表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【2】乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
個別ルート編(連載版に同内容を掲載中)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/35

第二十九話 律End『クリーム色のお守り〜小悪魔な天使と、二人だけの世界〜』

放課後の校舎。

橙色に染まる廊下を、玲は少し早足で歩いていた。

胸のポケットの中で、カサリと柔らかな布の感触が揺れる。

――京都のホテル。二人きりの部屋で、律から渡されたクリーム色の魔除けお守り。

『俺のことだけ見て、俺のことだけ考えていてほしいなんて……。こんな気持ちになったの……玲だけなんだ。』

無邪気な笑顔の裏に隠されていた、痛いくらいにひたむきで純粋な情熱。


律のことは大好きだ。

けれど、その「好き」は恋愛としてのものなのか、推しに向けたものなのか……その意味をずっと考えていた。


向かったのは、校舎の片隅にあるパソコン室。

静まり返った部屋の扉をそっと開けると、パソコン画面の青白い光と夕光が交ざり合う中で、律が一人キーボードを叩いていた。

「律。」

名前を呼ぶと、カタカタと鳴っていたタイピングの音がぴたりと止まった。

律がゆっくりと振り返る。

液晶の光を反射していた彼の瞳が、私を捉えると丸く見開かれた。

「玲……?  どうしたの、そんなに慌てて……。」

「律、遅くなってごめん。返事……しに来たんだ。」

律はその意味を正しく理解すると、くるっと椅子を回し玲に向き直った。


玲は息を整えながら歩み寄り、制服のポケットから震える指でお守りを取り出した。

修学旅行の日から、ずっと大切に持ち続けていたクリーム色のお守り。

隔離空間でも最後まで離さなかった、小さな宝物。

それをそっと律へ差し出す。

「私の返事は……これだよ。」

「……っ!  これ……俺があげたやつ……。」

律の息が止まる。

お守りと私の顔を、交互に見つめる彼の瞳が揺れた。

「うん。あの時………私が最後まで握りしめていたのは……律から貰ったこのお守りだったんだ……。」

「……玲。」

「私ね、ずっと考えてたんだ。私が律に向ける『好き』は、どんな気持ちなんだろうって。最初は……大切な相棒で、放っておけない可愛い弟みたいだって思ってた。」

律がキュッと唇を噛み締め、少しだけ寂しそうな顔をする。

私は首を小さく振って、真っ直ぐに律の目を見つめた。

「でも、それはいつの間にか違うものになってた……。」

「え……?」

「あの隔離空間で、律が私を見つけてくれて……。姿形が違う私に、律が『そんなの関係ない』って手を差し伸べてくれた時……泣きそうなほど嬉しかった。この手を離したくないって強く思ったんだよ。」

お守りを握る手に、ギュッと力を込める。

「その時に分かった。私は律のこと、一人の男の子として好きなんだって。」

玲は、潤んだ瞳を律に向けた。

「私、律の『特別』になりたい。本当は冴えない女の子だし……。見た目は男の子だから、もしかしたら周りから変な目で見られるかもしれないけど……。それでも、律が良いって言ってくれるなら……。」


パソコン室を静寂が包む。

律は呆然としたように私を見つめたまま、微動だにしない。

返事がないことに急に不安になり、玲の胸がドクドクと不規則に打ち始めた。

「……り、律……?」

その時、バッと律は両手で顔を覆い、ガバッと深く伏せてしまった。

耳のふちまで、一瞬で真っ赤に染まっていく。

「律……!?」

「玲〜〜、ずるいよ。そんな顔で見つめられたら、俺……我慢できなくなっちゃう……。」

「えっ……律? でも、私……本当は冴えない女の子なんだよ?」

「……うん?」

「見た目、男の子同士だから……変な目で見られるかもしれないんだよ?」

「……??」

律は『それが何か? 問題でもあるの?』と言いた気な顔で、きょとんとこちらを見ている。

「……だって玲は玲だよ? 男とか女とか……関係なくない?」

「……そういうもんなの?」

「うん。だって……俺からすれば、玲は『性別・如月玲』だし!」

今度はこちらがきょとんとする番だった。

律はやっぱり天才だ……理屈がさっぱり分からない。

分からないけれど……そう言い切る彼が、この上なく愛おしい。


「玲……大好きだよ。世界中の誰よりも……。」

そう言うと、律は私の右手を取った。

指と指を絡める「恋人繋ぎ」で固く組み合わされ、その手のひらの間には、二人で持ったクリーム色のお守りが挟まる。

囁くような言葉とともに、律の顔が重なる。

唇が、そっと触れ合う。

初めてのキスは、羽が頬を撫でるような優しいキスだった。

律は顔を離すと、両手で口元を覆い頬を染めた。

「ふふっ、やっとできた……!」

その顔や仕草が天使のようで、玲は軽く目眩を起こす。

(やっばい! 私の恋人……天使だ!)


