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【2】乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
個別ルート編(連載版に同内容を掲載中)

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第三十三話 another story 冴End『紺色のお守り〜一年後の約束〜』

【another story 冴End】

※このルートは、本編とは異なるもう一つの物語です。 修学旅行で隔離空間事件は起こらず、玲たちは全員無事に帰還。 そして、あの日とは違う未来が動き始める――。

生徒会室。

秋の気配が深まるある日の放課後、玲は意を決して、四人の前で口を開いた。

修学旅行のあの日――。

自分に真っ直ぐな想いを伝えてくれた、サクラ、豪、律、絢。

彼らに伝えなくてはいけないことがあった。


「みんな……修学旅行の時、気持ちを伝えてくれてありがとう。ずっとちゃんと言えなくて、ごめん。」

玲は真っ直ぐに四人の方を見た。

「私にとって、みんなはかけがえのない、大好きな仲間。でも……その『好き』は、恋愛としての好きとは違うんだ。」

玲は一度、深く息を吸った。

「ごめん……。みんなの気持ちには、応えられません。」


静寂が生徒会室を包む。

誰も責めるような顔はしなかった。

ただ――少しだけ寂しそうな表情を浮かべていた。

「……そっか。」

最初に声を出したのは豪だった。

「まあ……なんとなく分かってたけどな。」

そう言って、いつものように笑う。

「如月があの人(・・・)を見る時の顔って……俺たちを見る時とは違うから。」

「豪……。」


「玲らしい答えですね。」

絢も優しく微笑む。

「無理して自分を選んでくれるより……あなたが幸せになってくれる方が、僕には大切ですから。」

「絢……。」


律は少しだけ目を逸らした。

「……まあ、俺は納得してないけど。」

「律……。」

「でも……玲が決めたことなら、邪魔する気はないから。」

律は小さく笑う。


サクラは胸元で手を握った。

「玲会長……きっと、その人は幸せですね。」

「え?」

「だって玲会長が、こんなにも大切に想っている人だから。」

「サクラ……。」


胸が熱くなる。

みんなは分かっていた。

私が誰を見ているのか。

私自身が認めるより前から――。



年が明け、街が白く染まるお正月。

先に東京の大学へ進学した黒崎冴(くろさきさえ)が、短い帰省で戻ってきていた。

静かに雪が降り積もる喫茶店。

向かい合わせに座る冴は、コーヒーカップを置き、視線を玲に向けた。

「進路はもう決まっているか?」

「はい。冴先輩と同じ……東京の大学へ進学したいと思います。」

玲の言葉に、冴の眉がかすかに跳ねる。


『私が先に道を作る。だから来年、お前はその後を追ってこい。』

卒業式の日に、冴がかけてくれた言葉が耳から離れない。

(絶対合格して……冴先輩に、あの日の返事をしなくちゃ!)

言葉に込めた固い決意を感じ取ったのか、冴の口元がほんのわずかに、嬉しそうに緩んだ。

「そうか……。」

そう言うと、冴はコートの内ポケットから、一つのお守りを取り出した。

深い紺色の生地に、金色の糸で刺繍が施された合格祈願のお守り。

「じゃあ、これをお前に……。」

「これは……?」

「お前なら大丈夫だと思うが……。これは俺が入試の時に持っていたものだ。きっと、お前にも力を貸してくれる。」

冴から直接手渡されたお守りは、どこか冴と同じ、静かで温かい香りがした。

「ありがとうございます!  絶対に合格してみせます!」

「ああ。……朗報を待っている。」



――大学入学試験、当日。

最悪の事態が玲を襲っていた。

緊張からか、それとも連日の疲れからか――

朝起きた時点で、熱は38度を超えていた。

「ハァ……ハァ……。でも……ここで休むわけにはいかない!」


朦朧(もうろう)とする意識の中、玲は気力で試験会場の席についた。

一時間目、二時間目と、削られていく体力を必死に(つな)ぎ止める。

そして、最後の科目――『英語』。

(あ……ダメ……視界が……。)

激しい目眩が玲を襲った。

文字が歪み、思考が白い霧に包まれていく。

手に持った鉛筆が、カラカラと音を立てて机から落ちそうになる。

限界だった。

意識が落ちかける暗闇の中で、玲の手が自然と制服のポケットへと伸びる。

握りしめたのは、あの紺色のお守り。

(冴先輩……!  私に……力を貸して!)

