17.出会い⑥
「あぁ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕はセカイ、同じクラスだし仲良くしてくれたら嬉しいな」
相手の名前を聞くには、まず自分からだよな。
男の方は向かずに自己紹介をする。そうすることで、お前には用がないからすっこんでろと遠回しに伝えた。ここでこの男も自己紹介をしだすものなら、女の子と仲良くなってもセットでついてくる流れを止めることができなくなってしまう。
「私はマチっていうの、よろしくね」
「俺は「マチか、可愛らしくていい名前だね」……え?」
おっと、危ない危ない。
いやー、いきなり女の子と仲良くなれるなんて今日はいい日だなー。
マチの視界に男が映らないように、体を移動させる。
「えっと……」
「そういえば、さっき教室に戻ってきたみたいだけど、もう面談は受けたの?」
「……う、うん。さっき受けてきたばっかりなの」
チラチラとセカイの後ろを気にするような素振りをしているが、断固として触れられないように矢継ぎ早に質問をする。
「教室には他の生徒と一緒みたいだったけど、もしかして仲が良かったりするの?」
「え……?全然、違うよ。タイミングが丁度合っただけだから、名前だって知らないし。トイレでも行ってたのかな?」
少しの間、マチの目を覗く。
「ど、どうしたの?」
「いや、何でもないよ。それで、面接ではどんな話をしたの?」
「お、おい」
マチが顎に手を当て、思い出すように考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「えっとね……能力で何が出来るのか質問されて、どういうタイプの能力なのかを判断された、かな」
「ちなみに、マチは何のタイプって判断されたの?……あ、言いたくなければ言わなくていいからね」
ポケットから札のようなものを取り出して、何かを確認するような素振りをする。
「私は支援型能力だって。私の能力って……ねぇセカイ君、流石に可哀想じゃ……」
その札が何なのか聞きたかったが、マチのことまで無視するわけにはいかないため、後ろをゆっくりと振り返ると、手を広げて力の限りにアピールしている男がいた。後ろでこんなことをされていたのなら、会話を切ってでも触れようとしたことに納得ができる。
「あぁ、ごめん。君の名前も教えてくれない?」
ここで無視しようものなら、マチからの印象が悪化することは避けられない。自らが先陣を切って聞くことに意味がある。
「君って絶対に性格悪いだろ」
乱れていた左右非対称の髪を整えながら、見えている片方の目で睨みつけてくる。
「いや、ついつい話に夢中になっちゃって。本当にごめん」
鼻の前で両手を合わせて謝る。
「そ、そうなの。ごめんなさい、無視するつもりじゃなくて。よかったら、あなたの名前も教えてくれない?」
聞く態勢はできていると言わんばかりに、セカイの隣の席に腰をかける。それを見て、セカイも椅子を引いて着席する。
「いや、あんたのことは何とも思ってないよ。俺は、その、リハンっていうんだ。マチさん……それとセカイよろしく」
ついでみたいな言い方、僕は良く見られていないみたいだ。まぁ、これも自業自得ではあるけどな。
「うん、こちらこそ」
「よろしく、リハン」
こうなったのならば仕方がない。表面上は仲良くしつつ、評価を下げさせる行動をするように誘導させてもらおう。
セカイは心の中で笑みを浮かべる。
「私、知り合いがいなくて不安だったけど、2人と友達になれてよかったよ」
「いや、知り合いって言ったらルームメイトがいるじゃないか。俺の場合は、他の3人の仲が良くて間に入れなかったから1人でいるんだが、マチさんはそういうタイプでもなさそうだし」
リハンが疑問を口にすると、マチが俯き黙り込む。すぐさま自らの過ちに気付いたリハンは、焦りながらも非を正そうとする。
「あ、あぁ、いやいや。まだ出会ったばかりなのに分かったような口を聞いてごめん。人には言えないことってあるもんな、ははっ」
空気感を誤魔化すような乾いた笑いが耳に残る。
リハンの評価を下げるなら今!という瞬間が訪れる。正直、このリハンを責めるような言葉はいくらでも思いつく。しかし、セカイは思いついた言葉を口に出すことはなかった。
……別にリハンに同情したわけでなはい。
「ううん、ごめんね。こんな空気にしちゃって、私は大丈夫だから」
「いや、うん。大丈夫ならいいんだ」
なんか居心地が悪いなと思っているところに、扉が開く音がした。ヨミの面談が終わったのだろうと、音のなる方を見るとヨミと目が合った。わかっていたことだが、すぐに目を逸らされる。
こっちを見ていたのは、僕の順番が回ってきたことを知らせるためだろう。
その後も接触することはなく、一直線に窓際の席へと向かって行った。どうやら、僕の方もルームメイトとの問題が付き纏っているみたいで親近感が湧いてきた。
「次は僕の番みたいだから、行ってくるよ」
「あぁ、早く行ってこい」
「うん、いってらっしゃい。ここを出て目の前にある教室に先生がいると思うから」
「そうなんだ、ありがとう」
遅刻してきたことを覚えていてくれて、親切に教室の場所まで教えてくれるマチに感謝をする。
しかし、それ以上に2人の仲が進展しないことを強く願い、教室を後にした。
***
先生の待っている教室の前で立ち止まり、大きく深呼吸をする。遅刻したこともあってか、この扉を開けるのが億劫になっていた。
コンコンコン。
「はい、どうぞ」
教室の中から、声が聞こえる。
「失礼します」
