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ソウゾウ楽園  作者: 金曜の夜まで雨
16/21

16.出会い⑤

 


「な、なんだよ、お前」


 不機嫌そうに近寄るヨミに危機感を感じ、3人は警戒しながらゆっくりと腰を上げる。


「なぁ、なんか面白そうなことしてんじゃねェか。オレも混ぜてくれよ」


 静かに威圧感を与えるような、落ち着いた声で話しかける。話しかけられた男とヨミでは体格差があり、本人は相当な圧がかかっているように見える。


「は、は?お前は何を言ってるんだ。俺たちは何も……やってないよ、なぁ?」


 目が見えないほどに前髪の伸びた男が他の2人に同意を求めると、「やってない」と首を縦に振った。


「ほ、ほらな。2人もこう言ってるし、お前の見間違いなんじゃ……」

「おい」


 平静を保とうと下手くそな笑みを浮かべて適当なことを言う姿に痺れを切らしたのか、胸ぐらを強引に掴み引き寄せる。


「オレはこの目でちゃんと見たんだ。お前らがあいつに向かって嫌がらせをしてるところをよォ。だって言うのに、いつまで嘘をつくつもりだ?」


 ヨミの圧にどんどんと飲み込まれていくのが、見ていてわかった。男からはこの場から逃げ出したいという気持ちが痛いほど伝わってくる。

 しかし、当の本人はそんな気持ちを必死に否定するように拳を握りしめ、ヨミを睨みつけ虚勢を張った。


「調子に乗ってんじゃねぇぞ」


 そんな威勢のいい言葉は、声の小ささと震えによって誰にも伝わらない。それは近くにいたヨミも例外ではなく、何を言ったのかを知るために聞き返す。


「は?何か言ったか?」


 ヨミの聞き方も悪かったのだろう、心に余裕のない男にはその言葉が煽りに聞こえてしまったようで、怒りで握っていた拳が震え始める。


 これはまずいな。


 そんなセカイの嫌な予感は的中することになる。


「だから、調子に乗るなって言ってんだよ!」


 怒りで歯止めが効かなかなくなった男は、怒鳴るのと同時に握り拳を力任せにヨミの頬へ突き当てた。いきなり殴りかかってくることが予測できなかったヨミは、避けることなく鈍い音を立てて直撃する。


「イテェな」

「な、お前、化け物か?」


 普通なら致命傷にはならずとも仰け反ってしまうくらいの攻撃であったはずが、ヨミは微動だにせず不快感を顕にする。自分の力任せに放った拳が効いていない様子を見て、力の差を感じ取ったのか服を掴んでいる手を離すためもがき始める。


「お返しだ」


 そんな男の必死の抵抗を見たヨミは、その言葉と同時に顔面へ頭突きを食らわした。男の鼻からは血が飛び散る。あまりの衝撃に一瞬意識が飛んだのか力が抜け、倒れそうになる。そのまま倒れていく男から手を離す。

 倒れるかの既の所で意識を取り戻し、踏ん張って体制を立て直す。しかし、意識が戻った男の目前にはヨミの蹴りが迫っており、避けることができずに衝撃が襲う。


 その衝撃に抗うことのできなかった男の姿はまるで消えるように吹き飛び、テーブルをも巻き込んで壁に衝突した。男は意識を保っていられるはずもなく、ぐったりと倒れる。


「お、おい。こいつ、やべぇ、ヤベェッて!」


 ヨミの圧倒的な力が自分に向けられることを心配し、意識の失っている男には目もくれず、我が身可愛さに食堂から逃げ出そうと背を向けて走り出す。


「ハッ、やっとらしくなったじゃねェか!」


 心底楽しそうに凶悪な笑みを浮かべ、拳を握る。

 その瞬間、ゾワッとセカイの体に寒気が走った。それは、ブランの“万能”の攻撃でさえも感じることのなかった圧倒的な威圧感。自然と体に力が入る。


 ここでヨミのことを止めなければならないという強迫観念がセカイを襲う。


「なぁ、そこまでにしておかないか?」


 今のヨミに何を言っても聞いてもらえないんだろうなと思いつつも、そう口にする。しかし、そんな適当に発した言葉でヨミの動きが止まり、セカイを値踏みするかのように鋭い視線が突き刺さる。


「チッ、クソ仮面野郎が。さっきまで黙って見てたヤツが今更口出すンじゃねェよ」

「そうなんだけどさ、もう十分でしょ?」


 意識の失っている男を親指で指す。


「あの程度でダウンしちまうなんて情けねェ。オレの鬱憤すらも晴らせねェとはな」


 冷めた目で男のことを見ると、興味を無くしたのかポケットに手を突っ込み背を向け歩き始める。

 やけにあっさり身を引くヨミを見て、セカイは違和感を感じていた。まるで、逃げ出す2人を最初からどうにかするつもりがなかったかのような。そして、セカイの体を襲った威圧感。その後のヨミの言動を考えると、一つの考えに至った。


「ちょっと、どこに行くんだよ」

「気分が悪りィから部屋に戻んだよ。帰る時は一緒じゃなくていいんだろ?」

「お、おい」


 セカイの静止なんてお構いなしに歩みを進める。

 色々な意味で面倒な奴と同じ部屋になったと自分の運の無さを嘆いた。



 ***



「はぁ」


 ヨミが去った後、騒ぎを聞きつけた寮の職員が駆けつけて、意識の失っていたカイザーという男を担架で医療室にまで運んでいった。その時、ルームメイトという理由でいじられていた男も連れて行かれた。

