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【2】乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
個別ルート編(連載版に同内容を掲載中)

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第三十四話 another story 烈End『金色のお守り〜世界で一番眩しい彼と、秘密の恋〜』

【another story 烈End】

※このルートは、本編とは異なるもう一つの物語です。 修学旅行で隔離空間事件は起こらず、玲たちは全員無事に帰還。 そして、あの日とは違う未来が動き始める――。



高校を卒業して、一か月。

玲は、東京で新しい生活を始めていた。

春の街は、まだ少しだけ肌寒い。

けれど、駅前を行き交う人々の表情はどこか明るく、新しい季節への期待に満ちている。


そんな街並みの中で、玲の足は自然と立ち止まった。

巨大なビジョン、駅構内の広告、雑誌のポスター。

街の至るところに、一人の青年の姿が映し出されている。

海外で目覚ましい活躍を続け、ついに日本デビューを果たした、逆輸入スター――鬼塚烈。

少し長く伸びた金色の髪、自信に満ちた笑み、まっすぐこちらを見つめる金色の瞳。

テレビの中で輝くその姿は、一年前まで同じ制服を着て笑っていたとは思えないほど眩しかった。


「……烈。」

思わず、その名前が唇からこぼれる。

ポスターの烈と目が合った気がして、玲は慌てて視線を逸らした。

胸が熱い。

思い出すのは、卒業式の日――屋上で告げられた、あの真っ直ぐな想い。


『……好きだ。』

『お前じゃなきゃ、駄目なんだ。』

『もっといい男になって……絶対、お前を惚れさせてみせるから。』


「あの時の約束……まだ、有効だよね?」

誰にも聞こえないほど小さな声で呟き、玲は制服のポケットへそっと手を入れる。

そこにあるのは、修学旅行で買った金色の開運お守り。

――いつか烈に会えたら渡そう。

そう決めてから、このお守りだけは毎日欠かさず持ち歩いていた。


修学旅行の後。

サクラ、豪、律、絢には、自分の気持ちをきちんと伝えた。

恋愛としては応えられないこと。

けれど、大切な仲間であること。

誰も玲を責めなかった。

それどころか、「玲の想う人と、幸せになれ。」と、背中を押してくれた。

みんなの優しさを思い出し、玲は金色のお守りをぎゅっと握り締める。

(烈に会いたい……。会って、あの日の返事をしたい。この想いを、ちゃんと伝えたい。)

その時だった。


キキッ――。

玲のすぐ横に、一台の黒塗りのワンボックスカーが急停止した。

「えっ?」

驚く間もなく、スライドドアが勢いよく開く。

「わっ――!?」

中から伸びてきた大きな手が玲の腕を掴み、そのまま一気に車内へ引きずり込んだ――。

(……何!? 誘拐!?)

「だ、誰かーーーっ!! 助けてーーー!!」

必死にもがいた瞬間、後ろからさらに力強い腕が伸びてきて、そのまま羽交い締めにされた。

「ん~~~~っ!!」

口まで塞がれ、声にならない悲鳴を上げる。

「おいおい、落ち着けって!」

耳元で聞こえた低い声に、玲の動きがぴたりと止まった。

(えっ……この声……まさか?)

恐る恐る振り返る。

肩まで伸びた金色の髪。

日に焼けた褐色の肌。

サングラスに隠された目元。

けれど、その姿を見間違えるはずがなかった。

「……烈?」

すると目の前の青年は、ゆっくりとサングラスを外し、不敵な笑みを浮かべる。

「せいかーーい。」


鬼塚烈。

さっきまでポスターの中にいた人物が、今、目の前にいる。

(えぇぇぇーーーっ!?)

驚きすぎて声も出ない。

(これ……開運お守りの効果!?  すごすぎない!?)

