03 もっときらきらに
ゼインは驚くくらいに強く、きらきらになってきていた。
それでもまだ、後少し。どうしたら求める以上になるのかと、グレイスは頭を大きく傾げていた頃のことだった。
「魔王様がちゃんと城にいなさいって」
「ちゃんと言われた事やっているのに?」
「勇者が近づいているからよ」
森の周囲にいた魔物の相手をしてくれたザリティアがそんなことを言ってきた。
確かにゼインはずいぶんと魔王がいる城に近づいていたが、すぐにでも城で待たなければいけないような近さではなかった。
とは言え、城にいろと言われてしまっては仕方がないとグレイスはマーカスが作ってくれた座り心地の良い丸い椅子から立ち上がった。
「そうね。それなら行くしかないわ」
「どうやって行く?」
「転移にするわ。ちゃんとあの子も連れて行かないと寂しがっちゃうから大きな魔法陣にしなきゃ」
家の外に出れば、ちょうどマーカスがワイバーンに今日の肉を与えているところだった。小さなワイバーンはすっかり大きくなって、今はザリティアも一緒に乗っているくらいだ。
ザリティアがすぐにマーカスとワイバーンの元へ駆けていく。
グレイスはその後姿を横目に、さて、と大きな木を切り倒したおかげで開けば場所に魔法陣を丁寧に描いていく。これについては消さなくても良いので、余計なことは描かなくて良いので楽だ。代わりにと固定する魔法を組み込んでおく。
もしかたしたらゼインと一緒に戻ってくるかもしれないから。
グレイスは最近、小さな人間から教えてもらった歌というもの口ずさむ。くるり、と体を回転させる。踊るように。
会いたい。ゼインに会いたい。きらきらで強いゼインに。
グレイスは大きく頬を緩ませ、きゃはっ、と大きく笑った。
❖❖❖
言われた通り、魔王城に移動してゼインが来るのを待っていた。
待つことは正直とてもつまらなかったが、近づいてくるゼインに次々と魔物が襲ってくることもあってゼインはより強くなってきていた。
マーカスが提案してくれた物もうまく活用してくれている。
やっぱり直接渡すことが出来ないから、魔物に剣や薬をわざとらしく持たせたがちゃんと汲み取って持っていってくれた。後はよく分からないが色付きの石なんかも人間には重要なものらしく、持たせたら他の人間が喜んでいた。特に赤い髪の女。あの人間はちょっと猫みたいで可愛いと思った。
そうして、城に溢れていた魔物が減っていく。とても過ごしやすくなってきた頃だった。
魔王の言葉を預かってきたザリティアが困り顔で言ってきた。
「勇者達の相手をしなさいって。どうするの?」
「するわ」
「するの?」
何故か驚く顔を浮かべるザリティアに、グレイスは小首を傾げた。
「もちろんよ。だって、あんなにもきらきらしているのよ?」
城から魔物が少なくなっていくにつれ、ゼインはより強く、さらにきらきらになってきていた。
もう少し、後少し。けど、まだ足りない。
それならば、後は自分で仕上げれば良いとグレイスは思いついた。
「もっと、もっときらきらさせたいわ! 私が!」
ゼインはどんな顔をするだろう。
笑うだろうか。それとも驚くだろうか。どちらにしても、グレイスには楽しみでならなかった。
❖❖❖
ゼインはとても強くなった。きらきらになった。それでもまただ足りない。足りない。足りない。
何故とゼインは問う。ずいぶんと怒ったような、悲しい顔で。
グレイスには何一つ分からなかった。何せゼイン以外、どうでも良かったから。
傷つけすぎて、話せない様子のゼインの傷を癒す。何を話そうとしているのだろうか。また怒るのだろうか。ちょっと怒られるのは胸の内がべしゃべしゃになってきそうで嫌になりそうだった。
どうしよう。
そう、グレイスがつい考えてしまった時。
ゼインが、動き出す。剣を捨て、手をこちらに伸ばして。
グレイスはすぐに両手に持つ杖を握りしめながら詠唱をする。うまく調整しないと死なせてしまいそうだったから。
「えっ?!」
その詠唱をしている僅かな瞬間、何故かゼインがグレイスの前に飛び込んできた。そしてとても、大きくなったゼインがグレイスを抱き寄せる。大きな帽子はその時に後ろに落とされた。
そして、包み込むように魔法が展開された。
❖❖❖
周囲はぴたり、と凍り付いた。
その中で、大きくなったゼインの腕や胸に頬を擦り寄せるグレイスは、ずっと見ていたゼインを見上げた。
「いけない子。私の記憶を覗き見るだなんて。どうやってこの魔法を知ったの?」
「……王城の書庫です。そこの禁書の中に記されていまして」
「そうだったのね」
小さい頃と変わらないしょげたような顔をするゼインに、グレイスは笑みを零した。
「ねぇ、ゼイン。ちょっと腕、緩めてくれない?」
「嫌でしたか……?」
「違うわ。ほら、杖を持ったままじゃ抱きしめられないでしょ?」
グレイスが言うと、ゼインはすぐに腕を緩めた。グレイスは無骨な杖を足元に置き、ゼインに比べてずいぶんと小さくて細い腕を伸ばす。ゼインはグレイスが抱きしめやすいようにその場に片膝をつき、今度は優しく抱きしめた。
「申し訳ありません、グレイス。どうしても、知りたくて」
「そうなのね。それで知って、どう思ったの?」
「ずっと僕を見て、想ってくれていたのだと知って……。ああ……、とても、喜びに満ち溢れています。きっと、僕以上に今、幸せなものはいないでしょうね」
「ふふっ」
怒って、悲しんでいたゼインはすっかり消え去り、笑顔でとってもきらきらなゼインが戻ってきた。グレイスは身体中がぽかぽかで、ふわふわで、もっとくっついていたくなった。
「そうよ。ずっとゼインを見ていたの」
「僕はグレイスが望んだきらきらになれましたか?」
「もうちょっと」
「……もうちょっと」
きゅっと、ゼインは眉をゆがめて口角を下げる。そんな顔がなんだかかわいらしく、グレイスはゼインの前髪をくしゃくしゃと撫で回した。
ゼインはそれを受け入れたまましばらく黙り、そうして慎重に、口を開いた。
「グレイス。提案をさせていただきたいのですけど」
「何かしら? というか、どうしてそんな話し方をするの? さっきまであんなに強く言ってきたのに」
「恥じるばかりです。まだ青い若葉でしかない故の行いと思ってください」
「そう」
若葉ならば仕方がないと、グレイスは納得する。そしてグレイスはゼインの提案の続きを促した。
「それで、どんな提案なの?」
「はい」
ゼインは語る。
グレイスはふむふむ、と頷き、そして笑みを深める。その提案はグレイスにとって、とても素晴らしいことだったからだ。
「あのね、ゼイン」
「はい?」
提案を話し終えたゼインに、グレイスは言う。
「魔王に髪、切られちゃったの」
「……はい、存じています。見ておりましたから」
「それでね、ゼイン。短くなっちゃったけど、美しいのは変わらない?」
「もちろんです。何一つ変わらず、グレイスはとても美しいです」
強く言い切ってくれたゼインに、グレイスはたまらず強く抱きしめた。
そうして、いつもザリティアがマーカスにやるように、ゼインの頬にやさしくキスをした。