そう思ったのも束の間、そんな天使の顔をした恋人は、今度は小悪魔のような表情で私に提案を持ちかける。

「そうだ、玲! これからは毎日、放課後は俺とゲーム勝負しよ?  負けた方は、勝った方の言うこと何でも聞くルール!」

「えっ、なにそれ!?」

「勝負するゲームは、俺が決めていい?」

「いいけど……。それって、圧倒的に律が有利じゃない!?」

「ふふっ。これで毎日、玲とキスができるなぁ。」

律は悪戯っぽく微笑み、私の額に自分の額をこつんと寄せた。

その瞳は、まるで宝物を見つけた子どものように、きらきらと輝いていた。



季節は巡り――

街が色とりどりのイルミネーションに彩られる十二月。

恋人になって初めて迎えるクリスマス・イブ。

『クリスマスプレゼントは、物じゃなくて二人きりで過ごす時間がいい!』

律のそんな願いで、今日は誰にも邪魔されないお部屋デート。


部屋の隅には、小さなクリスマスツリー。

テーブルには、二人で買い込んだコンビニチキンやジュース、スナック菓子、イチゴのショートケーキが並び、ささやかなパーティーを彩っている。

ベッドを背もたれにして並んで座り、お菓子をつまみながらゲームに熱中する二人。

今日の勝負は、積み上がるブロックを素早く消し、制限時間内のスコアを競う落ちゲー三本勝負。

一対一の激戦の末、ついに最終戦が決着した。

「あ〜〜悔しい! 負けたぁーー!!」

玲はコントローラーを持った手を、力なく下ろした。

「やったぁ!! 俺の勝ち〜〜!!」

律は両手を高く突き上げ、満面の笑みではしゃいだ。

(あぁ〜〜、私の天使は今日も可愛いっ!!)

勝負に負けても、こんな可愛い恋人の姿が見られるなら悪くないな……と、玲は隣で顔を綻ばせる。


「じゃあ、約束通り……俺の願い、聞いて?」

律はにこりと笑うと、大きめの紙袋を玲へ差し出した。

「これ……?」

袋を開くと、中から現れたのは赤いサンタ帽と、大きなリボンが付いたサンタワンピースだった。

「えっ……律くん……これって……?」

恐る恐る顔を上げると、律は期待に満ちた瞳をきらきらと輝かせている。

「うん。可愛いサンタさんのコスプレ。玲に着てほしくて準備したんだ!」

「えーっ!! 最初から勝つ気満々!? しかも、これ女性用……。律の方が絶対似合うよ!!」

「いやいや、大丈夫。玲なら絶対可愛いから!」

にこにこと笑う律に、玲は言葉を失う。

「それに……もちろん、ゲームは最初から勝つつもりだったけど……俺、ズルはしてないからね?」

「うう〜〜、そうだけど……。」

(前世の姿ならともかく……今の私でこれは、かなりキツイのでは……。)

しかし律は、子犬のような期待の眼差しを向けてくる。

『せっかく玲のために準備したんだよ? お願い聞いてくれるよね?』

そう言われている気がしてしまう。

「……わ、分かった。でも、似合わなくても笑わないでよ?」

玲は覚悟を決め、衣装を抱えて隣の部屋へ向かった。


「ねぇ、玲〜。まだ〜〜?」

「あの〜……着たは着たんだけど〜……。」

玲の返事に耐えきれなくなった律は、そっと扉を開けた。

そこにいたのは――

真っ赤な顔で、スカートの(すそ)を必死に引っ張る玲。

百八十センチ近い長身では、丈は膝がようやく隠れる程度しかない。

「…………。」

律は無言のまま、スマホを取り出した。

カシャシャシャシャッ!!

