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漆黒の流星《ブラックスター》  作者: ショウ
第1章:漆黒の流星
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14/21

7話:VS風紀部エース③

放課後。


昼休みの模擬戦から数時間。

授業は終わったものの、零たち4人の間には、まだあの熱気がどこか残っていた。


終礼が終わり、生徒たちが次々と帰り支度を始める。

零も教科書を鞄へ放り込み、大きく伸びをした。


「さて。」

「帰るか。」


影山が鞄を肩へ担ぎ、にやりと笑う。


「同志黒神。」

「今日は駅前でも寄ってくか?」

「新作のクレープが出たらしいぞ。」


その一言に、零の耳がぴくりと動く。


「甘いもんか。」

「悪くねぇな。」


天野も小さく頷く。


「俺も付き合う。」


3人が席を立った、その時だった。


「黒神くん。」


教室へ、聞き慣れた声が響く。

零の肩がぴくりと震える。

振り返るまでもない。


(……来た。)


昼休みの模擬戦。

最後は楽しくなりすぎて、思わずあの魔法を使いかけた。

冷静になった今なら分かる。

少し、調子に乗りすぎた。


(昼休みのことだな。)


零がゆっくり振り返る。

そこには、にこりと微笑む鈴華が立っていた。


「途中まで一緒に帰りませんか?」


その笑顔を見た瞬間。

影山と天野は顔を見合わせる。


「……同志。」


影山は小さく頷いた。


「俺たち、先帰るわ。」

「健闘を祈る。」


そう言うや否や、さっさと教室を出ていく。

天野も苦笑しながら後に続いた。


「悪い。」

「これは助けられない。」


2人は逃げるように教室を後にした。


「おい!」

「見捨てるな!」


零が思わず声を上げる。

しかし返事はない。

廊下から影山の笑い声だけが聞こえてきた。


「骨は拾ってやる!」


零は小さくため息をつく。

(薄情な奴らだ……。)


