15.出会い④
「門限くらい守れよ。……ったく、Eクラスなんかに無駄な時間を使ってしまった」
そう、セカイに聞こえるように文句を言いながら立ち去った。
午後10時半に学校へと戻ってきた2人は、校門に立っている3年生に呼び止められた。どうやら、学校の門限が午後9時に設定されているらしく、それを知らなかったセカイ達は5分程の注意を受けていた。
その後、セカイがEクラスだと分かる寮にまで連行された。
この夜間に警備をしている上級生は学校自治会と呼ばれる学内組織で、3年生のAクラスが主体となって活動しているんだ、と自慢するかのように説明された。
どうせ、Aクラスだということを自慢したかったんだろうな。学校の自治をしているらしいし、実力者であることは間違いないんだろうけど。
夜遅いこともあって、音を立てないように階段を上る。
……あ、部屋に誰かがいる。
扉の窓から部屋の明かりが漏れている。
ルームメイトってことだから、最低でも1年は一緒にいなければならない存在だ。友達にならなくてもいいけど、不仲になるのは避けたいところ。だけど、今日一日でたくさんの出会いをした経験があるおかげで、その心配はしなくてもいいだろう。
今日、出会った人のことを考える。
まずは、ニーナとブランだな。仲良く……はなってないか?まぁ、いい。次は、バガンとミツネだ。仲良く……とはかけ離れてる、な。
あれ……もしかして、僕って。いや、まさか、心配なんていらないはずだ。
カチャッと鍵を開け、重い気持ちを吹き飛ばすように扉を勢いよく開け放つ。
「あァ?誰だよ、テメェ」
部屋に入ると、ツリ目の獣のような人相の男がセカイのことを睨みつけていた。
まぁ、いきなり知らない人間が入ってきたんだし、警戒されるのは当然だよな。ここは、自己紹介でもして場を和ませよう。
スッとさっきまでの自分に蓋をする。
「あぁ、ごめんごめん。僕はセカイっていうんだ。今日からこの部屋で暮らすことになったから、よろしく」
学校ではファミリーネームを明かす必要はないらしく、セカイはそれに従い自己紹介をする。
「同じ部屋?……ンだよ、ここ一人部屋じゃねェのか。チッ、ダリィ」
「ははっ、それは悪かったね。それで、君の名前を聞いてもいいかな」
「なんでテメェみたいな雑魚に、名乗んなきゃならねぇンだよ。あんま、馴れ馴れしくすんじゃねぇぞ」
うわぁ、面倒なやつと同じ部屋になっちゃったな。まぁ、相手が関わりたくないって言っているのなら、適度な距離感を保つのも悪くはないだろう。
荷物の整理をするためベッドに腰掛けると、足元にあるクシャクシャに丸められた紙が目に入った。
何だこれ。
丸まった紙を広げる。
その紙には学校についての説明が書かれてあるようだ。読み進めてみると、寮での過ごし方が細かく書き記してあった。
その中に、寮のネームプレートを破壊したり、勝手に書き換えたりしないようにという諸注意事項が目に留まった。過去にこういった悪戯をした生徒がいるのだろう。こんな貴族の学校にも幼稚な悪戯をする人間がいるんだな。
そういえば、昼にネームプレートはなかったと思うけど、もし、あるのだとしたら。
急いで立ち上がり、部屋の外へ出て扉の周りを確認する。
あ、あった。
よ、み?……ヨミか。
4つの枠の中にセカイと書かれたネームプレートの他にもう一つ、ヨミと書かれたものがあった。
口角が上がるのを我慢しながら、部屋の中に戻ると、再びベッドに腰をかける。
「ねぇ、ヨミ」
「は?テメェ、何でオレの名前を知ってやがる」
「ははっ、やっぱりそうだったんだ。……よろしくね、
ヨミ」
勝ち誇った顔で握手しようと、手を差し出す。
「チッ、気持ち悪りィやつだな。だから言ってんだろ?雑魚が話しかけてくンじゃねェよって」
「そういえば、さっきから雑魚雑魚って言うけど、ヨミも同じEクラスなんだから、実力的には変わらないんじゃない?」
「うるせェな。……オレは勝手に決められたンだよ」
ん?
ミツネと同じような感じか?