 残った職員から目の前の惨状についての説明を求められた。大した時間は取らせないとのことだったため、了承したが1時間も拘束されてしまった。


 職員達はセカイのことがカイザーを痛めつけた犯人だと思っていたようで、セカイの話からヨミという新たな容疑者が浮上すると「Eクラスなんかにこれ以上の時間はかけられない」と事故として処理された。その後は学校への報告と、この件を他言しないように注意を受け解放された。


 おかげで初めての授業で遅刻する羽目になってしまった。


 いきなり遅刻をするということで、クラスのみんなから悪い印象を抱かれるのは必然。自然と教室へと向かう足が重くなる。


 現在、セカイは授業に参加するべく講義棟の2階を歩いている。講義棟では、勇者の戦い方や制度を教えるなど座学による授業が行われている。今回の授業では、学校の説明と個人面談があるらしい。

 この個人面談がどういう順番で行われるのかは分からないが、まだ順番が来ていないことを祈るばかりだ。


[E2]と書かれた札の教室の前に止まる。

 Eクラスだけは人数の関係で1つのクラスに収まりきらないため、2つの教室に分けられている。


 ガラガラッと声の聞こえてくる教室の後ろから目立たないように入る。中には先生らしき大人はおらず、周りの友達と話したり、机に突っ伏して寝ていたりと生徒は教室内で思い思いに過ごしていた。そのため、セカイが教室に入ってきたことを気にする生徒は少なく、近くの空いている席へ腰を下ろす。


 ひとまず、文句の一つでも言ってやろうとヨミを探す。同部屋の生徒は同じ教室に割り当てられているはずだから、サボっていなければヨミもここにいるはず。そう思い、教室内に目を向けるとすぐにヨミを見つけることができた。


 窓際の席で腕を組んで大人しく座っている。部屋でのセカイにとった態度と同様に、周りの生徒と関わり合うつもりはないようだ。目を瞑って、周りとの間に壁を隔てている。


 普通なら、そんな人間と関わりに行こうとする物好きはいないが、セカイにとっては逆に都合が良かった。音を立てないように丁寧に席を立つ。……と扉の開く音がした。誰が入って来たんだろうと、自然と音のなる方へ視線が動く。


 ゆっくりと姿を表したのは1人の女子生徒だった。大きめの丸メガネに目がいく。いつもなら可愛い子だと目で追いかけるくらいのことはしたが、後から入ってくる人物が気になって目移りしてしまう。それは、セカイが授業に遅刻する元凶のもう一人と言っても過言ではない、担架で運ばれたのが記憶に新しいカイザーの姿だった。


 鼻の中にはガーゼが詰められていたり蹴られた跡には腫れを引かせるため湿布が貼ってあったりと治療跡が多く見られた。カイザーはこっちを軽く睨みつけると、すぐに目をそらす。


 あーあ、やっぱりヨミの近くにいた僕のことを覚えていたのか。それにあの目、もしかしてだけどヨミだけじゃなく僕まで恨んでいたりしないよな?


 刺激するのは得策ではないと考え、カイザーが離れるまで待つことにする。カイザーはそのまま席へと着いたが、一緒に入ってきた女子生徒は、ヨミの方へと歩いていき、声をかけた。


 声をかけられたことに不快感を露わにしていたが、何かを告げられると、ため息をついて席を立ち、こっちへと向かってくる。

 セカイは自分に用があるのかと、話しかけられる気持ちで待っていたが、気にした様子もなく扉を開け教室から出て行った。


 そのことに多少腹が立ち、追いかけようと扉に手をかけるとさっき教室に入ってきた女子生徒がセカイに声をかけてきた。


「あ、あの、どこに行くの?」

「え?いや、ヨミのことを追いかけようと、ね。僕は彼のルームメイトだからさ」


 咄嗟のことで、関係のない説明をしてしまう。


「そうなの?なら、今は外に出ない方がいいと思うよ」

「それはどうして?」

「だって、個人面談は部屋ごとに行われているから……今がヨミ君ってことはもうすぐ順番が来る頃だと思うし。あれ?先生が話してなかった?」


 自分の記憶が間違っていないのか不安になり、質問をされるが、授業に遅刻していたセカイには答えることができなかった。


「うん、先生はそう言ってたな」


 前の席から声が聞こえた。

 セカイの座っていた前の席の男子生徒が聞き耳を立てていたみたいで、話に入ってきたようだった。


「そいつに聞いても無駄だよ。だって、さっき教室に入ってきたんだから」

「ま、まぁ、体調が優れなくてね。僕、朝が弱いんだ」


 心の中では、邪魔すんなこのクソ野郎ぶち殺してやる、と下品な暴言を吐いていたが表情には出さず、恥ずかしそうな仕草をする。


「そうなんだ、それなら仕方がないね」


 なんて、柔らかい笑顔を向けてくる。ついつい頬を緩めそうになったが、深呼吸をして意識を整えることで顔を引き締めた。初対面の女の子に変人なんてレッテルは貼られたくない。


「だったら、聞けなかった先生の話を教えたほうがいいよね」

「うん、そうしてくれると助かるよ」


 まだ一緒にいる口実を向こうから提案してきた。


 セカイはこの女子生徒に話しかけられてから、ある想いがあった。丁度いい、この子にも好かれておこうと。

 だからこそ、途中で会話に入ってきた男のことは許せなく、邪魔に感じていた。


 どうせならこいつのことは今のうちに省いておきたいと、敵視するような目を向ける。会話に当たり前のような顔で参加している男に少し腹が立つ。



 まぁ、とりあえずは女の子の名前を聞くことから始めようか!

 

 

 気を取り直し、女子生徒に心も体も向き直す。


 

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