ここに私と彼がいて
「…………」
「…………」
「……怒ってます?」
「もちろんだ」
「ですよねー……」
「怒らない方がおかしい。もう少しで君は死ぬところだったんだぞ? 出血多量で意識不明の重体……なんとか持ち直したがしばらくは入院だそうだ。ちょうど夏休みに入っていてよかったな。奇妙なところで運が良い、君は」
「なんか全然実感わかないよね」
「てい」
「あいったぁいぼくは病人です安静によろしく」
「なーにが実感わかないよね、だ! 当事者だろうが! のんきに言ってる場合か!」
「い、いやーでも、ほんとのことだし……」
「はぁ……。……心配した。ものすごく心配したんだぞ」
「うん、ありがとう……ってあれ、ちょっと? 泣いてる?」
「冗談じゃないぞ、本気で死ぬほど心配したんだからな……き、君が起きなかったら、も、もう、死ぬしかないと思って、ぐす、ずっと、ハサミ握りしめながら待ってたんだからな……」
「怖いよ!? 冗談でも本気でもやめてよ!!」
「よかった……ぐす、よかったよぉ、生きてた……君はちゃんとここにいるんだ……」
「……うん、いるよ。ちゃんとね」
「……勝手にいなくなったりしないか?」
「しないって」
「本当に?」
「うん」
「ぜったい?」
「うん。ずっと君のそばにいる」
「嘘つき」
「なぜだ……」
「……信じて、いいのか?」
「そうしてもらえると、ありがたい」
「じゃあ、信じる。信じてやる。だから今回みたいなのはもう無しだ。今度やったら絶対に許さないからな。忘れるな」
「了解……あー、まだちょっと気分悪いかも……」
「……なあ。一つ聞いてもいいか」
「何?」
「――君は、なんで私を追いかけてきたんだ?」
「……なんで、といいますと?」
「その、なんだ。私が君にとって憧れの存在だということは、前にも聞いた。それで私をずっとストーカーしてきたというのも理解した」
「ストーカーじゃなくてアレは一種の聖地巡」
「やかましい。……でも、一つだけ納得できないことがある。どうして君は、今でもまだ私のことを助けてくれるんだ? 君と初めて会ったとき、私が熱で寝込んでいたとき、あの時までなら君の憧れがまだ続いていたというのも頷ける。……だが、それから先の私には、誇れるものなんて何一つなかったじゃないか。暇さえあれば死にたがる、過去の栄光など微塵も残ってないただの愚か者だっただろう。遠くから見ていた頃よりもずっとずっと惨めだったんじゃないのか? あまりに情けない私の姿を見て幻滅しなかったのか?」
「……別に。幻滅って言われても、ぼくにとってきみは、世界で一番すごい人に間違いないから。昔でも今でも、たぶんこれからも変わらないと思う」
「本当に、それだけか?」
「…………」
「何か、別の理由があったんじゃないのか。もし君が私に、ただ純粋に憧れだけを抱いていたのなら、なぜ死にたがる私のことを本気で止めようとしなかったんだ。君ほどの人なら、私のことを力づくでも止められたはずだ。でも君はあくまで言葉に頼った。必死で私を説得しようとしたし、それが無理ならせめて協力をと言ってくれた。……何が君をそうさせるんだ? 教えてほしい、君がどんな気持ちで私を助けてくれているのか。君の言葉で、聞かせてほしい」
「……怖くないの?」
「怖いさ。どうしようもなく怖い。君の答え次第では私は大打撃を受けるな。同情や憐憫だと言われたらきっと号泣するだろう。でもいいんだ、聞かない方がもっと怖いから。君がまた今回みたいに、勝手に離れていくのは嫌だ。私は君を知らなさすぎるんだ――だからもっと知りたい。本当の君が知りたい」
「…………」
「…………」
「……ふう。わかった、教えるよ。でもちょっとだけ待ってね、記憶を引き出してこないといけないし」
「……え、引き出す?」
「うん。普段は奥の方にしまってあるんだ。適当に放っておいたら、つまづいて怪我しちゃうからね」




