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漆黒の流星《ブラックスター》  作者: ショウ
第1章:漆黒の流星

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19/32

10話:漆黒の流星①

数時間前


土曜日の昼下がり。

黒神家。


広々としたリビングには、大型テレビとゆったりとしたグレーのソファが置かれている。

ソファの前にはローテーブル。

その奥にはダイニングキッチンが続き、四人掛けのダイニングテーブルが静かに佇んでいた。


まだ引っ越して間もないこともあり、室内は驚くほど物が少ない。

生活感は薄い。

だが、それでもどこか落ち着く静けさがあった。

テレビでは『漆黒の流星(ブラックスター)事件』が報道されていた。


『昨夜、警察官2名が重傷――』

『事件は組織的犯行の可能性もあり、警察は捜査本部を設置しました――』


ニュース映像には規制線や救急車が映し出されている。

零はソファへ深く腰掛けたまま、コップの牛乳を一口飲んだ。

視線だけをテレビへ向け、小さく息を吐く。


「はあ……。」


昨日の放課後を思い返す。

街中を駆け回り、目撃情報を頼りに現場を巡った。

だが、駆け付けた時にはすでに事件は終わっていた。

残されていたのは規制線と、パトカー。

そして黒い魔力の残滓だけ。

完全に後手へ回っていた。


「派手にやりやがって。」


気怠そうに頭を掻く。

テレビを消す。

部屋が静まり返った。

調査には出たい。

だが、足取りが掴めていない以上、闇雲に動いても昨日の二の舞だ。

しばらく考え込み、小さく肩をすくめる。


「アストラルの権限を使えば、一発なんだけどな……。」


もちろん、それは最後の手段だ。

せっかく普通の学生生活を送るために日本へ来た。

こんなことで頼るわけにはいかない。

それに脳裏へ銀髪の上官が浮かぶ。


『帰国したばかりなのに、もう揉め事?』

『普通の学校生活を送るんじゃなかったの?』


優しく微笑んでいる。

だが、その笑顔の裏にある圧を、零はよく知っていた。

思わず顔をしかめる。


「今回は、自力で何とかするか。」


肩をすくめ、小さく笑う。

結局、自力で探すしかない。

そう結論を出した、その時だった。

静かなリビングへ、小さな電子音が響く。

テーブルへ置いていたスマートフォンが震えた。

誰だと思い画面へ目を向ける。

表示された名前を見て、思わず眉がぴくりと動く。

送信者は影山だった。


【同志黒神!】

【今の同志が欲しがっているであろう情報だ!】

【俺なりに集めておいた!】

【存分に活用してくれ!!】


零は数秒、画面を見つめたまま固まる。


「なんで俺が今この情報欲しいって分かるんだよ、コイツ。」


頭を掻きながら苦笑する。


「エスパーか?」


タイミングが良すぎる。

まるで自分の考えを見透かされていたようだった。


苦笑しながら添付ファイルを開く。

画面には事件資料が整理されていた。

目撃地点。

犯人の移動経路。

そして――。


『本日、警察で判明した情報』

『使用魔法:火属性・闇属性による複合魔法』


零は数秒、画面を見つめた。


「なんで今日、警察で判明した情報をもう知ってるんだよ。」


思わず呆れたように笑う。

ふと、昼休みの屋上を思い出した。

海外の記事を集め、一つひとつ情報を照らし合わせていた影山。

噂を鵜呑みにするのではなく、自分で整理し、必要な情報だけを拾い上げていた。


(……情報屋を名乗るだけのことはある。)


