5話:招待状②〜父から届いた手掛かり〜
その日の夕方――。
零は自宅へ戻ると、玄関で靴を脱いだ。
「ただいまー」
家の中から返事はない。
静まり返った廊下へ上がろうとして、玄関脇の郵便受けに大きな封筒が入っていることに気づいた。
「ん?」
普段届く郵便物とは、明らかに様子が違う。
厚手の白い封筒には封蝋が施され、その中央には見覚えのない紋章が刻まれていた。
宛名に記されているのは、間違いなく自分の名前だ。
黒神零。
裏返して差出人を確認すると、零の目つきが変わった。
「父さん……?」
そこには、黒神玄一の名が記されている。
父親から手紙が届くこと自体、珍しい。
ましてや、わざわざ封蝋まで施された封筒を送ってくるような人物ではなかった。
アルディア王国の事件について、詳しい情報は未だ入ってきていない。
そんな中、情報収集を担う第2執行部《蒼穹》に所属する玄一から届いた手紙。
ただの私信とは思えなかった。
「……何か掴んだのか?」
零はその場で封を解いた。
中から現れたのは、格式の高い一枚の招待状だった。
表面には封筒と同じ紋章が金色で刻まれている。
日本で開催される国際親善パーティー。
出席者の欄には、零の名前が記されていた。
「なんで俺に……」
招待状だけを見ても、アルディア王国との関係は分からない。
女王が出席する予定だったことも、現在は王家が欠席すると発表されていることも記されていなかった。
ただ、同伴者一名の出席が認められていることだけは確認できた。
「ペアかよ……」
零が封筒の中を覗くと、底にもう一枚、小さく折り畳まれた紙が残っていた。
見慣れた豪快な筆跡だった。
『この招待状は、少し事情があって俺のところへ回ってきたものだ』
短い前置きの下には、今回の招待状に関する事情が記されていた。
『表向き、アルディア王家は今回のパーティーを欠席することになっている』
零の黄金色の瞳が、次の一文を追う。
『だが、アイリス王女は女王陛下の代理として極秘に出席する』
「アイリス姉が……?」
思わず声が漏れた。
女王と第一王子が亡くなってから、まだ数日しか経っていない。
その渦中にいるアイリスが、人知れず日本へ来る。
零は紙を持つ指へ自然と力を込めた。
『王女の来日と出席は非公表だ。知っている人間も限られている。絶対に口外するな』
どうやら、招待状にアイリスの名が記されていないのも、そのためらしい。
『詳しい事情はエレノアに聞け。今のお前は休暇中だ。無理に何かしろとは言わん』
玄一にしては、妙に配慮の行き届いた文面だった。
『何も起きなければ、普通にパーティーを楽しんで帰ってこい』
必ず事件が起きると考えているわけではない。
それでも、万が一に備えて零へ招待状を渡した。
玄一の意図は、それだけで十分に伝わってきた。
「父さんは、どこまで知ってるんだ……?」
残るのは、紙の端に書き加えられた追伸だけだった。
『その招待状なら、同伴者を一人連れていける。なんなら、四月の事件で世話になった風紀部の嬢ちゃんでも誘いな』
「…………」
玄関に何とも言えない沈黙が流れた。
「なんで白河が出てくんだよ……」
零は眉間を押さえた。
四月の事件。
風紀部の少女。
名前こそ書かれていないが、誰を指しているのかは考えるまでもない。
「最後の一文、絶対に面白がって書いただろ……」
手紙と招待状を持ったまま、零はリビングへ向かった。
アルディア王国。
アイリスの極秘来日。
そして、玄一から自分へ送られてきた招待状。
欲しかった手掛かりは届いた。
それでも、それだけでは分からないことが多すぎる。
零は鞄をソファへ置くと、テーブルの上にある専用端末を起動した。
「イギリスは、まだ午前中か」
この時間なら、エレノアも本部にいるはずだ。
玄一が詳しい事情をエレノアへ聞けと書いた以上、向こうにもすでに話は通っているのだろう。
零は招待状を手にしたまま、テーブルの上にある専用端末を起動した。




