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漆黒の流星《ブラックスター》  作者: ショウ
第1章:漆黒の流星

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10話:漆黒の流星②

後書きにラストシーンのイメー自画像あり

「1つだけ教えてやる」


リーダーが息を呑む。

零は静かに歩を進めた。

倒れ伏した部下たちの間を、一歩、また一歩とゆっくり通り抜ける。

その足取りは変わらず気怠げだった。

慌てる様子もなければ、勝ち誇る様子もない。


だが――。

纏う空気だけは、先ほどまでとは明らかに違っていた。


漆黒の流星(ブラックスター)が使う魔法は」

「お前の紛い物とは違う」


零の周囲へ黒い星々が静かに浮かび上がる。

夜空を切り取ったような漆黒。

その周囲では、紫銀色の粒子が星屑のように静かに舞っていた。

幻想的でありながら、誰もが本能で危険だと理解できるほどの圧倒的な魔力。

黄金色の瞳が静かに細められる。


銀河魔法(ギャラクシーマジック)

「星を使う魔法だ」


静かな声が廃工場へ響いた。

リーダーの顔が引きつる。


「てめぇ……!」

「まさか……!」


零は答えない。

ゆっくりと内ポケットへ手を伸ばした。

その動きに、リーダーだけではない。

鈴華の視線までもが自然と吸い寄せられる。

取り出したのは、一冊の黒い手帳だった。

表紙には、アストラル・オーダーの紋章が刻まれている。

零は静かに手帳を開く。

その動作には一切の無駄がない。

まるで判決を告げる前の儀式のようだった。


「The Astral Order」


低く響く声。


「第1執行部『星刻(Stellar)』所属」


リーダーの表情が凍り付く。

鈴華も思わず息を呑んだ。


「特別執行官――黒神零」


黄金色の瞳が真っ直ぐリーダーを射抜く。


「これより星刻の名の下に」


一瞬だけ沈黙が流れる。

工場内から物音が消えた。

夕暮れの風だけが、静かに吹き抜ける。

そして――。


「強制執行を開始する」


張り詰めた空気が廃工場を包む。

鈴華の胸が大きく脈打った。


(本当に……。)

(黒神くんが……。)


伏線は、ずっと目の前にあった。

入学式の日に見た漆黒の星。

プールを跡形もなく消し飛ばした圧倒的な破壊力。

模擬戦で鏡野澪を圧倒した実力。

そして今、自分を守るために放たれた銀河星。

思い返せば、それだけじゃない。

夕暮れの教室。

黒い魔法使いの事件について話していた時。


『……案外、俺が本物だったりして。』


あまりにも自然な口調だった。

冗談とも、本気とも取れるような笑み。

あの時は、ほんの一瞬だけ本当なのかもしれないと思った。

けれど――。


『現役の高校生が所属しているなんて……普通は考えませんから。』


自分はそう言って、その可能性を笑ってしまった。

世界最高峰の魔法組織。

その執行官が、自分と同じ教室で授業を受けている。


そんなこと、あるはずがないと。

自分自身で、その答えを否定してしまったのだ。

さらに――。


『中には、恋人と駆け落ちしたんじゃないか……なんて噂までありましたけど。』

『それはない!』


あの時。

黒神くんは誰よりも早く否定した。

あまりにも即答だった。

少し反応が早い。

そう思っただけだった。


今なら全部分かる。

あれは全部――。

本当のことを知っていたからだった。


答えは最初から、ずっと目の前にあった。

気付けなかったのは、自分だった。

本人が冗談交じりに教えてくれていたのに。

自分は「そんなはずがない」と思い込み、その答えから目を逸らしていた。


それでも――。

本人の口から真実を告げられた瞬間。

鈴華は驚きを隠せなかった。


(黒神くんが……。)

(本物の漆黒の流星(ブラックスター)だったんだ……。)


視線は自然と零へ向く。

教室では眠そうに机へ突っ伏し。

面倒くさそうに授業を受け。

時折、気の抜けた笑みを浮かべるクラスメイト。

甘い物が好きで自由奔放。

困っている人は放っておけない。

その少年が今。


世界最高峰の魔法組織『アストラル・オーダー』の特別執行官として、自分の目の前に立っている。


鈴華は言葉を失った。

驚き。

戸惑い。

そして、どこか納得してしまう自分もいた。

入学式の日から抱き続けてきた違和感。

あの日見た漆黒の星。

全部が、一つに繋がっていく。


(だから……。)

(あんなに強かったんだ……。)


