償い
コンコンと部屋のドアが叩かれ、開く。
「さや様……」
顔を見せたのはディーンさんだ。
って…………様?
なんだか凄く嫌な予感がする。
身体の筋肉が少し強張った。
ツカツカとこちらに歩み寄ると、私の前で跪いて頭を垂れた。
「はじめに、巨大なスライムより街を守っていただき、国民皆深く感謝しております。また、今までの数々のご無礼に対しては私自らの命で償わせていただきます……」
そう言うと腰につけた剣を鞘から抜こうとしている。
「い、いらないんで! ほ、ほんとに大丈夫ですからっ!」
慌てて、剣にかけた手を押さえる。
何だか本当に色々と大変な事になっている……。
私を様付けで呼ぶとか、頭がおかしくなったとしか思えない。
あんなにしっかりしていたディーンさんが、私なんかに跪くとか……。
「あの、よく分からないですけど……大丈夫です。スライム倒せたのは、まぐれだし……私自身、ドラゴンとか未だに信じられていないので……。アハハ……ディーンさんが分からないのも仕方ないかなと……」
乾いた笑いが出てしまった。
「……」
少し顔をあげてくれたディーンさんだったが、難しそうな顔をして目線を合わせようとしてもなかなか目を合わせてくれない。
本当に恥じている様だ。
…………困った。
「あの、本当に償いとかいらないんで……」
私もこういう場は慣れていない為、これ以上何を言っていいかさっぱりだった。
まず私がドラゴンだからってこの場で偉ぶるのは違うと思うし。
ディーンさんも初めは怖かったけど、蓋を開けてみたら国想いの優しい人だと分かったし。
なにより、ディーンさんはこの国の要だと思うから、命の償いなんて言語道断だと思う。
考えが頭の中で渦巻いて、上手く伝えられずモゴモゴしてしまう。
「……ディーン様、さや様はこう仰っています。あまりさや様を困らせるのは宜しくないかと……」
空気を読んでくれたのは、レイブンだ。
正直気持ちを汲み取ってくれたのが、助かった。
「……しかし」
ディーンさんは、苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
「……この国に尽くせばいいんじゃないですか? 今まで通りで……」
思った事をそのまま言ってみた。
部屋が静まり、ディーンさんの驚いた様な視線がこちらに向く。
「あ、なんか……偉そうでスミマセン」
とりあえず偉そうだったので、謝る。
私が上からものを言う事ではない。
「いやいや、そんな事でいいのですかな? それでは償いは……」
「償いは国に返せばいいんじゃないのかな? そーゆー事なんじゃない?」
今度ディーンさんの言葉を遮ったのは、アシオンだった。
「そう! ズバリ!そういう事です」
全く頭が回らなかっただけなのは秘密だ。
アシオンのナイスなアシストに感謝。
「……」
ディーンさんは少し考えた後、決意したように立ち上がる。
「分かりました! さや様の仰る通り、私はこれからも国に尽くさせていただきます」
胸の前で固く握り締められる拳。
意思は硬そうだ。
張っていた肩の力が抜けるのが分かる。
緊張すると、変に肩に力が入ってしまう。
ディーンさんの決意を聞いて、ようやく安堵の息をつけた。