それでも一応、最後の抵抗を試みる。


「悪い、白河。」


何事もなかったように笑う。


「実は今から外せない用事が――」

「お・は・な・し、があります。」


一拍置き、鈴華は優しく微笑んだ。


「一緒に帰りませんか?」


食い気味だった。

鈴華は、にこりと微笑んでいる。

その笑顔はいつもと変わらない。

なのに、不思議と逃げ道だけが見当たらなかった。


「……はい。」

「喜んで……」


零はあっさり観念する。

鈴華は満足そうに微笑んだ。


「では、行きましょうか。」


こうして2人は並んで教室を後にした。


-----


2人は並んで校門を出た。

夕暮れの街を吹き抜ける風が、鈴華の長い黒髪を優しく揺らす。

しばらく2人の間に静かな時間が流れた

零は何度か口を開きかけては閉じる。

この空気には慣れていない。

やがて観念したように頭を掻き、ぽつりと口を開いた。


「あー……。」

「白河さん?」


鈴華は足を止めることなく、顔だけを零へ向ける。


「はい?」


その穏やかな返事に、零は少しだけ言葉を選ぶ。

恐る恐る尋ねた。


「怒ってる?」


鈴華は少しだけ考え、小さく首を横へ振る。


「いえ……。」


一拍置く。

視線を前へ戻し、小さく息を吐いた。


「怒っているというより。」


少し困ったように微笑む。


「呆れてます。」


零はほっと胸を撫で下ろした。


「怒ってねぇだけ助かった。」


その安堵した様子に、鈴華は思わず苦笑する。

だが、すぐに表情を引き締めた。


「助かってません。」

「これから、お話があります。」


真っ直ぐ零を見つめ真面目な表情へ戻る。


「プールを壊した魔法を使おうとしましたよね?」


零は視線を空へ逃がした。


「あー……。」


否定はしない。

それだけで十分な答えだった。

鈴華は少しだけ呆れたように笑う。


「自覚、あるんですか?」

「せっかく1週間かけて罰掃除を終えたばかりなんですよ?」


一度言葉を区切る。


「また同じことになっていたかもしれないんですよ?」


その声色に怒りはなかった。

呆れと心配。

その2つが入り混じっていた。

零は困ったように笑う。


「でもさ。」

「撃ってないだろ?」


鈴華はまっすぐ零を見つめた。

その言葉が通じないことくらい、最初から分かっている。


「撃とうとしてました。」

「予鈴が鳴らなかったら、本当に撃っていましたよね?」


零は返事に困ったように頭を掻く。


「……楽しくなっちまってさ。」

「たぶん、止まらなかった。」


少しだけ苦笑する。

鈴華は小さく肩を落とした。


「たぶんじゃありません。」


夕陽に照らされた碧色の瞳が、まっすぐ零を見つめる。


「あの魔法を室内で使ったら、訓練場だってどうなるか分からないじゃないですか。」


零は苦笑しながら頭を掻く。

頭の中で、あの瞬間を思い返す。

超新星(スーパーノヴァ)

