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漆黒の流星《ブラックスター》  作者: ショウ
第1章:漆黒の流星
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12/18

7話:VS風紀部エース①

数分後――。

星峰魔法高等学校・屋内訓練場。


実技演習にも使用される広い訓練施設。

床には衝撃を吸収する特殊素材が敷き詰められ、周囲には魔法による被害を防ぐ防護結界が展開されている。

昼休みも終わりが近く、訓練場に他の生徒の姿はない。


静まり返った空間にいるのは5人だけだった。

黒神零。

鏡野澪。

白河鈴華。

影山怜治。

天野悠。

訓練場の中央で、零と鏡野が静かに向かい合う。

しばらく互いの様子を見ていた鏡野が、静かに口を開いた。


「昼休みも、もう終わるわ。」


一拍置き、落ち着いた口調で続ける。


「勝敗は一撃。」

「先に有効打を与えた方の勝ち。」


合理的な提案だった。

零は小さく口元を緩める。


「いいぜ。」

「そのくらいの方が手っ取り早い。」


天野も静かに頷いた。

「妥当だな。」

「授業にも間に合う。」


ルールが決まると、影山は嬉しそうに2人の間へ歩いていく。


「よし!」

「それじゃ審判は俺な!」


零は呆れたように肩をすくめる。

「勝手に決めるな。」


影山は胸を張った。

「公平な第三者のジャッジも必要だろ?」


天野は苦笑する。

「……まあ、お前しかいないか。」


鈴華も小さく呆れるように笑った。

「宜しくお願いします。」


影山は満足そうに頷く。

そして大きく息を吸い込んだ。


「急遽開催!」


両手を大きく広げる。


「プール破壊の黒神零!」


零は嫌そうに眉をひそめる。

「……まだそれ言うのか。」


影山は構わず鏡野を勢いよく指差した。


「VS!」

「風紀部エース・鏡野澪!」


天野は額へ手を当て、小さくため息をつく。

「せめて普通に紹介してやれ。」


鈴華も困ったように苦笑した。

「まだ言われてるんですね……。」


零は小さくため息を吐く。

「嬉しくねぇ……。」


そんなやり取りを見ていた鏡野の口元が、ほんのわずかに緩んだ。

だが、それも一瞬。

すぐに真剣な表情へ戻る。


影山は2人を交互に見回す。

右手を高く掲げ、大きく振り下ろした。


「模擬戦――開始!」


その合図と同時だった。

鏡野が床を蹴る。


「先手は貰うわ。」


青みかかったグレーの髪が風を切る。

間合いを詰めるのではなく、斜めへ滑るように移動しながら右手を払った。


「水刃。」


圧縮された水の刃が一直線に零へ迫る。

零は半歩だけ身体をずらす。

水刃は制服の袖を掠め、そのまま防護結界へ弾けた。

水飛沫が光を受け、細かな粒となって舞う。


「おっと。」

「始まった瞬間に来るか。」


零は楽しそうに笑う。

鏡野は構えを崩さない。


「戦いで相手は待ってくれないもの。」


「いいね。」

「そういうの嫌いじゃない。」


次の瞬間、鏡野の足元から水が広がる。


「氷槍。」


3本の氷槍が空中へ形成され、別々の角度から零へ放たれた。

零はポケットから手を抜く。


銀河星(ギャラクシースター)---バージョン隕石(メテオ)。」


紫銀色の粒子が舞う。

漆黒の星が無数に静かに浮かび上がり零の背後に舞う。


連射(ラッシュ)。」

 

黒い星が流星のように走り氷槍に向かう。

3つの光が交差した瞬間、氷槍は次々と空中で砕け散った

鏡野は止まらない。

地面を走る水流が零の足元へ絡み付く。


「水縛。」


零は軽く後方へ跳ぶ。

拘束は空を切った。

しかし鏡野は、その着地点まで読んでいた。

砕け散った氷片が小さな氷刃となり、背後から零へ襲い掛かる。

しかし


発射(シュート)。」


その言葉と同時に零の背後を旋回していた黒い星が1つ飛び出す。

氷刃は空中で粉々に砕け散った。

零は着地しながら小さく笑う。


「水で縛って、氷で刺す。」

「なかなか器用じゃん。」


鏡野は静かに零を見据える。

今の一撃も、防御魔法なら容易く防げたはずだ。

それでも零は、防御ではなく迎撃を選んだ。

あえて使わないのか。

それとも――使えないのか。

その真意を探るように、鏡野は静かに問い掛けた。


「防御魔法は?」


零は飛来する水刃を黒い星で撃ち落としながら、小さく笑う。

防御魔法が使えないわけではない。

必要なら、いくらでも展開できる。

だが、零は滅多に使わない。


流星遊撃(りゅうせいゆうげき)