「理由を聞いてもいいのかな?」
「いいわけねェだろ。馴れ馴れしく話しかけてくンなって、言ったよな」
「それは、悪かったね」
ミツネはAクラスに入れられているのだから、同じというわけではなさそうだな。
「それにしても、この部屋って4人部屋だよね。なんで、僕たちだけなんだろう」
ネームプレートを入れる枠が4つ、ダブルベッドも2つあって、まるで4人で暮らすことが想定されている作りだった。このことをヨミに聞くほど気になっているわけではないが、無理矢理にでも会話を引き延ばしてヨミの情報を聞き出そうとしていた。
しかし、話しかけるなと言われたこともあり、セカイの言葉に反応することはなかった。話しかけるなといいつつ、実は話しかけてきて欲しいツンデレタイプではないことが確定できた。
「おい、今からシャワー浴びるが、オレの荷物には絶対に触れンじゃねェぞ」
「はいはい、わかったよ」
疑いの目を向けられながらタオルと着替えを持って、部屋にあるシャワールームに入っていく。
この寮には全部屋にシャワールームがあって、生徒は好きな時間に好きなだけ体を洗うことができる。
この王国では綺麗な水を手に入れられない人も大勢いるというのに、さすがは貴族の学校だな。
それより、これはチャンスなのかもしれない。
ヨミに関する情報は握っておきたいし、荷物を漁ってみるか。
そう思い、何の躊躇いもなく他人の荷物を漁り始める。そんな非人道的な行為をするセカイの姿は、ただ窃盗をしているようにしか見えないが、本人にその気持ちはなく、至って真面目にヨミの情報を探ろうとしていた。
ったく、なんであんなにも疑われているのだろうと不満を抱きながら物色する。
……。
……。
着替えだったり、日用品だったりがあるだけで個人のことが特定できるようなものは……ん?
持ち運ぶためのカバンをあけると、中から見覚えのある紋章があった。盾に王冠が描かれている紋章。
これって、国衛騎士団の紋章だよな。
国衛騎士団は国を守るために設置された組織で、主に国の内部で起きた争いを鎮圧する目的がある。
そんなものがどうしてここに?
もしかして、こいつ……国衛騎士団の一員か?
いや、そんなはずないか。騎士団に所属している貴族共が勇者になろうだなんて思うはずがないもんな。同部屋なんだから、時間はある。とりあえずは様子を見るとしよう。
一旦、紋章を手元に残しておき、他に何かないか探したが、これといってめぼしいものを見つけることはできなかった。
紋章をカバンの中に戻し、元あった配置に直した。
学校に問題のある物を持ってくるはずもないか。
ふぅ、なんか、今日は色々あったから疲れたな。……シャワーを浴びるのも面倒くさい。
少し、休むか。後でシャワー浴びればいいし。
そう思い、目を閉じた。
シャワールームではちょうど水の流れる音が止んだ。
***
ーーー翌朝
朝ご飯を食べるためにヨミとセカイは食堂へと来ていた。
この寮の1階は食堂のためにあるようなもので、寮生が快適に食事できる広さがあり、清潔に保たれている。朝早く訪れたため、食堂にはセカイ達の他に一組いるくらいで空いていた。
入り口から中に入ると、多種の料理が並べられており、その中から自分の好みで選んでからE38の札が置かれている席に座る。
ちなみに、僕はこの食堂に一度来ている。ヨミがあまりにも関わりたくなさそうにしていたから、一人で朝食を食べに来たけど、同部屋の生徒が揃わないと入れてもらえず追い返されてしまった。
そんなルールのせいで、わざわざ寝ているヨミを起こしにいく羽目になった。
ヨミの目覚めが悪く、起こしてもすぐに寝ようとするから叩き起こしてやった。その後は、ぼーっとしていて素直に言うことを聞いてくれたから、昨夜と違って扱いやすかった。
あぁ、それとシャワーは浴びた。体を清潔にしておかないと深い眠りにつくことが出来なかった。今後は、風呂を入らずに寝るのはやめておこう。
目の前に座っているヨミは、セカイと一緒に朝食をしているのが嫌なのか、頬杖をついて行儀悪く食事をしている。フォークでザクッと焼き鮭を突き刺す。
「そんな顔しないでよ。ほら、僕のパン食べる?」
「うるせェ、クソ野郎。んなもん、いらねェよ」
意識が覚醒してから、セカイに対しての暴言が止まらない。何でこんなにも嫌われているのかは分からない。誠実に接しているはずだけど。
「なんだ、こんなに美味しそうなのにさ」
食パンを口の中に入れて噛む。サクッと心地いい音を立てると蜂蜜の甘さが口の中に広がる。
うん、旨いな。朝食を味わって食べていると、ヨミが食べる手を止めてセカイの後ろを不愉快そうに見始める。
「どうしたの?」
気になって、セカイも後ろを振り返る。
そこには4人の男子生徒が机を囲んで座っていて、3人が1人にご飯粒を投げつけるなどの幼稚な嫌がらせをしていた。その嫌がらせを受けている生徒が涙目になってしまうが、それを見て他の生徒はゲラゲラと手を叩いて楽しそうに笑う。
「チッ、うぜェゴミ共が。ただでさえ、クソみたいな奴と一緒で気分が悪いッてのに」
ヨミが席から勢いよく立ち上がり、椅子が倒れる。
その音に反応して、嫌がらせをしていた生徒がヨミのことを見る。
「ちょっと、どうするつもりなの?」
「あのゴミ共に、弱者が誰なのか教えてやンだよ」
人を殺すのかというほどの凶悪な笑みを浮かべて、4人に近づいて行く。
———おぉ、なんか面白くなりそう。
セカイはヨミのあとをニヤニヤと笑いながらついていく。




