炎とスライム
もう一度、頭上に手をあげて火の球を作ろうとした時だった。
「何してるんですか? これぐらいの大きさになったら中心部にある纏まった芯を破壊しないと倒せませんよ」
左上空から冷たい声がした。
今は少し安心できる、あの声だ。
「レイブンっ!!」
頭上を見上げる。
「スライムはそもそも通常水属性ですから、炎で対処するのはどうかと思いますがね」
そう言うと、街へ向き直り片手を街へ突き出した。
すると街の前に淡く光る透明の壁ができ、街全体を住民ごと包んでいく。
いつものドーム。
アレなら、街は大丈夫そうだ。
「芯って、どれ!!」
レイブンに聞く。
「アレですよ、アレ」
レイブンが顎で指し示した芯とは、地面に近い所にあるがスライムの中心部にある黒い球体だった。
時折、脈打つように形が不定形に動いている。
「……キモい」
ボソっと呟く。
その動きは少し芋虫を彷彿とさせた。
生理的な嫌悪感がこみ上げる。
あまり直視したくない物体だった。
「大丈夫か?!」
背後からまた声がかかる。
振り返ると、ディーンが街の入り口まで飛んできていた。
ドームの壁の中にいるが、戦闘を考えて来てくれたんだろう。
いつもの朱色の鎧だけではなく、兜も着けているし、剣も腰に差してある。
「ディーンさん!」
助かった。
もっとホッとした。
「うむ……。芯まで少し深そうだな……届くか?」
ディーンは淡く光るドームの中にいるため、外には出てこれなさそうだ。
「大丈夫ですとも。こちらの方でしたら、余裕ですよ」
私が口を開く前に被せるようにレイブンが答える。
驚愕して、レイブンを固まった顔で見つめる。
何を考えているのか……。
この間スライムに殺されかけたのに……もう一度死んで見せろと?
こんな壁のようなスライムでは、勝算は1ミリもない。
急激に血の気が引いていった。
やっぱり呼ぶんじゃなかった。
「私は街を守るので精一杯なので、後はお願いしますね」
頭上で何かキラッと光ったかと思うと、すぐ側に大剣がゆっくりと降りてくる。
「……でも……勝てなかったら、どうしたら……」
「勝てます」
キッパリと言い切られた。
腕を組んで此方を見下ろしているレイブンはこんな時でも冷たい。
「……」
もう何を言っても無駄だ。
仕方なく大剣を両手で持つと、芯を正面に見据えた。
遠い。
少なくとも、2~30mはありそうな気がする。
それに、あの球体まではスライムの透明なゲル体が厚く行く手を阻んでいる。
どうしよう。
泳いでいくわけにもいかないし。
何より触りたくないし。
スライムは、物理が効かないなら……魔法しかない。
私が持っている魔法はイフリートさんの炎しかない……。
何とかできないか……。
左手を前に伸ばし、火炎放射機をイメージする。
左手の先から炎が長く前方に伸びた。
さっきのような一時的な攻撃では、すぐ元に戻る事が分かった。
連続した攻撃では、どうなるか気になったのだ。
そのまま前に恐る恐る進んでみる。
スライムが炎に当たると、ジュっと音を立てて蒸発した。
ゴムが溶けるみたいな嫌な臭いに顔をしかめるが、見ると、その部分はぽっかりと穴が空いている。
腕一本くらいは入るだろうか。
これだ!!
そう思った。
ようやく光明が見えた気がした。




