縄
もうダメだ。
さっきからレイブンは、私の心の奥底に秘めてある恥の秘宝を掘り出そうとしている。
これ以上記憶を読まれるのも、外に解放されるのも限界で、どうにか止めさせようと椅子の上でもがいている状態だ。
たぶん、この腹黒の事だからそんな事はお見通しだったんだと思う。
見事に椅子と身体を縛っている縄が、私の身体に食い込んでいる。
悪の根源は目の前にいるのに、手が出せない歯痒さは尋常じゃなかった。
「早くしないと。もう目の前なんですけどね……見られたくないんでしょう?」
目の前の悪魔が表情を変えずに呟いた。
「追い出せてたら、とっくにやってます」
身体の自由を奪っている縄に噛み付く。
手が使えなかったら、歯でもなんでも使うべきと思ったからだ。
プチプチと縄が切れるような感触がすると、縄の繊維が口の中に刺さる。
……縄って、美味しくない。
口の中に溜まった繊維を吐き出す。
結構な手応えを感じ、縄に目を落とすが何故か無傷のようだ。
「ただの縄なわけ無いでしょう。バカですね」
レイブンは腕を組んで此方を見ている。
毎回一言多い。
「うーーーー」
本っ当に性格悪い。
一陣の風が中庭を吹き抜けた。
「おや……戻りましたね」
無表情だったレイブンの顔がピクっと動く。
レイブンの動きとほぼ同時に、城内への扉が開き、小さな人が2人中庭に入ってきた。
「ふぉっふぉっ。レイブン殿、戻りましたですぞ」
そう言ったのは、深い紫色のマントの方だ。
身長は、150cmぐらいか。
フードが開くと、灰色の髭が風に揺らめいた。
長い髭の先には小さく赤いリボンで縛られている。
年齢を重ねた皺が顔中に筋肉と筋肉の隙間に沿い、今までの年月を感じさせる。
嬉しそうに笑うその顔は、どこか人を安心させる。
広い額の生え際からは灰色の長髪は緩く波打ち、背中あたりまで続いていた。
「ふにゃ~、疲れたね~」
深緑色のマントの方から声が聞こえる。
こちらの方が背が小さい。
おおよそだが身長は130cmぐらいだろうか。
フードを脱ぐと、栗毛色のクルクル回った髪が見える。
黄色人種のような少し黄色味を帯びた肌に、太く八の字の短い眉、つぶらな瞳が印象的な男の子だ。
耳は一見普通に見えるが、よく見ると上部が尖っていた。
「お、お帰り! ドルフ、クリス! やっぱあんたらが早かったな」
アシオンが壁からもたれ掛かるのをやめて、扉の前にいる2人の側に歩く。
レイブンは私から目を離し、背後の扉へ笑顔を見せた。
どうやらアシオンもレイブンも知り合いのようだ。
アシオンの存在に気付くと、少し驚いたように髭の老人が口を開いた。
「何故儂らより遠方の国に向かったお主が戻っておる。まさか……」
「えへ。途中で帰ってきちゃった」
アシオンは手を頭に回して、舌をペロッと出す。
可愛子ぶっているようだ。
「え~、いいの~? レイブンさんに怒られるんじゃないかなあ?」
変わらず困った顔のまま小首を傾げ、男の子は話す。
「それがさー、たまたまドラゴンが見つかった後でー。何とか嫌味ぐらいで済んでさー。ホントついてるよなー、俺ってば」
アシオンは自分の頭の後ろに両手を当てて、ニヤッと笑う。
「……それで、もういいんですよね? さやさん」
急にすぐ頭上から声がかかる。
「っ!!」
ボーッと向こうの人達の会話に気を取られてしまっていた。
慌てて前に視界を戻すと、白い布が視界を邪魔している。
恐る恐る見上げると、ずり落ちそうな眼鏡を指で押さえ此方を見下ろすレイブンがいた。
いつの間にやら目の前にレイブンが移動して来ていたようだ。
「私が他の人が来たからと言って、手を緩めるとでも?」
あ、また怒ってらっしゃる?
あーあー。
誰かー。
もう自力ではどうする事も出来ないと理解している。
あとは他力本願!!
レイブンのこめかみに青筋が立つ。
「貴方って……人は……」
瞬時に私のヤル気のなさも、読み取っていただけたようだ。
黒いオーラが増してきた所で、レイブンの背後から声がかかる。
「此方が新しい王様ですかの?」
リボンの髭の爺ちゃんの声だ。
眼の前はまだ白いレイブンの服で見えないが、確実にレイブンの背後に人の気配がする。
私の願いがようやく真実味を帯びてきた。