激しいシャッター音が部屋中に響く。

「えっ!? 律っ!? 律ーーっ!?」

慌てる玲をよそに、

「玲、こっち!」

「次は笑って!」

「今度はこっち向いて!」

律の即席撮影会が始まった。

ベッドの上でも一枚。

サンタ帽を被って一枚。

照れて頬を赤く染めた表情でも一枚。

「あの……もう……そろそろ終わりでいいかな……。」

撮影され続けた玲は、とうとう力尽き、ベッドへ倒れ込む。

「うん。ありがとう、玲。大満足!」

「それは……それは……良かった。」

へにゃりと笑って顔だけを上げた、その瞬間――

パシャリ。

「えっ……律?」

律は撮れた写真を満足そうに眺める。

「よし。この写真、待ち受けにしよっと。」

「いやーーーっ!! 律ーーーっ!! それだけはやめてーーーっ!!」

玲の悲鳴と、律の楽しそうな笑い声が、クリスマスの夜の部屋いっぱいに響き渡った。



桜の蕾がほころび始めた春――。

校庭では、満開の桜が春風に乗ってひらひらと舞い、二人は卒業の日を迎えた。

玲は如月グループの次期総帥として東京の難関大学へ。

律は卓越したプログラミングの才能を買われ、東京の大手IT企業への就職が決まっていた。

それぞれの夢へ向かって歩き出す春。

卒業式を終えた二人は、人影の少なくなった校庭を肩を並べて歩いていた。

「卒業かぁ……。なんだか、あっという間だったね。」

すると律は、玲の隣へそっと寄り添い、腕を絡めるように組んだ。

「うん。俺、この学園に来てよかった。玲に会えて……本当に良かった。」

「うん、私も……。」

春風が桜の枝を揺らし、花びらが二人の間を静かに舞い落ちていく。

「卒業するの……寂しい?」

玲がそっと問いかけると、律は少し考えるように空を見上げた。

「うーん、……ちょっとだけ。」

そう言ってから、ふっと笑う。

「でも俺、玲と同じ東京に行くでしょ? 玲が近くにいてくれるなら、それだけで十分かな。」

「ふふっ、律らしい。律は、東京では会社の寮に入るの?」

「いや……それも考えたんだけど……。」

律は絡めた腕に力を込めた。

「玲の大学と俺の会社、結構近いんだ。」

「……うん?」

「だからさ……二人で一緒に暮らさない?」

玲は目を見開き、そのまま頬をみるみる赤く染めた。

「り、律!? そんな……急に……冗談……。」

「冗談じゃないよ? 結構前から本気で考えてた。」

そう言うと、ポケットからいくつかの物件のチラシを取り出した。

「ほら、ここ。 ここなら駅も近いし、コンビニもある。こっちは最上階の角部屋だから、あんまり音とか気にならないかも。こっちは――。」


私の愛しの天使は案外ちゃっかりとしていて、思った以上に具体的な未来を私に運んできてくれた――。



卒業式から数日後――。

本来なら如月グループ主催の「卒業祝賀会 兼 如月玲十八歳バースデーパーティー」が開かれる予定だった。

けれど玲は、新生活の準備を理由に、その招待を丁重に辞退した。

今は律と二人、都内に借りた2LDKのマンションで、新しい暮らしの準備を進めている。

まだ何も敷かれていないフローリングに並んで座り、段ボール箱を一つずつ開けていく。


「パーティーできなくて、みんなに悪いことしたかなぁ〜。」

「……大丈夫だよ。みんなもそれぞれ新生活の準備があるだろうし。」

「そっか。」

玲は安心したように微笑み、次の箱へ手を伸ばす。

ふと、玲は首を傾げた。

「そういえば律、荷物少なくない?」

「うん。」

律はあっさり頷く。

「だって、コップとかお皿とか歯ブラシとか……これから玲と一緒に選んで揃えていきたいじゃん。」

その言葉に、玲の頬がふわりと赤く染まる。

「それって、なんだか――」

言い終える前に、律がそっと顔を寄せ、耳元で囁いた。

「――新婚生活みたい?」

甘い吐息が耳をくすぐる。

その刺激と言葉の甘さに、玲の体温が一気に上がった。

「も、もう律〜〜!! そういうの、私が弱いって分かって言ってるでしょ!?」

真っ赤になって抗議する玲を見て、律は楽しそうに目を細める。

後ろからぎゅっと抱きしめると、玲の肩へ顎を預ける。

「……ごめんね、玲? ……大好きだよ。」

「……うん。……私も、大好き。」

二人は自然と顔を寄せ合い、優しく唇を重ねる。

新しい生活の始まりを祝福するように、春の柔らかな陽射しが部屋いっぱいに降り注いでいた。


あの日、生徒会室で始まった出会い。

修学旅行で交わした告白。

そして、クリーム色のお守りに託された想い。

すべてが今日、この瞬間へと繋がっていた。

互いに唯一無二の片翼を得た二人は、支え合いながら、笑顔も涙も分け合って未来へ羽ばたいていく。

その歩みは、きっとこれから先も、ずっと――。


律End『クリーム色のお守り〜小悪魔な天使と、二人だけの世界〜』


Fin.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