王様命令
「さっ、そうと決まればこれから忙しくなりますぞ。他国から使者が挨拶に参るでしょう……それから、任命式もありますぞ。四竜も来国されますし……」
ディーンさんはとても嬉しそうだ。
「あの……ディーンさん?」
「いえいえ、これからはディーンと気軽にお呼び下さい。さや様」
ニッコリ笑うと規則的に並んだ白い歯が顔を覗かせる。
私はディーンのあまりの態度の変わりように少し困惑していた。
「……じゃ、じゃあ、ディーン」
呼び慣れないぎこちなさが、なかなか苦しい。
「私もさや様とか止めて欲しい。あと、そのへりくだった話し方もね……他の国の人の前とかなら仕方ないけど、ちょっと苦手かな……」
責任が重すぎて、とは言えなかった。
「っ!! そ、そうでしたか……配慮が足りませんで……。それでしたら、今後はどのようにお呼びしたら宜しいでしょうか?」
「今まで通りで」
何も考えてないから、前までの感じでいいと思う。
真面目なディーンの性格上、前のように行き過ぎた態度をとる事もないだろう。
「しかし!」
食い下がるディーン。
「王様命令ですよ」
レイブンは底意地の悪い笑みを浮かべている。
相変わらず悪魔のようだ。
「王様と言っても、何も分からないから他の国の人がいない時は立場は皆対等で。名前は呼び捨てで……じゃないとやらない」
レイブンに続いてそっとキラーパスを送った。
あぁ、私も遂に悪に片足を突っ込んだ。
「承知し……た」
一瞬敬語で話しそうになっていたようだったが、眉間に皺を寄せてグッと口を閉じ堪えたように見えた。
まぁ、私も王様になるのを我慢するんだから、少しぐらい我慢して貰わないと割に合わないと思う。
「俺はさやちゃんって、呼ぶけどねー」
アシオンのふざけた声が窓側から聞こえる。
いつの間にやら、窓枠に腰をかけて足をブラブラさせながらこちらを見ている。
……突き落としたい衝動に駆られた。
本当に七賢なんだろうか。
アシオンを七賢として送り出した国がどこかは分からないが、よっぽど人が足りないんだなと思った。
目線をディーンに戻す。
「それで? ディーン、さっきの話に戻るんだけど……他国の使者の挨拶とか、任命式とかは何となく分かるんだけど……四竜が来るって、どういうこと?」
私が一番ネックにしていた事を聞く。
挨拶とか任命式は、いざとなったらいなくなってしまえばいい、ただ四竜が来るのは理由が分からなかった。
それに一番脅威だ。
「新たな竜が産まれる時、その竜を歓迎するために竜達だけで宴が開かれるらしい。ましてや、さやは四竜ではなく……五匹目の竜。四竜が気にするのも無理はない」
なるほど。
要するに、様子を見に来るんだろうか?
新人会みたいな?
鼻で笑われる音がする。
「宴……という名の戦いですがね」
レイブンが、皮肉たっぷりに言ってくれた。
「……」
また頭から血の気が引いていくのが分かる。
せっかく津波並みにデカいスライムを倒せたと思ったら、今度はドラゴンか。
ドラゴン体になっている今でさえ勝てる気がこれっぽっちもしない。
……これはダメだ。
四竜がくる前に確実に逃げよう、そう思った。
王様になった今でも逃げ腰だけは変わらない私だ。
「王となったからには、ドラゴンの役割や外政などについても説明する。部屋を移すぞ」
ディーンは、私を抱き抱えると部屋を出るべくドアに向かった。
レイブンとアシオンも後に続く。
何だか本当に王様になった気分になってきた。




