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漆黒の流星《ブラックスター》  作者: ショウ
第1章:漆黒の流星
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6/15

3話:初めての実技試験

入学から3日目


星峰魔法高等学校1年生は初めての本格的な実技授業を迎えていた……

魔力制御。

精密操作。

属性適性。

実践形式などなどクラスごとに別れて課題を受ける。


次々と課題が進む中、1人だけ異様な結果を叩き出す生徒がいた。

黒神零。

教師たちが思わず顔を見合わせる。

魔力制御は最高評価。

精密操作も最高評価。

実戦形式でも群を抜いた成績だった。


「……1年生でこのレベルか。」


1人の教師が結果表へ視線を落としたまま呟く。

「主席合格のA組、鏡野と比べても遜色ないな。」


別の教師も静かに頷く。

「いや……項目によっては、それ以上かもしれん。」


しかし、その視線は結果表の一番下で止まる。

「だが……一般魔法適性が最低評価か。」


小さく息を吐く。

「この実力で適性さえあれば、とんでもない魔法使いになっただろうにな。」

「惜しいな……。」


その呟きは決して本人を否定するものではない。

だからこそ、生徒たちも思わず結果表へ視線を向けていた。


-----


「同志黒神!」

影山が結果表を高々と掲げる。

「ほぼ全部トップクラスじゃねぇか!」


天野も結果表へ目を向け、小さく頷く。

「確かにすごいな。」

「実技は飛び抜けてる。」


零は結果表を一瞥すると、口元を少しだけ緩めた。

「まあ、悪くないだろ。」

どこか満更でもない口調だった。


天野は思わず笑う。

「少し調子に乗ってないか?」


零は肩をすくめる。

「褒められたら、乗るだろ。」


影山は何度も頷く。

「その素直さ、嫌いじゃない!」


そう言うと、ニヤリと笑って結果表の一番下を指差した。

「……ただし!」

「一般魔法適性は最低評価!」


零は結果表へ視線を落とし、ふっと鼻で笑う。

「別に困ってねぇし。」


「そこは気にしないんだな。」

天野は苦笑を浮かべる。


気にする様子もなく。

「他ができりゃ十分だろ。」


「普通なら気にするとこなんだけどな。」

天野は呆れ半分、感心半分といった表情で零を見る。


影山は腕を組み、何度も頷いた。

「さすが同志黒神!」

「細かいことは気にしない男!」


零は小さく息を吐く。

「好きに言っとけ。」


3人のやり取りに、周囲からも小さな笑いが漏れた。


少し離れた場所で、その様子を見つめる少女が1人。

白河鈴華だった。


(……不思議な人。)


一般魔法適性は、魔法使いを目指す者なら誰もが気にする評価項目だ。

火、水、風、雷、土、光、闇――。

一般魔法は授業や実戦だけでなく、将来の進路にも大きく関わる。

属性相性を活かした戦闘。

仲間との連携。

魔力効率。

そして、公的な魔法組織へ進む際の評価基準にもなる。

だからこそ、適性が低いと分かれば、多くの生徒は落ち込む。

焦る。

悩む。

それなのに、黒神零はまるで気にしていなかった。


最低評価を笑い飛ばし、友人たちとの他愛ない会話を楽しんでいる。

その姿は、ごく普通の男子高校生にしか見えない。

鈴華の脳裏へ、入学式の朝の出来事が蘇る。

夜空のように美しかった漆黒の星。

誰よりも圧倒的だった力。

あの人物と。

目の前で笑う黒神零が、どうしても重ならなかった。


(やっぱり……。)

視線が自然と零へ向く。

(人違いだったのかな。)

