姿
横から誰かの熱い視線を感じる。
「……うーん……」
「あ、起きた?」
寝ぼけまなこで横を向くと、金髪の美少年が枕に頬杖をついてこちらを見つめている。
サラサラと綺麗な髪は短く切り揃えられており、青と赤のオッドアイの瞳が優しく細められた。
よく見たら、上半身裸で同じベッドに寝ている……。
「キャーーーーーーーーー!!!!」
金髪の見知らぬ男に、自分の枕をぶん投げる。
見事に相手の顔へ、クリティカルヒット!
すぐに足音が聞こえ、ドアが開いた。
「どうしました?」
レイブンだ。
「へ、変態っ!!」
金髪の男を指差す。
「よっ」
金髪の男は悪びれもせずレイブンに、ヘラッと笑って挨拶した。
「…………アシオン。……どーして貴方が此処に居るんですか? まだ国から戻ってくるには早過ぎるでしょう? ……まさか、途中で戻ってきたりしてないですよね?」
片方の口角が引きつっている。
「そのまさかだよ。だって、国に帰ってもどうせ彼処はドラゴン種は居ないし~。意味ないかなって戻って来てみたらさ、客室に可愛いドラゴンが寝てたから添い寝してみた」
ニコニコ笑うアシオンと呼ばれた男は、まったく悪びれる素振りもない。
「貴方って人は……」
頭を抱えるレイブンからは、ドス黒いオーラがはみ出てきている。
え? …………ドラ……ゴン?
可愛い女の子の間違いの……。
慌てて自分の手を見ると、真っ白の鱗だらけで小さい。
アレは夢ではなかったのかと驚いた。
顔、顔はっ!!
ベッドから飛び降りると、姿見に映してみる。
そこには見慣れた顔もはねた髪も何もなく、小さな白いドラゴンがこちらを驚いたように見つめていた。
頭の先から足の先まで全てが白い鱗で覆われている。
短い手足、鋭い牙。
大きく開かれた茶色の瞳だけが、唯一人間だった事を思い出させる。
「そんなっ……」
手を鏡に付けると、カチッと爪が当たる。
現実が酷すぎた。
いや、私は人間だ。
私は人間で……この世界では私は……。
一体、何を間違えたんだろう……。
ただ帰りたいだけなのに……。
どうして帰れないんだろう。
「帰りたい……っ……」
悲しみが膨れ上がり、涙として流れた。
パリパリと耳元で音が鳴り出す。
……まただ。
背中が騒つくと同時に、突然触れていた鏡が割れて弾け飛んだ。
破片が自分に向かってきたが、避けることも出来なかった。
咄嗟に瞼を閉じる。
飛び散った鏡は、重力に逆らえずバラバラと床に落ちていく。
音がしなくなった後、瞼を開けて腕や身体を見るが、私の身体には悲しい事に傷ひとつついていなかった。
この鱗は硬いようだ。
元の私に戻りたい。
こんな横暴な世界は嫌だ。
ヒョイと身体が浮き上がる。
誰かの肩に抱き上げられた。
「そんな泣かないで~。俺、あんまよく分かんないけど、そんなに泣いてるとみんな心配するよ」
ポンポンと背中を軽く叩かれた。
「……帰りたい……」
懐かしい感覚がして、少し感情の波がおさまるのを感じる。
「事情も分からないのに、無駄に期待を持たせないでください」
これはレイブンの声だ。
「……」
また悲しくなってきた。
「いやいやいや、分かんないだろ~。何とかできるかもしれないし、俺ら七賢でさ」
アシオンも七賢の一人らしい。
「……今のところ何ともならないから、困っているのでしょう」
「じゃあ、レイブンは知ってるのか? この子の事情を」
「……ほぼ……理解してます」
「ホラ~、ほぼじゃダメじゃね? 先ずは聞いてみようよ?」
「……」
アシオンの優しさに悲しみではない涙が出た。
ようやく……ようやく話をまともに聞いてもらえる。
「ってことで、一からゆっくりでいいから教えてもらえるかな?」
肩に抱き上げられていたが、ゆっくりベッドに降ろされる。
ベッドの前には笑顔で座り込んだアシオンと、腕を組んで立ったままこちらを怪訝そうな顔で見るレイブンがいる。
手の平で涙を拭うと、鼻から大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
この機会は逃したくない。
時間は沢山あるのだから、この際全て話してしまおうと思った。




