01 遠くから見る
ゼインの居場所を見つけるのは簡単だった。何せ、グレイスが目印をつけたから。
「あそこにいるのがゼインよ」
そこは小さな村だった。魔王がいる城まではまだまだ遠い場所のおかげか、まだここは排除されていなかったようだった。
グレイス達はその村から少し離れた森の中で、グレイスの魔法を使って様子を見ていた。近くにいるとバレてしまうかも知れなかったからだ。
目の前には丸く平たいもの。その中央に映し出されるのは子供と触れ合うゼインの姿。ちょうど近くにいた鳥の目を借りているため、少しだけ遠いがようやく姿を見ることができたグレイスには十分だった。
ゼインはさらに体がしっかりと大きくなっていた。子供の頭を撫でる手の大きさや服の上からでも分かる太さに、背の高さ。けども見せる笑顔は全く変わらなくって、グレイスは緩みきって赤く染めた頬に両手をそえた。
きらきらだ。魔法越しに見ても、ゼインのきらきらは全く変わらないどころか増していた。これでは直接見た時は眩しさに目が潰れてしまうのではないかと思うほどだった。
「なんだか見た目は弱そうだし、好みじゃないわ」
「好みと言われたら僕はどうすれば良いんだい、ザリティア」
「妬いている姿を見てかわいがるわ」
後ろからそんな会話が聞こえ、ザリティアとマーカスへ振り返る。
口角を下げ、つまらなそうな顔を浮かべるマーカスに、ザリティアは楽しげに笑っていた。
今日もご機嫌なザリティアに、グレイスもさらに機嫌を良くし、改めてゼインを見る。と、グレイスは大きく眉を歪めた。
「……何、あの人間」
いつの間にか、ゼインの隣には見たこともない人間の雌がいた。別に隣にいるだけならグレイスは気にならなかったが、あの雌は何故かゼインの腕に触れていたのだ。挙句の果てに手を取り、ゼインをそのまま連れて行く。
そんな一連の動きに、グレイスは短くなった小麦色の髪をくしゃり、と帽子の下で握りしめた。
「あーらら」
「……恐ろしいな……」
後ろではザリティアとマーカスがそんなことを言っていたが、グレイスの耳には一切入らなかった。
鳥がグレイスの意思を汲み取り、移動する。また中央に出てきたゼインの周りには雌の他に、他の人間がいた。うち、一人は見たことがある。ゼインと共にいた、あの青い髪の男だ。その他にもマーカスと同じぐらいに大きな体を持つ男。細身の髪の長い女、のように見える男。一番軽装で、赤い髪が短い雌。
最初にゼインに触れた金の長い髪の雌がまた触れる。続いて、赤い髪の雌がそのゼインに詰め寄り、ゼインが困り顔を浮かべていた。
どうしてゼインはすぐに離れないのか。手を振りはらわないのか。グレイスには意味が分からなかった。
分からないから余計に、グレイスは腹の中の炎がゆらゆらと大きくなってきていた。
もう、どうしてくれよう。あの村ごと排除してしまおうか。
ドロドロとした考えを始めてすぐ、ザリティアがグレイスの肩を掴んだ。
「グレイス、来たわよ」
グレイスは考えるのを一度止め、歪み始めていた映しているものを整えて改めて見る。
そこには、魔王の仲間である魔物だ。ワイバーンが三体。これが大きいワイバーンなら十分かもしれないが、まだ幼い部類のワイバーン達だ。そして、その背に乗るのはゴブリン達であった。
ゴブリン達に唆されたのか、巻き込まれたワイバーンが少しだけかわいそうだとグレイスは思ってしまった。
「あいつら、馬鹿ね」
「守るべき対象を増やして、被害を拡大させるという手法は間違ってはいないな。とは言え……」
呆れるザリティアに、顔を大きくしかめるマーカス。本当にその通りだとグレイスは小さく頷きながら、戦闘が始まった様子を黙って見つめ続けた。
❖❖❖
