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意図してない方が性質悪いよ。

城の中の世界を気持ち悪いと感じてから、城を出ることははっきり決めていた。

出て行く直前まで姉に知らせないことは決定事項である。何故なら絶対暴れた上に巧妙に妨害されるからだ。

生活も決まっていた。またお店を開くのだ。姉が居ないので男性客層は確実に減るだろうが、その分女性客に狙いを定めてやっていこうと決めてた。

でも、出て行った後の暮らしを想像してまではいなかった。いや、想像はして理解もしていたが、実感はしていなかった。

そうだ、私は独りになるのだ。





「・・・どうしよう。」

部屋に戻って私は頭を抱えた。え? 悩み相談? 何て言うんだよこの内容を!

「お姉ちゃん結婚したら殿下のになっちゃう。そしたら私一人! どうしよう寂しい!」てか? 阿呆か。

どう考えても堂々巡りで、無理だと判断して私は解決するのを諦めた。だって無理だもん。私が成長すればいいってことでしょ五月蝿い分かってらばーかばーか。

と、一人で愚痴口言っていた三日後。



「アカシェ。元気だったか?」

窓から顔を出したのはネアだった。つーか窓。窓って。ここ二階。まあ、地面は割りとすぐ下だけども。

「え。うん。」

咄嗟に肯定したものの、何やってんのこの人。何でここに居るの。

夕日色の髪が揺れる。

「今の時期は丁度、ノウェル国との国境辺りに雪が降っている次期でな。」

「え、そうなの? ここは最近ずっと晴天だったよ。」

「まああの辺りはこの辺と気候が逆だからな。・・・それで、雪の中馬車は時間が掛かるから、うちの国は早めに出発したんだよ。招待状が来たから、結婚式に出席する為に。そしたら早く着きすぎてしまってな。昨日から、この城に居るんだよ。陛下もいるぞ。」

「ふーん。」

「下に。」

「えっ!?」

勢い良く窓枠に手を掛けて下を見ると、確かに長髪猫目が立っていた。

うわあ、会いたくねえ。

素直に顔を歪めた私は、すっかり失念していたのだ。

ラウディの能力は、記憶の共有。記憶といっても、意識して扱わなければその「記憶」には、思いや感情もこめられるという事を。

しかも、私は丁度悩んでいた。誰か人に聞いて欲しいとも思っていた。聞いて欲しいという思いは、発するものである。つまりは、送信である。無条件に記憶のやり取りが出来る通常のラウディと違って、私は自身が望み意図的にしなければ記憶の送受信は出来なかった。しかし、この時私は無意識に記憶の送信を押していたのである。

ヘイカが顔を上げた。

私は能力の事を思い出した。青ざめた。

ヘイカが目を見開き、一瞬停止した。

そして、



ニヤリと笑った。


悪魔の笑みだった。



き、

「やああああああああああああっ!!!」



ネアが驚いた顔をする。

ヘイカが笑みを深くする。あれは悪魔なんてもんじゃない、邪悪ななにかだ。きっとそうだ。



「嘘でしょ、嘘でしょっ!!? っちょっと待って下さいお願いしますヘイカ! いえ、陛下!」


涙目になって窓から身を乗り出した。ネアが慌てて支える。


「今、私から何も受け取ってないよね!? そうだよね!?」

「受け取るとは何のことだ? そういえば、お前は寂しいんだっけ? 愛しのお姉ちゃんがお嫁に行き、自分は一人になるどうすればいいのか今更実感したと考えて悩んで――――・・・」

