読心術と悪魔
外は日の高さが少し落ちてきていた。
もう少ししたら、日がさらに傾き夕方になるだろう。
私はレイブンに中庭へと連れてこられている。
目の前には腕を組んだレイブンが片眉のみを器用に上げてこちらを見下ろしているし、城内に続く扉の壁にはアシオンがもたれかかって、こっちを見守っている。
かくいう私は、中庭の中央あたりに置かれた椅子に縛られていた。
目に見えない読心術を手や足を使って払いのける事は出来ないし、心だけで防ぐっていうのも分かるんだけど……別にここまでしなくてもいいと思う。
多分、これもレイブンの性分なんだろう。
体罰的な部分も含まれているのが分かる。
「ほら、集中してください」
よく言うよ。
どういう風に集中すればいいのか、さっぱり分からないのに。
半眼でレイブンを見る。
「心を閉ざしていただくのが最もいいでしょうね。誤魔化しても、高度な読心術では嘘とバレたりしかねませんから」
閉ざす?
レイブンには十分閉ざしているつもりだ。
「だだ漏れですよ」
吹き渡る風がレイブンの白い服をはためかせる。
その顔には、にんまりと笑顔が張り付いていた。
「どのような手段でもいいんです。掻い潜れたら、何でも。とりあえずイメージから始めたらいいんじゃ無いですか?壁とか霧とか……」
目を瞑って、レイブンを叩き潰す重いハンマーをイメージする。
頭の中でイメージのレイブンに思いっきり振り下ろすイメージをする。
「……それは、喧嘩を売られているんですか?」
「いや、何でもいいって言われたから。とりあえず覗こうとする人をハンマーで叩くぐらいしか思い浮かばなかった」
「貴方は……頭の中で戦いがしたいんですか? この私と」
一瞬で凍り付きそうな程、ゾッとするような笑みに変わった。
まずい。
これ以上は危険だ。
頭の中のアラームが高らかに鳴り始める。
「いや、戦いなんて滅相もございませ……」
「しょうがないですね、じゃあ私が本気でお相手しましょう」
こいつ……人の話を聞いてない。
「私が貴方の心をもう少し深く覗いて、昔の記憶を掘り起こしてあげますよ。貴方は、どんな形であれ防ぐように徹して下さい。私を叩き潰していただいていいですから……できればの話ですけども」
ずり落ちてくる眼鏡を指でなおしている。
「普通にしてもらえない?」
そう聞いたが、レイブンは黙ったまま無表情でこちらを見ている。
もう始まっているのかもしれない。
慌てて自分の中でレンガを積み上げるイメージをする。
自分の四方を囲うイメージだ。
隙間もなく綺麗に埋め尽くす。
手には重そうなハンマーを装備するイメージも忘れなかった。
さぁ、来るなら来い!!
「……もういいんですか? まぁ、もう入ってるんですけどね」
キュッと意地悪く片側の口角が上がる。
「!!」
ど、ど、どこだ!!
慌ててレンガを二重のイメージへ変える。
「なるほど……これは恥ずかしい思い出ですね。理解します」
レイブンの無情な声が響く。
目を瞑っても、中にいるレイブンの姿は見えない。
「ふむ……もう少し遡ってみましょうか。勉学の点数が悪かったのですか? こっ酷く怒られてますね」
や、やめろ。
やめてくれろ。
閉じていた唇に、無意識に力がこもる。
「こっちは? 小雨が降る中、男の子に何か話しかけてますね……」
「ギブ! ギブギブギブっ!! なんか、色々すみませんでしたっ!!!」
口を突いて言葉が飛び出た。
限界だ。
もういいだろう。
そんなところは見なくていいし、一番恥ずかしい部分なんだから触れないでほしい。
「……何言ってるんです? やめてしまったら練習ではないでしょう?」
細められた目の端が光った。
「……」
まだ練習は始まったばかりなんだ。
レイブンは変わらず手を緩めるつもりは更々ないようだ。
自分で蒔いた種だと分かりながらも、どうする術も見当たらなかった。
壁にもたれ掛かっているアシオンに目をやるも、変わらない体制でこちらに軽く手を振っているだけだ。
ちっ、使えない。
私には味方と呼べる者もこの場にいない。
完全に詰んだ……そう思った。




