14.出会い③
「お、お待たせして申し訳ございません」
バガンが2人きりで気まずそうにしているのを、セカイがニヤニヤと面白そうに眺めていると、ミツネが戻ってきた。
何分待たせるつもりなんだと文句を言おうとしたが、ミツネの姿を見て興味が移った。
「おい、その格好はなんだ?」
左胸に紋章だけがある地味な制服、それはセカイも通う勇者育成学校のものだった。
「確かに……坊主って学校に通える歳だったんだな」
確かにって、的外れなことで同調してくんなよ。
「貴族じゃ、ないよな。お前」
この宿で雇われているやつが貴族だなんて到底思えない。……しかも、ネクタイが赤色ってことは同学年みたいだし。
「は、はい。そうなのですが、校長先生からお誘いいただいて……」
「校長から?」
校長がこいつのことを?
何が目的なのか気になるけど、あの学校に入る理由なんて一つだけだよな。
「もしかして、能力が使えるのか?」
「実は……はい」
能力が使えるのに貴族じゃない。つまりは、平民なのに能力を持っているということ。……ん?それって、どう考えてもおかしいよな。
貴族がこの王国の中で権力を保持できている大きな理由として、平民にはない強大な力である能力を持っていることにある。
それをこんな宿で働いている少年が何故、持っている?
能力者となる条件として、貴族の血筋を引いているのかが大きく関係していると言われている。ということは、先祖の誰かが貴族だった?
「お前の両親も能力が使えるのか?」
「いえ、おそらくどちらも使えないと思います」
先祖が貴族の血筋だという線もなくなったか。あと、考えられるのは……。
「お前、その親、本当の親か?」
「え、ボクの……親、は……」
セカイの言葉にミツネが言い淀む。
「もうそこまでにしてやってくれないか?坊主も困ってるみてぇだしよ」
「……それもそうだな。悪かった。今のは忘れてくれ」
何をやっているんだ僕は。みっともない姿を見してしまった。
けど、そのおかげでミツネの反応を見ることができた。あの様子なら、こいつの両親と能力が使えることに関係がありそうだ。
……よく考えてみれば、貴族だけが能力を使えるだなんて変な話ではあるよな。
例えば、貴族が平民との間に子を宿し、貴族の知らない場所でその平民が密かに育てれば、瞬く間に貴族の血が広がってしまう。
そう考えると、平民でも能力が使えるってやつが他にもいるかも知れない。ミツネと同じように学校の中にだって……。
どうして僕は、いままでこのことに気づきもしなかったんだ?
「そもそも、なんで坊主の能力についてそこまで聞こうとすんだよ。あんただって、能力を使ってるじゃねぇか。貴族が、とかあんま関係なくないか?」
「いや、僕は貴族だから」
「えっ、そうなんですか?」
「はぁ?ちょっと待ってくれ、あんた貴族の坊ちゃんだったのか?」
じっと、セカイのことを観察する。
「ははっ、貴族なんて初めて見たが、案外、俺らと変わんねぇもんだな!」
貴族だと言えば、少しはバガンの失礼な態度がなくなるかと思ったけど……案外、貴族なんて肩書きは貴族以外にとって無価値なものなのだろうな。
「てことは、追加の報酬も期待できるってわけだ。てっきり、あんたのことだから口だけだと思ってたぜ……いや、貴族様なんだから、あんたって呼ばねぇ方がいいんか?」
「そんなこと今更気にしなくていい。好きに呼んでくれ」
2人がセカイのことをじっと見つめる。
「なんだ?気持ち悪い」
「いえ、あの……お名前を」
「ああ、そういうことか。……セカイだ」
「セカイ、か。へへっ、よろしくなセカイ様!」
よろしく、か。
お前らは、僕の目的が終われば用済みだ。それまでは、せいぜい役に立ってくれ。
「そういえば、ミツネはこれから学校の寮で暮らすのか?」
「は、はい。校長先生からはそうするようにと言われています」
「それなら丁度いい、話したいこともあるし学校まで一緒に来てもらうぞ」
「え、学校?どうして……せ、セカイさんが?」
そういえば、まだ言ってなかったな。
「そんなの一つに決まってるだろ。僕もあの学校の生徒なんだ」
「が、学校に通ってるだって?そんなわけねぇよ、だって、あんたが学校に、ふふっ、通うような奴には見えねぇって。俺らが馬鹿だからって、信じるとでも思ったか?」
こいつは、僕のことを煽らないと死ぬ呪いにでもかかっているのか?