零が使う魔法のの中でも、指折りの破壊力を持つ砲撃魔法。

学校の防護結界は、生徒同士の模擬戦を想定して展開されている。

多少の余裕は持たせてあるだろう。

だが、それでも超新星を真正面から受け止められる保証はない。

冷静に考えれば、訓練場ごと吹き飛んでいても不思議ではなかった。


「……まあ。」

「たぶん、防御結界じゃ耐えられなかった。」


あっさり認めた。

鈴華は思わず足を止める。

零もつられて立ち止まった。


「分かってたんですか?」


鈴華は真っ直ぐ零を見上げた。

呆れ半分、信じられないという表情だった。

零は少し困ったように笑う。


「その時は、そこまで頭が回ってなかった。」

「つい楽しくなっちまって。」


ぽつりと本音を漏らす。

鈴華は小さく息を吐いた。


「その『楽しくなっちゃった』が、一番心配なんです。」


春風が2人の間を吹き抜ける。

鈴華は真っ直ぐ零を見上げた。


「以後、気をつけてください。」


その言葉に、零は鈴華の横顔を見つめる。

責められているわけじゃない。

心配してくれていた。

そのことだけは、ちゃんと伝わった。

零は照れ隠しのように後頭部へ手を当てる。


「悪かった。」


短い一言。

だが、それは今日一番素直な謝罪だった。

鈴華はその返事を聞き、ようやく表情を和らげる。


「……分かってくれたなら、それでいいです。」


2人は再び歩き出す。

夕陽が長く伸びた二人の影を、静かに歩道へ映していた。


-----


先ほどまでの張り詰めた空気は、いつの間にか少しだけ和らいでいた。

ただ、春風だけが二人の間を優しく吹き抜けていく。

やがて鈴華は夕焼けに染まる街並みを眺めながら、ふと思い出したように口を開いた。


「それにしても……。」

「澪、悔しそうでしたね。」


長い黒髪を耳へかける。

零はポケットへ手を入れたまま、小さく頷く。


「ああ。」


短い返事だった。

鈴華はその横顔を見つめ、小さく微笑む。


「でも、少しだけ楽しそうでもありました。」


零は少しだけ目を細める。


「強い奴と戦うのは嫌いじゃないんだろ。」


澪が最後まで諦めず、自分へ向かってきた姿を思い出す。

負けても折れない。

そんな相手は嫌いじゃなかった。

鈴華はくすりと笑う。

そして、隣を歩く零の横顔を覗き込むように首を傾げた。


「黒神くんも、そうですよね?」

「今日の模擬戦を見たら楽しそうでした」


零は少しだけ空を見上げる。

夕焼けに染まった雲がゆっくりと流れていた。

やがて口元を緩める。


「まあな。」

「久しぶりに楽しかった。」


その一言は飾り気がなく、本音だった。

鈴華は少しだけ目を丸くする。

昼休みの模擬戦。

あれほど楽しそうに戦う零を見たのは初めてだった。

だからこそ、その言葉がどこか嬉しく感じられた。

夕陽を見つめながら、どこか懐かしそうに微笑む。


「澪も、きっと同じ気持ちだったと思います。」

「今日の模擬戦も、きっと忘れられないと思います。」


少しだけ嬉しそうに口元を緩める。


「それに……。」


どこか誇らしげに笑う。


「ああ見えて、澪はとても優しいんですよ。」


零は思わず目を瞬かせた。


「あの鏡野が?」


昼休みの模擬戦が頭をよぎる。

氷槍を次々と放ち、水流で逃げ道を塞ぎ、最後には巨大な水龍まで繰り出してきた少女。

どう考えても”優しい”という印象とは結び付かない。


「……本当か?」


思わず本音が漏れる。

鈴華はその反応がおかしかったのか、くすりと笑った。


「ふふっ。」

「そう思いますよね。」


小さく頷く。


「風紀部でも、いつもみんなのことを気に掛けてくれるんですよ。」


零は腕を組み、小さく唸る。


「へぇ……。」


まだどこか納得しきれていない様子だった。

昼休みに見た澪の姿と、どうしても結び付かない。


そんな横顔を見て、鈴華は昼休みの模擬戦を思い返す。

攻撃を攻撃で撃ち落としながら駆け抜けていく姿。

その一方で、入学式の日には見ず知らずの人へ迷わず手を差し伸べる姿。

夕暮れの教室では魔法の相談へ付き合ってくれた。

気まぐれで自由奔放。

それでも、なんだかんだ最後には助けてくれる。

鈴華は小さく微笑んだ。


「……黒神くんも、人のこと言えませんけど。」

ぼそりと呟く。


「ん?」

「なんか言ったか?」


鈴華は首を横へ振る。


「いえ。」

「なんでもありません。」


少しだけ沈黙が流れる。

零は居心地悪そうに頭の後ろを掻いた。

この空気は苦手だ。

話題を変えるように口を開く。


「そういえば」

「鏡野とは、ずいぶん仲が良いんだな。」


その言葉に、鈴華は少し照れ臭そうに笑う。


「はい。」

「澪とは中学からの付き合いなんです。」


夕焼けに染まる街並みへ視線を向ける。


「私にとって、大切な友達です。」


零は静かに頷いた。

鈴華は少しだけ迷うように零を見上げる。

聞いていいのか分からない。

それでも、気になってしまった。


「黒神くんにも……そういうお友達はいるんですか?」


その問いに、零の足がほんの少しだけ止まる。

脳裏を、一人の少女がよぎった。

太陽のような笑顔。

天真爛漫で、どんな時も前を向いていた。

平均より少し小柄な身体で、それでも誰よりも大きな背中だった。

いつも自分の手を引いて走っていく。

笑って。怒って。泣いて。

そして――魔法を使えば、誰もが息を呑む。

思い出は夕焼けの中へ静かに溶けていく。


「いたよ。」


零は少しだけ遠くを見るように目を細めた。

懐かしむような笑み。

けれど、その奥には消えない寂しさがあった。


「もう1年以上、会ってないけどな。」


その横顔を見て、鈴華の胸が少しだけ締め付けられた。

普段の気怠げな笑顔とは違う。

どこか遠くを見つめるような、寂しげな笑顔だった。

(聞かない方が……よかったかも。)

謝ろうと口を開きかける。


零は小さく息を吐いた。

昔を思い出すのは、ここまででいい。


「そんじゃ、ここまでだな。」


零が足を止める。

気が付けば、風紀部星峰支部へ続く道の前まで来ていた。

さっきまで話していたこともあってか、脳裏にはまだあの少女の笑顔が残っている。

零は小さく息を吐くと、反対方向を親指で示した。


「俺はこっち。」


鈴華は小さく頷く。


「はい。」


少しだけ名残惜しそうに微笑む。


「また明日です。」


零は軽く手を上げた。


「おう。また明日。」


そのまま夕暮れの街へ歩き出す。

鈴華は、その背中が見えなくなるまで静かに見送った。

普段は飄々としているのに、時折見せる寂しそうな横顔。

あれが、さっき話していた”友達”なのだろうか。

そんなことを思いながら、小さく息を吐く。


「……また明日。」


誰にも聞こえないほど小さく呟くと、鈴華も風紀部星峰支部へ向かって歩き始めた。


-----


1人になった零は、夕焼けに染まる空を見上げる。


さっきまで思い出していた少女の面影も、ゆっくりと夕焼けへ溶けていく。


漆黒の流星(ブラックスター)事件、か……。」


昼休みに影山が話していたことを思い出す。

ただの愉快犯なら、それでいい。

でも――。

零はポケットへ手を入れたまま、小さく肩をすくめた。


「……面倒なことになってきたな。」

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