そう思おうとする。


けれど胸の奥に残る違和感だけは、どうしても消えてくれない。

その答えを知るのは――

この日の午後だった。


-----


そして午後。

最後の課題。

最大出力測定演習。

校舎裏にある屋外プールへ、1年C組の生徒たちは移動していた。

プールの底や壁には、測定用の特殊装置が埋め込まれている。


担任教師が出席簿へ目を落とし、1人の名前を呼ぶ。

「黒神くん。」


零は気怠そうに一歩前へ出る。


教師はプールを手で示した。

「君の番だ。」

「最大出力で撃って構わない。」


後ろから影山が軽く背中を叩く。

「頼んだぞ、同志!」


天野も笑みを浮かべた。

「期待してる。」


零は所定の位置まで歩くと、水面へ視線を向けた。

静かなプール。

その広さを確かめるように一度だけ見渡す。

やがて、小さく息を吐いた。


「……全力出したら。」

振り返る。

「プール壊しちゃうけど、いいの?」」


その一言に、生徒たちは顔を見合わせた。

やがて誰かが吹き出す。


「ははっ、冗談だろ。」

「さすがにプールは壊れねぇよ。」

「遠慮しないで撃てって。」


笑い声が少しずつ広がっていく。

教師も苦笑しながら頷いた。

「安心しろ。」


足元のプールを軽く叩く。


「この施設は測定専用の特別製だ。」

「多少の魔法では傷一つ付かん。」


その言葉に周囲も大きく頷く。

「先生の言う通りだ!」

「思いっきりやれ!」

「最大出力、見せてみろ!」


零は肩をすくめ、教師へ視線を向けた。

口元だけ少し緩めた。

「言ったからな。」

「後悔しても知らねーぞ。」


その笑みは、自慢でも挑発でもない。

本当に確認しただけ。

そんな表情だった。

周囲はまだ笑っている。

その様子を見ていた鈴華だけは笑わなかった。

碧色の瞳が静かに零を見つめている。


(……なんだろう。)


胸の奥がざわつく。

理由は分からない。

でも、黒神くんだけは笑っていない。

ただ、事実を口にしただけ。

そんな表情だった。

本人は違うと言っていた。

それでも――

胸の奥の違和感だけは消えなかった。


零は鈴華の視線には気付かないまま、右手を静かに前へかざす。


銀河星ギャラクシースター――バージョン超新星スーパーノヴァ。」


その瞬間だった。

空気が変わる。

ざわめきが止む。

春風さえ息を潜めたようだった。

零の掌へ、1つの漆黒の星が生まれる。

光を飲み込むような黒。

その表面では、紫銀色の粒子が星屑のように静かに瞬いている。

鈴華は思わず息を呑んだ。


「……綺麗。」


その声は、誰にも届かないほど小さかった。

次の瞬間。

その美しさは、本能的な畏怖へと変わる。

圧倒的な魔力。

空気そのものが震えていた。

零は静かに口を開く。


砲撃レイバースト。」


轟音。

漆黒の奔流が一直線に放たれる。

黒い光は無数の星屑を引き連れながら、プール全体を飲み込んだ。

一瞬で水面が消える。

爆風が巻き起こり、コンクリートが砕け、タイルが宙を舞う。

測定装置は火花を散らし、そのまま沈黙した。


全てが、一瞬だった。

立ち込める煙。

誰1人として声を出せない。

やがて煙がゆっくり晴れていく。

そこにプールはなかった。

巨大なクレーターだけが残されていた。


零は頭を掻く。

「あーあ。」


口元だけ少し緩めた。

「ほらな。」


静寂。

風だけが、ゆっくりと吹き抜ける。

誰も動かない。


1人の生徒が震える声を漏らした。

「……え。」

別の生徒がクレーターを指差す。

「プールが……。」

誰かが呆然と呟いた。

「消えた……。」


教師は青ざめたまま零を見る。

信じられないものを見るような表情だった。

「黒神くん」

教師はクレーターと零を何度も見比べる。

「こ、こんな出力とは聞いてないぞ!」


零は誇ったように肩をすくめる。

「だから言ったろ。」

「壊れるって。」


教師は返す言葉を失う。

静寂を破ったのは影山だった。


「すげぇぇぇぇ!!」

目を輝かせながら零に近づき肩を勢いよく叩く。

「なんだよ今の!」

「最高じゃねぇか!」


天野はクレーターから目を離せない。

ゆっくりと息を吐く。

「……お前、何者なんだ。」


零は照れた様子もなく、小さく笑うだけだった。


少し離れた場所で、鈴華は静かに立ち尽くしていた。


(やっぱり……。)


あの漆黒の星。

間違いない。

入学式の日、路地裏で見た光景と同じだった。

本人は違うと言っていた。

それでも、もう疑いようがない。

黒神零が、あの時の人だった。

影山と笑い合う。

天野と軽口を交わす。

あれほどの力を放ったというのに、

息一つ乱れていない。

誇らしげな様子もない。

まるで、当たり前のことをしただけ。

その自然さが、鈴華には一番衝撃だった。


(黒神くんって……。)


本当に、どんな人なんだろう。

春風が長い黒髪を優しく揺らす。

気付けば碧色の瞳は、また彼の背中を追っていた。

その背中から、目を離すことができなかった。

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