その事実が、ようやく胸へ静かに落ちていった。

リーダーは一歩後ずさる。

顔から血の気が引いていた。


「てめぇが……!」

「本物の漆黒の流星(ブラックスター)か……!」


震える声が漏れる。

さっきまでの余裕は、もうどこにもなかった。

偽物を名乗り続けてきた自分の前へ、本物が現れた。

それがどういう意味なのか。

嫌というほど理解してしまっていた。


「だったらどうする?」


零の声は驚くほど穏やかだった。

怒りも、焦りもない。

その静けさだけが、かえって本物と偽物の埋めようのない差を物語っていた。


「うるせぇ!」


黒い魔力が全身から噴き出した。


「今日から俺が本物になるんだ!!」


闇が渦を巻く。

火属性と闇属性。

2つの魔力が混ざり合い、巨大な黒炎が形成されていく。


倒れた部下たちさえ巻き込みながら。

工場全体を焼き尽くすほどの熱量を放っていた。

空気が熱で歪む。

床へ黒い炎が漏れ落ちるたび、コンクリートが焦げ付き、煙が立ち上った。

鈴華の表情が強張る。

まともに受ければ終わる。

それほどの魔力が、一点へ凝縮されていた。


だが――。

零だけは、その巨大な黒炎を前にしても表情を変えなかった。

冷めた視線。

わずかな失望。

そして、小さく息を吐く。


「……馬鹿が」


その一言だけだった。

右手をゆっくりと掲げる。

掌の上へ、漆黒の球体が生まれた。

夜空を凝縮したような黒。

その周囲を、紫銀色の粒子がゆっくりと巡っている。

静かに。

だが確実に。

球体は膨れ上がっていく。

周囲の粒子が吸い寄せられ、圧縮され、一つの星へ集束していく。


工場内の空気が微かに震えた。

魔力そのものが空間を軋ませている。

鈴華は思わず息を呑む。

その魔法は知っている。

模擬戦でも見た。

けれど、今、目の前に立つ零は、あの日とは違う。

気怠げな表情の奥に宿る、静かな怒り。

守るために放たれる銀河星。

同じ魔法のはずなのに。

模擬戦の時とは比べものにならないほどの圧力を感じていた。

まるで、あの時は、力のほんの一端しか見せていなかったのだと告げられているようだった。

零は右手をゆっくりと前へ向ける。


銀河星(ギャラクシースター)――バージョン彗星コメット


静かな声が工場内へ響く。

掌の上で脈動していた漆黒の球体が、さらに圧縮される。

黒い輝きは一層深みを増し、周囲を巡る紫銀色の粒子も、まるで彗星の尾のように長く流れ始めた。

零はリーダーを真っ直ぐ見据える。

黄金色の瞳には、一切の迷いも揺らぎもない。


発射シュート


轟音。

巨大な彗星が一直線に放たれた。

黒い尾を引きながら、リーダーが放った黒炎へ真正面から突き進む。


激しい衝突。

衝撃波が工場全体を揺らした。

床が砕ける。

壁へ亀裂が走る。

天井から破片が降り注ぐ。

火花と黒い粒子が激しく飛び散り、轟音が何度も反響した。

黒炎と彗星。

2つの魔力が真正面からぶつかり合う。

だが、その均衡は長く続かなかった。

彗星は黒炎を押し返す。

飲み込み。

砕き。

その勢いを失うことなく、一直線に突き進んだ。


「な――」


リーダーの声が途切れる。

次の瞬間。

轟音と共に巨大な爆発が巻き起こった。

黒煙が工場内を覆い尽くす。

衝撃波が吹き荒れ、砕けた窓から夕暮れの風が一気に流れ込んだ。

舞い上がった粉塵が視界を覆い隠す。

誰の姿も見えない。

工場内には、崩れ落ちる瓦礫の音だけが静かに響いていた。


やがて。

立ち込めていた黒煙が、夕暮れの風に流されていく。

少しずつ視界が開ける。

砕けた床。

崩れた機械。

爆発の爪痕だけが、工場内へ静かに残されていた。

その中心で。

リーダーは地面へ倒れ伏していた。

もう動く気配はない。

決着だった。


零は静かに右手を下ろす。

周囲を舞っていた黒い粒子も、役目を終えたようにゆっくりと消えていった。

張り詰めていた空気が、少しずつほどけていく。

倒れた男を見下ろし、小さく息を吐く。

そして、ゆっくりと口元を緩めた。


漆黒の流星(ブラックスター)って名前はさ」

「結構気に入ってるんだよ」


短く笑う。

一歩だけ男へ近付く。

黄金色の瞳が静かに細められた。


「お前みたいな半端モンに譲る気はねぇ」


その声に、先ほどまでの冷たさはなかった。

ただ、自分の大切なものを踏みにじられた者だけが見せる、静かな意思が込められていた。

そう言い残すと、零は男へ背を向ける。

もう興味を失ったように、その場を後にした。


鈴華を守っていた防御魔法ははすでに消えていた。

工場内には静寂だけが残っている。

零は鈴華の前で足を止めた。

ゆっくりとしゃがみ込み、その顔を覗き込む。

先ほどまでの冷徹な執行官の表情は、もうどこにもない。

教室で見せる、いつもの笑みだった。


「……大丈夫か?白河」


鈴華はしばらく言葉が出なかった。

目の前にいる人物が教室で眠そうに授業を受けているクラスメイトと世界中の犯罪者を追う『アストラル・オーダー』の特別執行官。

どうしても結び付かなかった。

けれど、もう疑う余地はない。


黒神零。

そして、本物の『漆黒の流星(ブラックスター)』。

目の前にいるのは、その2つの顔を持つ、同じ1人の少年だった。

鈴華は小さく頷く。


「……はい」


その返事を聞くと、零は安心したように小さく息を吐いた。

肩から余計な力が抜ける。

張り詰めていた緊張も、ようやく解けたようだった。


「そうか」

「良かった」


その一言だけだった。

けれど、その穏やかな声を聞いた瞬間。

張り詰めていた鈴華の心も、少しずつほどけていく。


気付けば、肩へ掛けられたコートの襟を握る手にも自然と力が入っていた。

まだ彼の温もりが残っている。

その温もりが、不思議なくらい安心できた。


鈴華はそっと零を見上げる。

先ほどまで敵を圧倒していた執行官の姿は、もうどこにもない。

そこにいるのは、いつもの黒神零だった。

その姿を見た瞬間、胸の奥に残っていた緊張がふっと溶けていく。

安堵と嬉しさが入り混じるように広がり、自然と口元が緩んだ。

鈴華は思わず、小さく笑みをこぼした。

挿絵(By みてみん)

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