指先にぎゅっと力を込めた瞬間――。

脳裏に、あの静かで凛とした声が響き渡った。


『俺の後を追ってこい』

『未来を共に歩もう』


――ハッと呼吸が戻る。

(そうだ……!  私は、何としてもあの人の元へ行くんだ!!)

冴の声を思い出した瞬間、諦めかけていた心にもう一度だけ火が灯った。

玲は震える手で再び鉛筆を握り直すと、残り数分の試験時間に全魂を込めて解答用紙を埋め尽くした。



春。満開の桜が咲き誇る、東京駅。

人波が行き交う改札口の前に、スーツケースを引いた玲が立っていた。

少し離れた街灯の側で、長身を黒いコートに包んだ青年が、じっと改札口を見つめている。


「冴先輩~!」

玲が声を上げて駆け寄ると、冴がゆっくりと振り返った。

「来たな……。」

「はい!  合格しました!  ……試験の日、これのおかげで最後まで頑張れました!」

玲は誇らしげに、あの紺色の合格お守りを掲げてみせた。

冴はそれを見つめ、静かに目を細める。

「そうか……良かった。では、それはお前が持っていろ。」

「えっ?  でも、これは冴先輩の大事な……。」

「……俺には、もう必要ないから。」

「……冴先輩?」


二人の間に、桜の香りを含んだ春風が吹き抜ける。

冴は一歩、玲へと歩み寄った。

「ここにお前がいるということが……返事(・・)ということでいいんだろう?」

あまりにもストレートな言葉に、玲の体温が一気に上昇する。

顔が熱くなり、胸が破れそうなほど高鳴った。

けれど、もう迷いも躊躇(ちゅうちょ)もなかった。

玲は冴の瞳を真っ直ぐに見つめ返し、一年間ずっと温め続けてきた想いを言葉にした。

「はい。冴先輩、一年前の返事をさせてください。」

一呼吸置いて、溢れ出る気持ちを込めて(つむ)ぐ。


「私も……冴先輩のことが好きです。会えない間も、この気持ちが消えることはありませんでした。……これからは、ずっとあなたの隣を歩かせてください。」

言い切った瞬間、強い力で肩を抱き寄せられた。

視界が冴の胸元で埋まる。

「冴、先輩……っ。」

「ああ……もちろんだ。」

耳元で響く、低く熱を帯びた声。

冴の腕が、玲の身体を折れそうなほど強く抱きしめる。

「覚悟しろ。もう手放してやるつもりはない。」

普段の冷静な冴からは想像もつかないほど、情熱的で独占欲に満ちた視線に、玲は胸がキュンと締め付けられた。

嬉しくてたまらない。

「ふふっ、大丈夫です。冴先輩こそ……途中で『飽きた』なんて言って差し戻すのは無しですからね!」

玲が腕の中で悪戯っぽく笑うと、冴も呆れたように、けれど心底愛おしそうに息を漏らした。

「……言わないさ。一生な。」

抱擁が解かれ、冴の手が玲の頬にそっと添えられる。

見つめ合う二人の距離がゼロになる――。

舞い散る桜吹雪の中、二人は静かに、甘い誓いのキスを交わした。


キスが解け、真っ赤になる玲を見て、冴はどこか満足そうに目を細めた。

「……さて。合格祝いと引っ越し祝いだ。まずは俺の部屋へ行くぞ。」

「えっ!? 冴先輩の部屋ですか!?」

「ああ。荷物もある。今日は俺が面倒を見る。」

「で、でも……。」

冴は玲の手をがしっと握り、そのまま離さない。

「……覚悟しろと言っただろう? 今日はもう、帰すつもりはない。」

「〜〜〜っ!?」

眼鏡の奥で悪戯っぽく笑う冴に、玲は顔を真っ赤に染めるしかなかった。


春風に舞う桜の花びらが、二人の足元を優しく彩っていく。

つないだ手の温もりと、ポケットの中で静かに揺れる紺色のお守り。

あの日交わした「一年後の約束」は、ようやく叶った。

二人は、肩を並べて歩き出す。

二度と離れることのない、これから始まる新しい未来へ――。


another story 冴End『紺色のお守り〜一年後の約束〜』


Fin.

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