ゼイン達を襲ってきた魔物達は全滅した。当然の結果であるが、正直言って期待外れも良いところだった。
「……あの程度で被害を出すとは」
「思ったよりも手こずっていたわね」
マーカス、ザリティアが呆れた声を出す。グレイスもすごくがっかりだった。
きらきらだ。とてもきらきらだった。けども、それだけだった。
魔王側の魔物達は結果的に全滅した。とくにこれについては何も思うことはない。
ただ問題は、周囲の状況だ。
ゼインと共にいる仲間は半分ほど血を大きく流している。村は半分壊れた。そこに住む人間だって、血を流している。
なんて弱い。
ゼインだけではなく、他の人間達も。
「ゼインはもっときらきらするわ」
そして、もっと強くなる。
「もっと、もっとよ」
他の人間達はどうでも良い。その辺りで居なくなろうが、ゼインの邪魔になるなら排除するまで。
けどもゼインがもっときらきらになって、強くなる為に必要ならば、面倒なことだが生かさなければならない。
どうするのが一番良いのだろう。
人間はどうすれば強くなるのだろう。強いものをぶつけても、今みたいな結果になるのならばあまり意味がないように思える。それならいっそ、魔法で強くするか。けど、そしたらきらきらが無くなりそうだし、何よりも操り人形なんてものはグレイスの好みとは大きく外れている。
どうしたら、どうすれば。
「それなら、まずは力量にあった魔物を襲わせよう」
「同じぐらいに強い魔物?」
「そうだ。もしくは、少しだけ強い魔物を。今のはまだ強すぎた」
ゼインと人間達にとっては強すぎた。なら、今の魔物よりも弱い魔物。しかしどこまでが弱いのか、グレイスには少し難しいことだった。
なにせ、グレイスにとって全てが弱かったから。
「それなら私が連れてくるわ。グレイスのおかげで色々と出来るようになったし」
「その時は僕も一緒で良いかい? 確かにザリティアの力は素晴らしいけども……」
「うふふっ、もちろんよ!」
好きあらば、ザリティアはマーカスにすり寄る。マーカスはそっとザリティアを片手で抱き寄せつつ、後ろへと振り向く。そこには先程見たワイバーンよりも、一回り小さいが翼がしっかりと大きな黒いワイバーンがいた。
これはザリティアがマーカスの為に連れてきた魔物だ。移動をするにも飛べないと不便だからということで、飛び回って探してきたらしい。
ワイバーンはちゃんとマーカスに懐いている。というよりは平服している。何せ最初にマーカスに拳で沈められていたから。勝てないと分かったワイバーンはおかげで大人しく、むしろ隙あらばマーカスに甘えようとしてくる。連れてきたのはザリティアだが、今はマーカスがいないところで取り合っているのをグレイスは知っている。
「あ、けど、お腹が空いてしまったらかわいそうね。ちゃんと食べ物を用意しておかないと」
それはそれとして、やはり空腹は良くない。ちゃんとあの赤い果実を用意しておかなくては。けども、他の人間達に食べて欲しいものではないのも事実だった。
「ゼイン以外は食べられないようにしなきゃ。うぅん、後は……」
「何か、役立てる道具を用意しておくのはどうだ?」
「道具?」
「ああ、そうだ。より、強くなるために必要になるだろう」
「そうなのね」
そう言えば、人間はとても器用だとグレイスは思い出す。何せゼインは剣を使っているし、鎧も着ている。小瓶や小さな鞄を腰から提げているのも見えた。
つまり、より強く、きらきらになれる道具を用意すれば良いということだ。
グレイスは笑みを深めて、若草色の瞳を細める。
「ふふっ、楽しくなるわ。ねぇ、ゼイン」
ゆっくりと、植物達が育つように、じっくりと育てていこう。
丹精込めて育てればきっと、想像をはるかに超える強さと、きらきらが見られる。そんな気がしてならなかった。