頭の中が大混乱している玲を見て、烈は(こら)えきれないように吹き出した。

「ぷはっ。お前、ほんっと変わってねぇな。」

その一言で、一気に昔の空気が戻る。

「そう? これでも身長二センチ伸びたんだよ! もうすぐ烈に追いつくからね!」

「へぇー、すげぇじゃん。」

烈は玲の頭をぽんと叩きながら笑う。

「でも残念。俺も三センチ伸びた。まだまだ伸び盛りなんだよ。」

「えーっ!? ずるい!」

「身長って、ずるして伸びるもんじゃねぇだろ。」

くだらないやり取りに、二人は思わず笑い合う。

たった一年会っていなかっただけなのに、不思議なくらい距離は変わっていなかった。


運転席では、三十歳前後の男性が頭を抱えていた。

どうやら烈のマネージャーらしい。

「烈くん!? その子、誰!? 誘拐とかやめてよー!?」

「ははっ、大丈夫だって。」

烈は豪快に笑うと、玲の肩をぐいっと抱き寄せる。

「だって……こいつは俺の美の神(ミューズ)だから!」

「ミ、ミ、ミューズ……!?」

玲の顔が一瞬で真っ赤に染まる。

「ちょっと、烈っ……!?」

「烈くん何言ってるの!? 今からテレビ局で生放送の特番なんだよ!? スキャンダルになったらどうするのさ!」

悲鳴にも似たマネージャーの声に、烈は肩を揺らして笑った。

「知るかよ。俺はずっと、この日のために日本へ帰ってきたんだ。」

真っ直ぐ前を見据え、烈は力強く言い放つ。

「文句があるなら、最高のパフォーマンスで黙らせてやる。だから今は、黙ってアクセル踏め!」

「うわぁぁぁ……もう知らないからねぇー!」

頭を抱えるマネージャーをよそに、黒塗りのワンボックスカーは都心の道路を勢いよく走り出した。


しばらくすると、車内は静かな空気に包まれた。

玲は隣に座る烈を、そっと盗み見る。

さっきまで昔と変わらない調子で笑い合っていた。

けれど、こうして改めて見ると――やっぱり、違う。

広くなった肩、服の上からでも分かる引き締まった身体。世界を舞台に戦ってきた者だけが(まと)う、圧倒的な存在感。

卒業式の日の少年らしさは影を潜め、この一年で烈は、誰もが振り返るような「大人の男」へと成長していた。

(……かっこいい。)

そう思った瞬間、胸がドクンと大きく鳴る。

鼓動はどんどん速くなり、耳の奥まで響いていた。

その時。


「……なに?」

烈が不意にこちらを向く。

「そんなにじろじろ見られると……照れるんだけど。」

「えっ!? あ、ううん!」

玲は慌てて首を振る。

「その……なんか、すごく格好良くなっちゃったなぁ……って。」

近くにいるはずなのに、どこか遠い存在になってしまったような気がした。

そんな玲を見つめ、烈はふっと優しく笑う。

「……言っただろ?」

低く甘い声が耳をくすぐる。

「『惚れさせてやる』って。」

「〜〜〜〜っ!」

玲は耳まで真っ赤になり、そのまま(うつむ)くしかなかった。


車はテレビ局の裏口へ到着した。

「烈くん! 急いで急いで!」

スタッフたちが慌ただしく駆け寄ってくる。

「烈くん! 出番まであと十分! 衣装に着替えてメイク直して!」

「了解!」

烈は玲の手首を掴んだまま車を降りると、そのまま局内へ走り出した。

「えっ!? 待って、待って!? 私、このまま一緒に入っちゃっていいの!?」

「いいから来い!」

そのまま半ば強引に手を引かれ、玲は楽屋へ雪崩れ込んだ。


着替え終えた烈は、鏡の前で最後の身だしなみを整えている。

本番までは、あとわずか。

玲は意を決し、衣装の裾をそっと引いた。

「ねぇ、烈。」

「ん?」

玲はポケットから、小さな包みを取り出した。

「これ……修学旅行の時に買ったお守り。」

金色に輝く、小さな開運お守り。

「いつか会えたら渡そうって思って……ずっと持ち歩いてたんだ。」

烈は驚いたように目を見開き、お守りと玲の顔を交互に見つめる。

「これね、本当にすごいんだよ!」

玲は少し照れくさそうに笑った。

「さっきも『烈に会いたい』って握ってたら、本当に会えたんだから!」

その無邪気な笑顔に、烈の瞳が熱を帯びる。

烈はお守りを握り締めると、衣装の内ポケット――心臓に一番近い場所へ、そっとしまった。

「……サンキュ。」

優しく笑う。

「これがあれば……俺は無敵だ。」


ステージ袖。

スタッフたちが慌ただしく駆け回る中、重低音が腹の底まで響いてくる。

スポットライトがスモークを切り裂き、客席からは地鳴りのような歓声が押し寄せる。

世界を相手に戦ってきた、本物のステージ。

その熱気が、玲の肌を震わせる。

烈はそんな玲を見つめ、小さく笑う。

「玲。ここで見てろ。」

真っ直ぐな瞳が玲だけを映す。

「俺、お前のために歌うから。」

一歩、ステージへ踏み出す。

「……しっかり目に焼き付けとけよ?」

そのまま、光の海へ飛び込んでいった。


『続いては――今、全米で大注目の逆輸入スター! RETSU ONIZUKA――!!』


爆音とともにアップテンポなイントロが鳴り響く。

足元から伝わる振動が、玲の鼓動と重なる。

ステージ中央で、烈は舞うように踊り、魂を込めて歌った。

圧倒的な歌唱力。

洗練されたダンス。

誰もが目を奪われる存在感。

観客も、カメラの向こうの視聴者も、その全員が『鬼塚烈』という光に魅了された。


曲がクライマックスへ差しかかる。

カメラが烈の顔を大きく映した、その瞬間――。

烈の視線がレンズを越えて、ステージ袖で見守る玲だけを見つめた。

卒業式の日と同じ、不敵な笑み。

そして――ウインクを一つ。

「――っ!」


ワァァァァァァァァァッ!!

