津波
少し歩き出した時、急に前方から降り注ぐ日の光が歪むのを地面に浮かぶ草の影で分かった。
「ん??」
前方に目をやると、何か馬鹿デカい透明なものがズルズルと辺りに生えている草と剣を飲み込みながら此方に向かってきている。
その歩みは鈍いが、根こそぎ摘まれた剣や草は中に包まれる様に入ると、ボロボロと崩れていった。
大きさは街ぐらいだろうか。あまりに大きくて高い壁の様に見える。
逆光でなかなか正体が分からなかったが、あの動きは見た事があった。
スライムだ。
バカデカい、津波のようなスライム。
まっすぐ街に向かってきている。
「嘘……でしょ」
本当に何でこんな時にこんな事が、と自分の不運を呪った。
とりあえず、街の人達を起こそう。
このままでは街の人達が飲まれてしまう。
壁のようなスライムに背を向けて、街に走った。
街では少しづつ人々が起きてきていて、窓を開け始めていた。
「窓閉めてっ!スライム!デカいスライムがきてるー!!!」
マントのフードを開けて、街の人達に大声で怒鳴った。
寝巻き姿の人達は、ポカーンと私を見つめている。
私は、指で迫ってきているスライムを指した。
人々の顔が驚愕から恐怖へと変わっていくと、慌ただしく窓が閉まっていく。
誰かが兵士を呼ぶ声がする。
ダメだ、間に合わない。
もうスライムは街の入り口のすぐ近くまで来ている。
「くそっ!!!」
マントと荷物、香炉も投げ捨てて、スライムと街の間に立ちはだかる。
「まだ試した事ないけど……お願いしますっ! イフリートさんっっ!!」
両手を頭上に掲げて特大の火の玉をイメージする。
手の平に熱を感じる。
チラリと上を見ると直径1mぐらいの大きさの火の玉ができていた。
「よし、行けっ!!!」
スライムに向かって投げた。
見事に命中したが、ジュッと音がしたかと思うと当たった部分が少し凹んだだけだった。
少しすると元にすぐ戻ってしまう。
その間もスライムはにじり寄ってくる。
「レイブンっっーーーーー!!!!」
駄目元で大声で叫ぶと、後ろに下がりながら、もう一度火の玉を作るべく手を頭上に上げる。
迫り来るスライムから目が離せなかった。
今も剣を飲み込みながら消化し続けている。
堅い剣がチョコレートみたいに溶けていく様は恐怖を感じるのには十分だった。
このまま街に入られると、きっと街も城も溶けてしまうんだろう。
それはダメだ。
あんなに……あんなに優しい街にはそのままでいて欲しい。
「いっけーーー!!」
火の玉をもう一度放つが、やはり少し凹んだだけで又すぐに戻ってしまった。
舌打ちをして背後を確認すると、街の入り口には兵士がバラバラと集まって来てはいたが、皆武器を持ったままスライムのデカさに呆然としていた。
……どうしよう。
私ももう打つ手がなかった。




