありながら、ほとんどの生徒が自分のために参加することを望んでいる。


 参加することにメリットしかないのなら、そうなることも当たり前なのかもな。


「そ、そうっすか。マチさんが、そういうなら任せるっす」

「……そうか、いや、だが」


 キーヴァはマチの断るときの仕草から自分達を拒絶している空気を感じ取ったのか、これ以上は踏み込まないようにしたようだ。リハンもマチの様子に違和感を抱いているようだが、どうしても一人に押しつけることに抵抗があるのか、粘り続けようとしている。……その粘り強さを僕の時にも発揮してもらいたかったものだ。


「気持ちはありがたいけど、本当に大丈夫だから」


 そう言って、作り笑いを浮かべると、ゆっくりと距離が離れていく。

 ここまで離れようとするところを見ると、僕らの誰かが余程嫌いなのかもしれないな。それか、不自然さを感じさせてもいいくらい一人になりたい事情があるのか。どちらにせよ、あまりしつこい態度はマチのことを困らせかねない。


「マチもこう言っているんだし、任せてみようよ」


 ここで任せたところで、ムンに報告しなかったり、紙に別人を書いたりするような暴挙には出ないだろう。もし、そんな行動をとったところで犯人は明らかだしな。


「あ、あぁ、わかった。わかったよ。……任せる」

「ありがとう、我儘言ってごめんなさい」


 そういうと、こっちを気にする素振りもなく早足で去っていった。「あれ、生徒番号は教えなくてもよかったの?」という疑問を口にする暇すらなかった。


 リハンがここまで引き下がらなかった理由がなんなのかは分からないが、今回はいい働きをしてくれた。僕たちと離れたがっていたマチに最後まで引き下がらなかったこいつの印象にはしつこさが残るはずだ。そして、リハンを引き剥がした僕の功績は大きいと考えられる。いい最後を迎えられたな。


 マチがいないのならば、こいつらと一緒にいても意味がない。


「じゃ、僕ももう行くね」


 サッと手を挙げ、2人から離れる。


「あぁ、またな」

「あ、お疲れ様っす」


 2人から言葉が返ってくる。

 ……僕のことは少しも引き止めようとしないんだな。


 別に引き止められたい願望はなかったが、ここまで対応の差があると、もしかして嫌われているんじゃないかという不安が残った。



 ***



 授業の行われていた講義棟から出たときに襲われる風で、身を縮こませる。


「さてと……」


 セカイには、昨日の夜からずっと気になっていることがあった。それは、学校で話も出来ずに別れることになったミツネのことだった。決して、貴族の学校で平民がやっていけるかという心配から気になっているわけではない。

 あいつは今、僕が命を握っている状態だ。そんな命を賭けている人間が学校なんていう自由の少ない場所を利用して逃げるなんてことも考えられる。だから、暮らしている寮くらいは把握しようと自由時間に会っておきたかったんだけど……。Aクラスの授業が行われている講義棟が分からないな。


 入学時に配られた強化活動案内図によると、この学校は大きく4つのエリアに分けられている。生徒の暮らす寮がある居住エリア、チームを報告しに行く職員室がある職員エリア、体を動かすための施設が多くあり強化活動が行われている技術エリア、そして、セカイが今いる場所で講義棟のある学術エリアの4つみたいだ。


 強化活動の案内図ということで活動が行われている技術エリアしか詳しく記されておらず、目的の場所である学術エリアの情報はほとんど得られなかった。しかし、ここが学術エリアという情報が得られているため、この近くに目的の場所があることには違いない。そういった中途半端な情報により、下手に動くことができずに建物周りをウロウロしていた。ここを歩くことで、偶然ミツネと出会える可能性を信じて。


 なんて、何かを考えることもなく適当に学術エリアを彷徨いていると、近くの建物から上級生が数人出てくきた。おそらく、強化活動のために技術エリアに行こうとしているのだろうが、迷いもなく目的の場所にまで一直線に向かっていた。

 ……そうだ、上級生なら校内のことをよく知っているかもな。そう考え、集団を離れた一人の女子生徒に声をかける。


「あの、少し時間いいですかね?場所を聞きたいんですけど……」

「え?……何。いきなり、道を聞いてくるなんて……もしかして誘ってんじゃないでしょうね。気持ち悪いから話しかけないでくんない?」

「いや、ちょっと」


 話しかけられたことに対し、嫌悪感を隠すこともなく表情に出し、セカイから逃げるように距離を取った後、「最悪、低能なんかにワンチャンあるって思われるとか」と耳に入るように吐き捨て、睨みつけられた。


 ……。


 近くにある窓で自分の姿を確認する。……別に気持ち悪がられる見た目はしてないと思うけど、なぁ。しかも口説いていると思われたし。まぁ、確かに下心がなかったと言えば嘘になるけど、そんなに拒絶することか?……やっぱり顔が微妙だからか?いや、そんなわけない。たまたま僕の顔が好みじゃなかっただけだ。


 そう考え、再度、道を尋ねようと上級生の女子生徒に話しかけ続けたが、反応は同じようなものだった。流石に、最初に話しかけた人みたいな明確な拒絶はなかったが、聞こえなかったフリで無視をされたり、どう考えても嘘の場所を教えられたりと散々な目にあった。おかげで、セカイの心はポッキリと折れていた。


 これは、僕の見た目がどうのといった問題じゃない。……ムンの言っていたことはこういうことだったのか。これが、Eクラスから昇格するための理由。どうして僕がEクラスだとバレたのかは知らないけど、こんなんじゃ理想の学校生活なんて程遠いぞ。僕にとっても貴族にとっても、昇格するために足掻く燃料として、これ以上ないものだな。


 近くのベンチに座り込む。目の前を歩く生徒からは、クスクスと嘲笑の的にされていることが分かる。寂しいといった感情はない。ただ、こんな一人でベンチに座る姿を自分自身が嘲笑ってしまいそうになる。

 はぁ、と深めの溜息を吐いて、背もたれにもたれかかる。


「あれ、セカイ君?こんなところでどうしたの?」


 そんな、気を落ち着かせるために空を見上げていたセカイに向かって、親しげに話しかけてくる人物がいた。誰かに話しかけられるのを心の中では望んでいたのか、すぐさま顔を向けると、そこには不思議そうにしているニーナの姿があった。

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