会場は割れんばかりの歓声に包まれた。


それなのに玲には、音も光も遠く感じる。

世界中の誰でもない。

烈は今、この広い世界で、自分だけのために歌ってくれている。

その想いが胸いっぱいに溢れ、気づけば涙が頬を伝っていた。


パフォーマンスが終わる。

鳴り止まない拍手の中、烈はステージを降りるなり一直線に玲の元へ駆け寄ってきた。

肩で大きく息をしながら、それでも真っ直ぐ玲を見つめる。

「……ハァ。……どうだった?」

汗を拭うことさえ忘れたまま、小さく笑う。

「俺……少しは、いい男になれてたか?」


卒業式の日の約束。

『もっといい男になって、絶対お前を惚れさせてみせるから。』

その言葉が玲の胸によみがえる。

ぽろり、と涙が零れ落ちた。

「うん……。なれてた……っ。」

涙声のまま笑う。

「世界一……格好よかったよ!」

玲は涙を拭わず、そのまま想いをぶつけた。

「もっといい男になるなんて……ずるいよ。」

嗚咽(おえつ)混じりの声が震える。

「アメリカにいる間も、雑誌で見るだけでドキドキしてたのに……。今日会って、ステージ見て……もう、心臓が壊れそう……!」

その言葉を聞いた瞬間だった。

烈は玲の手首をぎゅっと掴む。

「こっち。」

「えっ!? 烈!?」

そのまま近くの楽屋へ駆け込んだ。


ガチャ――。

カチリ。

ドアに鍵が掛かる。

直後、外から激しくドアが叩かれた。

「ちょっと烈くん!? 鍵閉めて何やってるの!? このあと番組のエンディングと取材があるんだよ!? 開けてってばーー!!」

マネージャーの叫び声が響くけれど、その声は二人には届かない。

そこは外の喧騒から切り離された、二人だけの空間だった。


烈は玲を強く抱き寄せ、そのまま首筋へ顔を埋める。

荒い呼吸、激しく鳴る鼓動、その全てが肌越しに伝わってくる。

「……返事、聞かせてくれる?」

一呼吸置くと、玲は思いの丈をまっすぐに伝えた。

「私、烈のことが好きっ……! 『惚れさせてみせる』なんて言われる前から……もうずっとずっと前に、私は烈に惚れてました……っ!」

一瞬の静寂。

次の瞬間――。

「――ッ!!」

壊れそうなほどの強い力で抱きしめられた。

烈の太い腕が、玲の腰と背中を包み込み、己の胸の中へと閉じ込める。

首筋に埋められた烈の顔から、熱い息が漏れた。

「最高のご褒美……。」

震える声。

「俺……頑張った甲斐あった……!」

噛みしめるような烈の声が、微かに震えている。

ゆっくりと体が離れると、烈の大きな手が玲の頬を優しく包み込んだ。

親指で頬の涙を丁寧に拭うと、烈はたまらないといった様子で目を細める。

「俺……もう我慢しねぇから。」

「え……?」

唇が重なる。

触れるだけの、けれど熱を帯びた優しいキス。

「ん……。」

初めてのキスは、汗と情熱の匂いがした。

唇が離れる。

烈は額を玲の額へそっと寄せ、悪戯っぽく笑う。

「これから先、どんな壁にぶち当たっても……俺はお前を絶対離さねぇ。」

優しく笑みを深める。

「ずっと見ててくれよ? 俺の美の神(ミューズ)。」

玲は涙を浮かべたまま、大きく頷いた。

「うん!」

満面の笑みが咲く。

「どこまでも……喜んで。」

その答えに、烈はもう一度、宝物を抱き締めるように玲を強く抱き寄せた。


外では相変わらずマネージャーがドアを叩いているけれど、今の二人には届かない。

これから先、どんな試練が待っていようと。

どんなスキャンダルに巻き込まれようと。

二人の手が離れることは、二度とない。

きらびやかな世界で輝くスターと、その美の神(ミューズ)

二人だけの新しい物語が――今、ここから走り出す。


another story 烈End『金色のお守り〜世界で一番眩しい彼と、秘密の恋〜』


Fin.

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