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漆黒の流星《ブラックスター》  作者: ショウ
第2章:天輝花

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1話:新たな日常②〜強くなるために〜

その日の放課後。

終礼を終えた一年C組の教室には、帰り支度をする生徒たちの声が響いていた。


「なぁ、黒神。今日どうする?」


鞄を肩へ掛けた影山が、零の席へ近づいてくる。

その隣では、天野もすでに帰り支度を終えていた。


「試験終わりだし、ぱーっとしないか?」


「俺はどっちでもいい」


零が机の中から教科書を取り出し、鞄へ入れる。

その返事を了承と受け取った影山は、満足そうに頷いた。


「なら決まりだな」


「あの、黒神くん」


三人が声のした方へ顔を向ける。

少し離れた場所に鞄を胸元で抱えた鈴華が立っていた。

どこか緊張した面持ちで、零を見つめている。


「なんだ? また魔法の相談か?」


零が椅子へ座ったまま尋ねる。

鈴華は胸元の鞄を抱き直し、小さく頷いた。


「はい。少し、お話ししたいことがあります」


その返事を聞いた影山が、零と鈴華を交互に見た。


「俺たちもいた方がいいか?」


「いえ……」


鈴華は一度言葉を止める。

それから少しだけ照れたように微笑み小さく首を横へ振った。


「できれば、黒神くんと二人でお話ししたいです」


「ほーん」


影山の口元が、面白いものを見つけたように吊り上がる。

その反応に気づいた鈴華は、慌てて言葉を付け加えた。


「ち、違いますよ。そういう話ではありませんから」


「白河嬢よ。俺は何も言ってないぜ?」


影山がとぼけるように首を傾げる。

鈴華はわずかに頬を膨らませ、その顔を見つめ返した。


「顔に書いてあります」


険悪になる前に天野が困ったような笑みを浮かべながら二人の間へ入る。


「影山。そのくらいにしておこう」


「へいへい」


影山は両手を軽く上げると、零の肩を叩いた。


「悪いな。今日は白河に付き合ってやれ」


零は鈴華へ視線を向けた。

その真剣な表情を見て、ただの雑談ではないと察したらしい。


「悪い。二人とも、今日は白河に付き合う」


「分かった。じゃあ、また明日」


天野が穏やかに手を振る。

その隣で、影山は意味ありげな笑みを浮かべたまま教室の出口へ向かった。


「ごゆっくり」


「だから、そういう話ではありません」


鈴華の抗議を背に、影山と天野は教室を後にする。

閉まった扉の向こうから二人の話し声が遠ざかると、教室は一気に静けさを取り戻した。

窓から吹き込む夕風がカーテンを揺らし柔らかな光が二人の間へ差し込む。

零は席を立ち、鈴華へ向き直った。


「それで、相談って何だ?」


鈴華は胸の前で組んだ手を、ぎゅっと握る。

ここまで来たのだから、もう迷わない。

一つ息を吸い込み、真っ直ぐ零を見つめた。


「私に……」


小さく間を置く。


「魔法を教えてください」


予想外だったのか、零はわずかに目を見開いた。

数秒の沈黙が流れる。

やがて零は視線を外し、小さく息を吐いた。


「相談には乗る」


そこで一度、言葉を切る。


「でも、魔法を教えるって話は別だ」


鈴華は不思議そうに首を傾げた。


「どうしてですか?」


零は窓の外へ目を向ける。

夕焼けに染まる校庭では、運動部の生徒たちが最後の練習に励んでいた。


「理由は分かってるだろ。俺は銀河魔法しかまともに使えねぇ」


静かな声だった。


「七属性魔法に適性がないことは、実技で見せた通りだ」


鈴華はその横顔を見つめながら、静かに頷く。


「……はい。分かっています」


「だったら、教わる相手は俺じゃない。同じ属性や、同じ系統の魔法を使う奴に教わった方がいい」


零は教壇へ軽く寄りかかり、鈴華へ視線を戻した。


「白河なら風紀部にもいるだろ。光魔法や幻影魔法を使う先生や先輩なら、俺よりずっと的確に教えられる」


それは鈴華を突き放すための言葉ではない。

本気で強くなりたいという鈴華の気持ちを理解したからこそ、自分より適任だと思う相手を勧めている。

鈴華にも、その意図は伝わっていた。

だからこそ、ゆっくりと首を横へ振る。


「私が教えていただきたいのは、七属性魔法ではありません」


零の黄金色の瞳が、再び鈴華へ向けられる。

その視線を、鈴華の碧色の瞳が真っ直ぐに受け止めた。

そこには、もう迷いはなかった。


「実戦での戦い方です」


教室へ静かな空気が流れる。


「四月の事件で見ました。黒神くんは、誰よりも早く状況を判断して、誰よりも前で戦っていました」


昼風が二人の間を静かに吹き抜ける。

鈴華はあの日の光景を思い返しながら、胸元へそっと手を添えた。


「魔法が強いだけではありません。どうすれば人を守れるのか。どう戦えば仲間を守れるのか。その戦い方を、私は黒神くん以上に知っている魔法使いを知りません」


零は何も答えない。

ただ、鈴華を静かに見つめていた。


「以前、魔法の相談をした時、黒神くんは私に言ってくれました」


『自分も一緒に帰ってこられるくらい強くなれ』


「あの言葉を聞いて、私は強くなろうと決めました」


鈴華は小さく笑う。

どこか照れくさそうで、それでも真っ直ぐな笑顔だった。


「でも、どうすれば強くなれるのか分からなかったんです」


鈴華は一歩だけ、零との距離を縮めた。


「だったら、その言葉をくれた黒神くんに教えてもらいたい。そう思いました」


再び静寂が訪れる。

零はしばらく鈴華を見つめていたが、やがて観念したように息を吐く。


「……分かった」


鈴華の表情がぱっと明るくなる。

零はそんな様子を見て、小さく苦笑した。


「その代わり、手加減はできない」


黄金色の瞳と碧色の瞳が、真っ直ぐに向かい合う。


「覚悟しろよ?」


鈴華は迷うことなく頷いた。


「はい」


その返事を聞いた零は、満足そうに口元を上げる。


「なら、さっそく行くぞ」


「えっ、今からですか?」


思わず聞き返した鈴華へ、零は当然のように頷いた。


「善は急げっていうだろ。屋外演習場で今のお前がどれだけ戦えるのか見せてもらう」


零は鞄を肩へ掛けると、教室の出口へ向かう。


「今日から俺が鍛えてやるよ」


思っていたよりも早い訓練開始に鈴華は一瞬だけ目を丸くした。

だが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべ、零の後を追う。


「はい!宜しくお願いします。」


二人は並んで教室を後にした。

夕暮れの廊下へ、屋外演習場へ向かう二人の足音が静かに響いていた。

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