あの時、小さく感心したことを思い出す。

小さく苦笑しながら資料へ目を通していく。

やがて指が止まる。

残った候補地は3ヶ所。

どちらも街外れ。

ここ数日で目撃情報が急増している場所だった。

黄金色の瞳が静かに細くなる。


「……こいつはキナ臭いな。」


位置関係を頭の中へ描いていく。

目撃された時間帯。

逃走経路。

人通りの少なさ。

昨日、自分が回った場所も重ね合わせる。

点だった情報が、少しずつ一本の線へ変わっていく。


風紀部や警察は人員を分散して調査している。

だが、零は1人。

誰かと足並みを揃える必要はない。

本命を見つけるまで、一つずつ潰していけばいい。

そう結論を出し、スマートフォンをポケットへしまおうとした、その時だった。


再び短い電子音がリビングへ響く。

画面を見る。

また影山だった。


【同志だからな!!】

【同志の考えることくらい分かる!!!】

【遠慮はいらん!】

【終わったら感想を聞かせてくれ!!】


零は思わず足を止めた。

しばらく画面を眺める。


「……やっぱエスパーか、アイツ。」


呆れたように笑う。

どこまで読まれているのか分かったものじゃない。

それでも、この情報がなければ今日も昨日と同じように街中を駆け回ることになっていただろう。


「……助かった。」


小さく呟く。


「借りができちまったな。」


ポケットへスマートフォンをしまい、苦笑する。


「しゃーねぇ。」

「昼飯くらい奢ってやるか。」


立ち上がる。

クローゼットを開き、黒いコートを取り出す。

アストラル時代から使い続けているコートだ。

何着かあるうちの一着。

袖を通し、軽く襟元を整え黄金色の瞳が静かに細くなる。


「さて……。」

「本物ってもんを教えてやるか。」


ドアを開ける。

差し込む陽の光を背に、零は静かに歩き出した。


----


そして今ーー

星峰市郊外。

街外れの工場地帯。


そのまま鈴華へ視線を向ける。

焼け焦げた制服。

煤で汚れた腕。

震える肩。

零はほんの少しだけ眉を寄せ、小さく息を吐いた。


「ったく……」

「無茶しすぎだ」


何も言わず、自分のコートを脱ぐ。


「え……?」


鈴華が目を丸くする。

零は構わず、その肩へコートを掛けた。

ふわり、と重みが乗る。

まだ少しだけ、零の体温が残っていた。


「特別製のコートだ」


零は肩をすくめる。


「防熱、防寒、防御魔法付き」


焼け焦げた制服を見て苦笑した。


「まあ、防御してるだけだから痛いもんは痛いけどな」


鈴華は思わずコートの襟を握った。

ほのかに残る温もり。

胸の鼓動が少しだけ速くなる。

零は一度だけ後ろを振り返った。


『銀河星--黒洞』は今も静かに鈴華を守り続けている。

それを確認すると、小さく頷き、前へ向き直った。

片手をポケットへ突っ込んだまま、半グレたちと向かい合う。

黄金色の瞳が静かに細められる。


「さて、、、」


小さく息を吐く。

半グレのリーダーは顔を引きつらせたまま零を睨みつけていた。


「てめぇ……何者だ?」


零は答えない。

ただ気怠げに首を傾げるだけだった。

その態度が、リーダーの怒りへ火を点ける。

奥歯を噛み締める。

そして、何かを合図するように右手を軽く振った。


「やれ!」


だが――。

何も起こらない。

工場内へ嫌な沈黙が落ちた。

リーダーの眉が動く。


「どういうことだ?」


零は鼻で笑った。


「あー」

「外にいた連中なら、もう伸びてるぞ」


軽く頭を掻く。

その一言でリーダーの顔色が変わる。


「なっ……!」


鈴華も思わず目を見開いた。

外にも見張りがいた。

それを零はここへ来る前に、誰にも気付かれず片付けていたのだ。

リーダーは歯を食いしばる。


「ふざけやがって……!」


零は肩をすくめた。


「ふざけてんのはどっちだよ」


声は軽い。

だが、黄金色の瞳だけは笑っていなかった。

リーダーは怒鳴る。


「やれぇぇぇ!!」


周囲の半グレたちが一斉に動き出した。

魔法弾を放つ者。

刃物を構える者。

鉄パイプを振り上げる者。

怒号と足音が廃工場の床を揺らす。

一斉に零へ襲い掛かった。

鈴華は息を呑む。


「黒神くん!」


しかし。

次の瞬間、零の姿がその場から消えた。


「は?」


半グレの一人が間の抜けた声を漏らす。

誰1人、その動きを目で追えなかった。

気付けば。

零はすでに集団の中心に移動していた。

気怠げな足取りで。

まるで散歩でもしているかのように。


「どこ見てんだよ」


低い声が響く。

男たちは慌てて振り返る。

だが遅い。

刃物は空を切り。

魔法弾は残像だけを撃ち抜いた。


「速すぎる!」

「何なんだよコイツ!」


零は軽くため息を吐いた。


銀河星(ギャラクシースター)――バージョン隕石メテオ


黒い粒子が静かに集まり始める。

零の周囲へ無数の黒い星々が浮かび上がる。

夜空を切り取ったような漆黒。

その表面を紫銀色の粒子が静かに流れていた。


鈴華の碧色の瞳が揺れる。

入学式の朝に見た流星群。

模擬戦で澪を追い詰めた魔力弾。

それと同じ技だった。

けれど。

今の零からは、あの時のような遊び心は感じられない。


連射ラッシュ


次の瞬間。

黒い流星群が一斉に放たれた。

轟音。

無数の隕石は複雑な軌道を描きながら、半グレたちへ襲い掛かる。


「うわぁぁぁっ!」

「速すぎる!」

「避け――」


最後まで言い切ることはできなかった。

流星は自在に軌道を変える。

防御魔法を展開しようとした男の足元を撃ち抜き。

刃物を振り上げた男の腕を弾き飛ばす。

逃げ出した男の背後へ回り込むように直撃する。


まるで。

一人ひとりの動きを読んでいるかのようだった。

悲鳴が工場内へ響き渡る。

男たちは壁へ叩きつけられ。

床を転がり。

次々と意識を失っていく。

黒い粒子と土煙だけが静かに舞い上がった。

鈴華は思わず息を呑む。

目の前で戦う零の背中から視線を離せなかった。

コートの襟を握る指へ自然と力が入る。


(……模擬戦の時とは全然違う)


あの時は余裕があった。

どこか楽しそうですらあった。

相手の力を測りながら、遊ぶように戦っていた。


けれど今は違う。

零は笑っている。

いつものように軽く。

気怠げに。

それでも。

その笑みの奥にあるものは、あの日とはまるで違っていた。

その視線は一度も鈴華から離れていない。

半グレたちを倒しながらも。

鈴華を守る黒洞が消えないよう維持しながらも。

零は常に鈴華の安全を確認していた。


(この人は……)

(守るためなら……こんな顔をするんだ……)


胸の奥が熱くなる。

鼓動が少しだけ速くなった。

やがて。

最後の1人が地面へ崩れ落ちる。


工場内へ再び静寂が戻った。

立っているのは2人だけ。

黒神零。

そして半グレのリーダー。

零は片手をポケットへ入れたまま歩き出す。


コツ。

コツ。

靴音だけが工場内へ静かに響く。

リーダーは後ずさった。

さっきまで浮かべていた余裕はもうない。

額には冷や汗が滲んでいた。

零はそんな男の前で立ち止まる。

黄金色の瞳が静かに細められた。


「1つだけ教えてやる」


小さく笑う。

その笑みは。

学校で見せる気怠げな笑顔とはまるで違っていた。

冷たく。

静かで。

どこか獲物を見据える捕食者のようだった。

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