音を立てないよう両手で丁寧に開ける。なるべく、相手に礼儀が伝わるよう、多少大袈裟に表現する。
教室の中は机や椅子が隅に積まれていて、真ん中に先生と思われる大人が座っている。その大人と向かい合うように置いてある椅子以外は何もない閑寂な空間だった。
こういう場所って謎の緊張感があるな。
「では、そこに座ってください」
言われるがままに腰を下ろす。
よく見れば、この人には見覚えがあった。確か僕とブランの試合を周りで見ていた人間だ。あの時はブランの攻撃に驚いて周りの大人にまで目を向けることができなかったけど、今考えてみれば新入生の安全のために配置されていたのに、ブランの攻撃に反応できなかったのは許されることではない。
観客席に誰もいなかったから僕の醜態が見られなかっただけで、もし多くの人が見てたらと思うとゾッとする。
「あ、君は……」
セカイの顔を見て、椅子から立ち上がる。
「あの試合は申し訳ありませんでした。闘技場の壁を突き破るほどの攻撃、本来ならば生徒の安全のため止めなければなりませんでした。しかし、自分の身を第一に足を動かすこともできませんでした。運よく攻撃が外れたから良かったものの、当たっていた時のことを考えると、謝罪程度じゃ済まされなかったでしょう。だからと言って謝罪をしないわけにはいきません。改めて、申し訳ありませんでした」
そう言って、深々と頭を下げる。
それを見て、優しげな笑みを浮かべたセカイはゆっくりと立ち上がり、頭を下げる先生に近づく。
「いえ、頭を上げてください。僕は先生が悪いだなんて、少しも思っていません。だって“万能”ですよ?能力の頂点に立っている相手を止めることなんてできないんですから」
あの試合を見て、運よく攻撃が外れたなんて言えるお前には一生な。
この謝罪で男の誠実さを知れたが、それだけだ。延々と自分の無能っぷりを言葉にして、教師としての信頼は地にまで落ちていた。セカイは勇者教育が目的で入学したわけではなかったが、少しは王国が運営している教育機関で教わってみたいという興味はあった。しかし、この男を見て少なくともEクラスでの授業は受ける価値がないと興味を失った。
「コホン、では気を取り直して面談を始めましょう。私は、E2クラスの担任になったムンです。一応ですが、君の名前を聞かせてください」
「はい、セカイ……チータと言います。これからよろしくお願いします」
セカイの名前を聞くと、手に持っている資料に目を落とす。
「はい。それで、君の能力なんですが……【瞬間移動】ですね?」
手元の資料をチラチラと見て確認するように聞いてくる。
「そうですね」
嘘だとは微塵も感じさせないほどの堂々とした態度。もう丁寧な対応なんてものは心がけておらず、太々しさすら感じる。
「では【瞬間移動】でどのようなことができるか教えてもらえますか?」
さて、この質問は事前にマチから聞いていたから色々と考えてきた。【瞬間移動】で出来ることは何かと考えると、文字の通り一瞬にして他の場所に移動することができる。これは僕の【空間移動】でも実現可能だけど発動までの時間を誤魔化すことはできない。
最初は違和感を感じる程度で心配することもないけど、時が経つことでその違和感が増大して不信感を持たれることになるだろう。そうなれば、学校での立場も危ういものになるのは避けられない。
……こんな考えないといけないなら、嘘なんて言わなければ良かった。と後悔する。
「えっと、まぁ文字の通り、一瞬で他の場所に移動することが出来ます。それだけなら、近接で戦う時に優位に立ち回れるのですけれど、僕の能力には欠点がありまして……移動する場所に手を向けなければなりません。なので咄嗟には発動できず、時間がかかってしまいます」
「ふむふむ、そうですか」
セカイの言うことを紙に記録する。
「それでは、こちらから質問させていただきます。この能力は他人を移動させることはできますか?」
「はい。発動までの時間はかかりますけど、出来ると思います」
まぁ、それくらいなら【空間移動】でも出来るしな。
「なるほど。発動まで時間がかかるとはいえ、素早い動きで相手を翻弄することができ、他人にも使用が可能ですか……」
悩みながらも札のようなものにペンを滑らす。
あれって、マチが持っていたものだよな。
「では、こちらをお渡しします」
こちらに手渡された札のようなものを受け取る。
「あの、これは?」
「それは学生証となっています」
「学生証?」
受け取った学生証と呼ばれるものを確認すると、名前、性別、クラス、能力名、生徒番号という5項目が書かれていた。能力名の横にはマチの言っていた能力のタイプが記されている。
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名前:セカイ=チータ 性別:男
クラス:E2
生徒番号:E263
能力名:瞬間移動(支援型能力)
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僕の説明では支援型の能力になってしまうのか。支援ってどうにもパッとしないけど、攻撃に能力を使わないように出来るから別にいいか。
「この学生証は学校生活を送る上で必要になるものです。もし失くした場合、再発行には面倒な手続きが必要となるので気をつけてくださいね」
「はい、分かりました」
学生証を制服の内ポケットにしまう。
「面談は以上です。もう戻ってもいいですよ」
次に呼ぶ人が言われないということは、僕が最後ってことか。
ムンはセカイから目線を外し、片付けを始める。それを横目に、教室から立ち去った。