「いやーーーっ!」

嘘だ。これは夢だ。いや、夢ならどんな悪夢だ。早々に覚めろ。




「・・・アカシェ。」

ネアが、状況を理解してヘイカの言葉に驚いた顔をする。

私は窓枠で腰を折り曲げて上半身は逆さまに、そのまま目の前の壁に突っ伏した。

どんな赤裸々告白だ。何の公開処刑だ。

頭に血が上り(恐らく逆さまだから)、涙目は今にも涙が零れそうになった。

こんな・・・・・・っ、こんな辱めがあるかっ・・・! しかも、好きな人の目の前だぞ・・・っ

ああそうだ寝よう。今すぐ寝て忘れよう。そうだそれが良い。

絶対に人には言えないような自分の絶対隠しておきたい考えを、絶対に知られたくない人に知られた上につらつらと述べられ、しかも絶対に軽蔑されたくない人の前で言われた。

なんだこれなんだこれもう。



取りあえずはヘイカ滅されろ。




ヘイカは、もう可笑しくてたまらないという爆笑寸前の顔で、手を上げて去って行った。待てコラ。

ネアがヘイカに頷く。どうやら、ネアは一緒に行かなくて良いということらしい。

気を利かせて去ったのか。気を利かせて去ったのか。殴りに行っていいか。

「・・・アカシェ。頭に血が上るから、戻ろう。俺も部屋に入っていいか。」

下を向いたまま頷く。こんな真っ赤で涙目の顔を見せられる訳ない。


窓枠の所にずるりと座り込んだ。ネアが横にしゃがみ込む。

ああ、ヘイカをどうやって抹殺しよう。本当に滅されればいいのに。


「・・・一人になるのが、嫌なのか?」

改めて聞くとなんだこの子供みたいな駄々っ子な悩み。

かっ、と顔が熱くなったが、それでも事実なのでコクリと首を縦に振る。

「・・・リアテーナ妃殿下の他に、家族は居ないのか?」

もう一度首を縦に振る。いない。

父母も祖父母ももういない。

「・・・・・・親戚も?」

「・・・お祖母ちゃんの小さい頃に、ラウディは殆ど滅びて、残った人たちは色々な所にばらばらに散っていったから。」

祖母は、私が幼い頃に「仲間はどうしているか、探しにいこうかと思った時には私はもうおじいさんと家族になっていたから、探しに行ける身ではなかったのよ」と一度だけ言っていた。祖父は家族とは疎遠だったようで、縁はない。

だから、親戚は何処にいるのか、生きているのか、皆目検討もつかない。ヘイカは親戚といえば親戚だが、数には入れてないし頼るつもりも全くない。

本当に、姉だけだった。私の家族。


うーんと少し悩んだ様子を見せたネアは、ぱっと思いついた顔をした、私に提案した。

「じゃあ、家族を作ればいいんじゃないか?」

「はっ?」

さも名案だという顔をしないで下さい。

私の頭から「悩み」の文字がぶっ飛んだ。

「いや、新たに家族を作れば解決するんじゃないか?」

「・・・。」

「・・・。」

無言の神が舞い降りた。

「家族を作るってことは、結婚して子供を生むってことだよね・・・?」

「そうだな。」

「だっ、誰と。」

「ん?」

「相手は誰とよ・・・・」

「・・・。」

「・・・。」

今頃気付いたようだ。顔色が髪色と同じになってるぞ。

「確かに妙案だけども、もう少し、発言する前に意味を考えてから言って下さい・・・。」

「すまん・・・。」

お互いに真っ赤になって注意して、謝る。何だこれ。

「・・・意図してなかったんだが、求婚プロポーズみたいになってしまったな・・・」

「・・・。」

もうやだこの人。






十数分そのまま気まずく会話を続けたけれども、私は外が夕暮れになりかけてるのを見てネアに言った。

「そろそろ戻らないといけないのでは?」

「そうだった。ではまたなアカシェ。」

来た時と同様窓枠を越えるネア。

「あ」

思い出して、ネアに告げる。

「悩んでたけど、話したお陰で吹っ切れたよ! ありがとう。」

主にぶっとんだ提案のお陰で色々吹っ切れてしまった。

「そうか。」

よかったなと言ってネアは去っていく。


大丈夫。ネアのお陰で、結婚しても、王妃になっても、姉は私のお姉ちゃんだということは変わらないのだと思えた。

だから、私は大丈夫。




2012/8/19

誤字訂正致しました。ご指摘ありがとうございます。




ネアって打ったら根亜って出てきて困る。

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