「え、嘘なんですか?」
「本当だ。……こいつのことは放っておけ」
「なんだ、冗談かと思ったぜ。へへっ」
その様子を見て、バガン一人に仕事を任せていいのか不安になった。……が、セカイには時間がないため、協力者の存在は必要だった。そして、それはバガン以外に適任はいない。
「とりあえず、バガンは次に会う日まで情報を仕入れとけよ」
出来れば、見つけてくれると助かるけど……そこまでは期待しないでおこう。
「出来る限りのことはやってみせるから、期待しとけって。てかよ、次に会う日っていつなんだよ」
「あぁ、そうだな……」
あの学校は外出に関して厳しかったはずだ。
確か、指定された日にしか外出できないってミュウが言っていたな。……明後日とかだったか?
【空間移動】ならバレずに抜け出すことはできるだろうけど、それは学校の監視体制が分かってからにしたい。
「明後日のこの時間にしよう」
時計の針は9時を指していた。
「その時間にこの宿にいなかったら、逃げたとみなすからな。時間だけは守れよ」
「わかってるっての。まだ死にたくねぇしな」
「ならいい。もうこんな時間だ。僕は学校に戻るけど、あとは任せたぞ」
セカイはそう言って席から立つと、そのまま宿の外へ出て行った。
「それでは、あの……ボクも」
「あぁ、気をつけろよ坊主」
バガンの行った言葉にどのような意味があったのかは分からないが「はい」と頷くと、ミツネも小走りで去っていった。
***
月明かりに照らされる道を2人で歩いていた。
この時間になるとすれ違う人もいなく、静けさが心を落ち着かせてくれる。
能力を使えばすぐにでも学校の近くへ移動することができるけど、そうしないのにはわけがあった。
「なぁ、ミツネ」
そう声をかけると、ビクッと体が震える。
「は、はい。ど、どうしたんですか?」
「お前は聞かれたくないことなのかも知れないけど……能力について教えてくれないか?」
「能力ですか……」
「あぁ、この際、能力名だけでもいい」
「……あの、そのことなんですが、校長先生から能力のことを無闇に明かさないようにしろと言われていて……すみません」
能力名を知られることで生じるリスクは確かに存在する。しかし、他国との戦争の関係で能力名を明かすことが信用を得る手段として用いられることから、隠すという者は少ない。
そうだというのに、校長はミツネに能力名を明かさないようにと言った。
「別にいいんだ。明かすなと言われているなら、仕方がないしな」
「あ、ありがとうございます」
校長がわざわざ隠そうとするような能力だ、もし僕が聞いてしまったとなればどんな面倒事に巻き込まれるのか分かったもんじゃない。
となると、こいつを連れ歩かないほうがいいな。まぁ、バガンに仕事を任せられた時点でミツネの役割は無くなったようなもんだし。支障はないだろう。
ミツネに目を向ける。
能力名を答えられなかったからか、申し訳なさそうに俯いていた。
……しょうがない。
「そういえば、お前、学校に入学したってことは15歳だったんだな。見た目だとそうは見えないけど」
「え、そ、そうですね。ぼ、ボクは15歳です」
自らが勇者として戦う覚悟ができる年齢として、15歳から勇者育成学校に通えるようになる。しかし、ミツネの身長はミュウと同じくらいで、セカイと同じ年齢には見えなかった。
そのことで話を広げようとおもったが、失敗。すぐさま次の話題を考える。
「そうだ、クラスが何だったのかは聞いていいか?」
「く、クラスですか?ボクは、その、Aクラス、です」
「はぁ!?」
「ひッ」
こいつが僕よりも上のクラスだって?
Aクラスになる人物の強大さを間近で体験しているセカイにとって、目の前の弱々しい少年がその化け物と同等の強さだというのを信じられなかった。
「……あ、あの。もしかして、ボクのことを強いと勘違いしていません?」
「ん?違うのか?」
「は、はい。まず、人と戦ったことがありませんし」
「入学式にクラス分けが目的の試合があっただろ?」
「いえ、ボク、事前に校長先生からAクラスに入るようにって言われていて……なので、今日は学校にすら行っていないんです」
「なんだ、そうだったのか」
クラス分けは実力を重視しないってのは本当みたいだな。
「ええと、あの、せ、セカイさんが何クラスなのかって聞いても……」
「あ、あぁ」
ミツネがAクラスだというのに僕がEクラスだって言うのは、何というか、恥ずかしいな。だけど、折角広がった話を中断するのはやめておきたい。
「……僕はEクラスだ」
「え!?セカイさんが?……す、すみません、大きな声を出して、ですが、信じられないです」
ミツネと出会って一番大きい声に、セカイが驚く。
多分Eクラスに見合った実力ではないと言うことで驚いたんだろうけど、力が認められて嬉しいという気持ちはなかった。むしろ世辞のように感じていた。
「いや、まぁ、僕のことはどうでもいいんだ。それより、今日あったことは学校で話すなよ」
「今日あったこと……分かりました」
拳をグッと胸元で握りしめる。
この言葉には無闇に関わって欲しくないという意図が込められているのだが……。
……本当に分かっているのか?
溜息を吐くと、再び無言の時間が始まった。




