表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆黒の流星《ブラックスター》  作者: ショウ
第1章:漆黒の流星
PR
3/11

プロローグ〜最後の任務③

半年後――

京都。

桜の季節を過ぎた、穏やかな春の午後。

山あいに建つ古い寺は、街の喧騒から切り離されたような静けさに包まれていた。石段の脇では若葉が柔らかく風に揺れ、遠くで小鳥のさえずりが木々の間を渡っていく。


その境内を、1人の少年がゆっくりと歩いていた。

黒いコートの裾を春風になびかせながら、零は石段を一段ずつ上っていく。やがて一つの墓石の前で足を止め、静かに膝をついた。


花束を供え、その隣に三色団子を丁寧に置く。


「……相変わらず、これが一番喜ぶんだろ。」


思わず口元が緩む。

昔もそうだった。何かあるたび、蕾は嬉しそうに和菓子を頬張っていた。


「覚えてるっての。」


線香に火を灯す。白い煙が、春風に乗って静かに空へ昇っていく。

零は墓石へ視線を落とした。刻まれた名前を、そっと指先でなぞる。

神桜蕾

冷たい石に触れた指が、わずかに震えた。

14歳のクリスマスイブ。

あの日から、もう1年以上が過ぎていた。

長かったような。短かったような。

そんな、曖昧な時間が流れていた。

零は静かに息を吐く。


「……行ってくる。」


風が吹いた。若葉がざわめき、木漏れ日が境内を優しく照らす。

脳裏に浮かぶのは、いつも眩しいくらいに笑っていた少女の姿だった。


『ねぇ、零!』

『私、学校に行ってみたい。』

『普通の学校ってどんな感じなんだろうね?』

『みんなで笑って、ご飯を食べて、くだらないことで騒いで……。』

『きっと、毎日が楽しいんだろうなぁ。』


零は静かに目を閉じた。

あの日、叶えられなかった夢。

今度は、自分が代わりに見届ける。


「欲張りすぎだろ。」


苦笑しながら呟く。

その笑みは、どこまでも優しかった。


「……少しの間。」


一度だけ言葉を区切る。


「代わりに見てきてやるよ。」


墓石へそっと手を置く。

その指先が、ほんのわずかに震えた。

悲しみは消えない。

後悔も消えない。

忘れることもない。

それでも、立ち止まったままではいられなかった。

零はゆっくりと立ち上がる。

春風がコートの裾を優しく揺らす。


「安心しろ。」


空を見上げる。

雲ひとつない青空が広がっていた。


「ちゃんと前には進めてる。」


もう一度だけ、墓石へ視線を向ける。


「じゃあな、蕾。」


零は踵を返した。

石段を一段、また一段と下りていく。


これから向かうのは、東京・星峰市。

蕾が憧れた、普通の高校生活が待つ街。

春風が静かに吹き抜ける。

零は空を見上げ、小さく息を吐いた。

普通の高校生活。

それは――。

世界最高峰の執行官である黒神零にとって、

誰よりも難しい任務になるとは、

この時はまだ知らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