事情
あれから、アシオンとレイブンに此処に来るまでから来てからの事を話した。
自分の名前や歳。
私は元々本当に人間だったという事。
私のいた世界では魔法や魔物は存在しないという事。
急にこの世界に飛ばされて、本当に困っている事。
きっと向こうで両親が待っている事。
一刻も早く帰りたい事。
そこまで二人に説明したところ、アシオンは「うーん」と唸って眉間に皺を寄せたまま目を閉じてしまった。
レイブンは変わらずの顔でこちらを冷たく見つめている。
結局、分かってもらえそうもない……。
話だけでは、あちらの世界の事なんか分かりっこな……。
「…………あっっ!!!」
携帯電話の存在を思い出した。
携帯電話を探す為にベッドから飛び降りると、椅子に置かれていた肩掛けの鞄を漁る。
「確か……この中に……」
携帯電話は汚れたりするのが嫌だったので、旅立つ日に鞄に入れておいたのだ。
「あ、あった!!」
宝物を取り出すように、頭上に掲げて見せる。
「何だ、それ」
アシオンは興味深々だ。
「魔道具ですか……」
レイブンは呆れたように言った。
「だから、コレは魔道具じゃないんだって……。携帯電話っていって、離れた人とも話せたり、文字のやり取りができたり、写真が撮れたり、世界中の人とやり取りが出来たりする超便利な機械なの!」
「へぇ~!」
アシオンは本当に興味を持ってくれているのが分かる。
「……写真とは、何ですか?」
レイブンがボソリと言った。
「写真は、動かない……あー、なんて言えばいいんだろう……分かんない。動かないの。それでその場面を切り取るんだよ。」
写真を人に説明した経験がないから、何と説明したらいいか分からなかった。
「……」
レイブンの眉間の皺が深くなった。
理解出来なかったのだろう。
「あー、とりあえず見せた方が早いから、二人を撮るね」
爪が当たらないように携帯を操作して、カメラアプリを起動する。
被写体は二人だ。
しっかりとピントを合わせて、撮る。
ーーカシャっ。
カメラのシャッター音が部屋に響く。
「撮れたよ。これ見て」
今撮れたばかりの二人の写真をアシオンに携帯ごと渡して見てもらう。
「どれどれ…………えーーーーっ!!!!!」
アシオンは驚いた様子で携帯画面と、実際のレイブンを交互に見やっている。
「……どうしたんですか? そこまで驚かなくても……」
レイブンはツカツカとアシオンに歩み寄ると、携帯電話を奪い取るようにして画面を見る。
そして、無言になった。
「どう? 分かってもらえた?? その場面を見たまま切り取るの。まぁ、私の世界ではそれを他の機械で弄って偽ってしまう人もいるんだけど……」
アシオンもレイブンも無言だ。
それだけ衝撃だったのだと思いたい。
先に口を開いたのはレイブンだった。
「それで……? この携帯電話とやらが、私達の姿を映した事は分かりました」
「……あ、そうだった。携帯返して、見せるから」
レイブンから、携帯を返してもらうと写真フォルダを漁る。
何処かに景色を撮った写真があるはずだ。
山とかじゃない写真が……。
「あったーー!!」
両親と前に住んでいた一軒家の前で撮った写真があった。
この写真は引っ越す直前だ。
それから、高台から街を臨むように撮った写真がある。
これには小さいが空を飛ぶ飛行機も一緒に撮れている。
飛行機は立派な文明の機械だと思う。
他にもまだフォルダの中には日常の写真はあるが、少しでも分かるのはここらあたりだろうか……。
とりあえず一枚ずつ二人に見せて説明した。
「すっごいな!! 世界中飛び回ってるけど、俺、こんな形の家見たことないよ。」
アシオンは信じてくれたようだ。
ニッコリと笑いかけてくれる。
「……」
レイブンはどうだろうか。
眉間の皺は変わらず深いままだ。
信じてもらえてないような……そんな予感がする。
「もし……」
レイブンが口を開く。
「もし、貴方が仰った事が本当だとしたら……まぁ、信じておりますが……。やはり、帰還は不可能に近いでしょうね」
信じてはくれているらしい。
ただ希望を踏み躙ってくれた。
レイブンには期待していなかったが……。
「えー? 何とかならないの?」
コレはアシオンだ。
「そもそも異世界へと移動する事は、簡単な事ではありません。身体が欠けたりしなかっただけでも幸運な事だと思いますよ。それをもう一度遡って向こうへ渡ろうなんて、尚のこと困難と思われます」
論理的に切り捨てられた。
魔法だ、魔物だ言ってる世界で、こうも論理的に切り返されると思わなかった。
そこは、フワッと魔法で何とかして欲しいところだ。
「魔法で何とかならないの?」
ダメ元でレイブンに聞いてみる。
「貴方は魔法を何だと思っていらっしゃるのですか? 魔法とは正確な原理の元動いているんですよ。土地から土地への移動魔法はありますが、高度ですし。異世界へは不可能です」
またバッサリ切り捨てられた。
ダメか……。
ちょっと期待したのは、秘密だ。
やっぱり簡単には帰れそうにない。
きっと、あの岩が鍵なんじゃないかと私自身は思うんだけど……。
それはあえて二人には言わない事にした。
二人を信じてないわけじゃない。
信じてないわけではないが……自分の保身の為だった。
何とかなるかもしれない可能性を、自分の中で一つだけでも希望として持っておきたかった。




