11話:親友との約束②
しばらく笑ったあと、鈴華は小さく息を吸った。
碧色の瞳が、真っ直ぐ黄金色の瞳を見つめる。
今度は笑いではない。
胸の奥に残っていた、ずっと聞きたかったこと。
「黒神くん」
零が静かに視線を向ける。
夕陽を受けた黄金色の瞳は、先ほどまでの軽い空気とは違い、どこか穏やかだった。
鈴華はゆっくりと口を開く。
「本当に……漆黒の流星だったんですね」
鈴華の言葉を聞き、零は小さく肩を竦めた。
「まぁな」
あまりにもあっさりした返事だった。
世界最高峰の魔法組織の魔法使いであることを打ち明けているとは思えないほど、その口調は軽い。
その温度差に、鈴華は思わず目を瞬かせた。
もっと誤魔化したり、はぐらかしたりすると思っていた。
だが、目の前の少年は違った。
「もう見られたしな」
零は頭を掻きながら苦笑する。
「今さら隠しても意味ねぇだろ」
確かにその通りだった。
思い返せば――。
入学式の朝、見知らぬ自分を助けてくれた少年。
初めての実習の時、プールを吹き飛ばした規格外の魔法。
昼休みの時、鏡野澪との模擬戦。
そして今日――。
思い返せば、答えは最初から目の前にあった。
伏線はいくつもあった。
それでも鈴華は驚きを隠せなかった。
目の前にいるクラスメイトが、本物の漆黒の流星だったのだから。
鈴華は小さく笑みを浮かべる。
「そうですね」
夕陽を映した碧色の瞳が、優しく細められた。
零はそんな鈴華から視線を外し、夕焼け空を見上げる。
空は少しずつ茜色から群青へと色を変え始めていた。
「今は休暇中だけどな。」
「休暇中……ですか?」
鈴華は首を傾げた。
世界最高峰の魔法組織。
その執行官に「休暇」という言葉は、どうしても結び付かなかった。
零は気怠げに頭を掻く。
「まぁ、色々あってな。」
それ以上は語ろうとしない。
鈴華は少しだけ考え込んだ。
「もしかして……。」
零が視線だけを向ける。
「漆黒の流星が行方不明になった理由に……恋人と駆け落ちしたって?」
「だから違う。」
鈴華が言葉を言い終わる前の即否定が入った。
あまりにも早い返事に、鈴華は思わず目を丸くする。
零は気まずそうに頭を掻き、小さくため息を吐いた。
(……変な勘ぐりをされる方が面倒か。)
親友との約束は、別に隠すようなことじゃない。
零は夕焼け空へ視線を向ける。
茜色に染まる空を眺めていると、1人の少女の笑顔が脳裏へ浮かんだ。
いつも太陽みたいに笑っていた少女。
『ねぇ、零。』
『私、学校に行ってみたい。』
その願いは、最後まで叶わなかった。
零は小さく息を吐き、肩をすくめる。
「まぁ、別に隠してるわけじゃねぇし。」
静かに口を開いた。
その問いに零の表情がほんの少しだけ変わる。
黄金色の瞳が夕焼け空へ向けられた。
「親友との約束を果たしに来た」
短い言葉だった。
それだけなのに、その一言には、これまで聞いたどの言葉よりも重みがあった。
鈴華は返す言葉が見つからない。
きっと、その”親友”は零にとって、かけがえのない存在なのだろう。
鈴華は目を瞬かせる。
「親友との約束……ですか?」
零は小さく肩を竦めた。
それ以上話すつもりはないらしい。
夕焼け空を見つめる横顔だけが、ほんの少し遠くを見ているようだった。
その表情に、いつも自由奔放さはない。
ほんのわずかに滲む寂しさと、懐かしむような優しさだけがそこにあった。
(もしかして……。)
(あの時話していた、お友達のこと……。)
鈴華の脳裏に、以前聞いた零の言葉がよみがえる。
『もう1年以上、会ってないけどな。』
鈴華は静かに零の横顔を見つめる。
今はまだ、踏み込んではいけない。
そんな気がした。
だから、それ以上は聞かなかった。