攻撃は攻撃で迎え撃つ。

防御ではなく、迎撃。

攻め続けることで相手へ主導権を渡さない。

いつしかその戦い方はアストラルではそう呼ばれるようになっていた。

そして質問に対して選んだ言葉は


「使わせてみろよ。」

その一言だった。


鈴華は思わず額へ手を当てる。

「……あれって。」

「挑発してますよね。」


影山は肩を震わせて笑う。

「言ったな、同志黒神。」


天野は苦笑しながら小さく息を吐く。

「鏡野相手に何言ってるんだよ」


鏡野の瞳が細くなる。

挑発。

その意味は十分に伝わった。

次の瞬間。

訓練場の空気が変わる。

地面を走る水流が一気に広がり、液体、蒸気、氷へと姿を変えながら、零を包囲していった。


「舐められたものね」


静かな声だった。

だが、その一言と共に、鏡野から放たれる魔力が一段階高まる。

訓練場の空気がぴんと張り詰めた。

足元を流れていた水が左右へ大きく広がり、まるで意思を持つかのように戦場を駆け巡る。


液体は地面を覆い、蒸気となって視界を揺らし、氷となって退路を塞ぐ。

気体、液体、そして固体。

水の三態を自在に操る鏡野の魔法。

その真価は、ひとつの魔法ではない。

戦場そのものを書き換え、自分に最も有利な環境を作り上げること。

それこそが、風紀部エース・鏡野澪の戦い方だった。

零の周囲は、水と氷によって幾重にも封鎖されていく。

残された回避経路は、針の穴を通すほどわずかしかない。

右手を掲げる。


「氷槍。」


5本さらに7本いや十数本もの氷槍が空中へ形成される。

左右、背後、頭上。

逃げ道そのものを塞ぐ配置だった。


普通なら、ここで焦る。

逃げ場を探し、防御魔法を展開する。

だが、零は違った。

黄金色の瞳が、次々と形成される氷槍を静かに見上げる。

その口元が、少しずつ緩んでいく。


(すげぇ。)

(想像以上だ。)


心の底から、そう思った。

戦場を支配する魔法。

逃げ道を奪い、相手を詰ませるためだけに組み上げられた盤面。

風紀部エースの名は伊達ではない。

その完成度に、思わず笑みがこぼれる。


(面白ぇ。)

胸の奥が高鳴る


鏡野が右手を振り下ろす。

「撃て。」


十数本の氷槍が一斉に零へ襲い掛かる。

零は動く。

一瞬で姿が掻き消えた。

次の瞬間には数メートル先。

さらに横へ。

氷槍と水流、そのわずかな隙間を縫うように駆け抜ける。

紫銀色の粒子を纏った漆黒の星が、訓練場を縦横無尽に駆け巡る。

避けきれない一撃だけを、背後に舞う黒い星が迎え撃った。


速い。

それだけではない。

鏡野の視線。

魔力の流れ。

魔法が放たれる角度。

その全てを読み切り、針の穴ほどの活路を見つけ出す。

最速で見極め、最短で駆け抜け、最小限の魔法で迎え撃つ。

その一連の動きに、一切の無駄はなかった。


鏡野も、その異質さを肌で感じ取っていた。

(速い……。)

(違う。)

(読まれている。)


自分が魔法を放つ、その一瞬先。

零はすでに次の一手を見据えて動いている


それでも鏡野は止まらない。

むしろ、その事実が胸の奥の闘志へ火を灯していた。


零は速い。

それ以上に厄介なのは、こちらの攻撃を読んだ上で最適な動きを選んでいること。

小出しの攻撃では崩せない。

ならば、一気に畳み掛ける。

右手を強く握る。

周囲へ漂っていた水蒸気が一斉に集まり始める。

訓練場の空気がさらに冷え込んだ。

無数の水滴が鋭い氷へ姿を変えていく。

鏡野は静かに息を整える。

右手を前へ突き出した。


「これで終わらせる。」


無数の氷槍が一斉に放たれる。

正面。

左右。

頭上。

残されたわずかな回避経路さえ塞ぐ軌道。

さらに地面を走る水流が勢いを増し、零の足元へ絡み付こうと伸びていく。

液体。気体。固体。

三つの形態を自在に切り替えながら、戦場全体を支配していく。


零は迫り来る攻撃を静かに見据える。

黄金色の瞳が、次々と迫る氷槍を映していた。


銀河星(ギャラクシースター)――バージョン隕石(メテオ)。」


紫銀色の粒子が舞い上がる。

零の周囲へ、漆黒の星が次々と浮かび上がった。

1つ、2つではない。

数え切れないほどの漆黒の星。

その一つひとつを紫銀色の粒子が静かに包み込み、夜空へ広がる満天の星々を思わせる幻想的な光景を描き出す。

鏡野は思わず息を呑んだ。


(これが……黒神零。)


零は右手を軽く前へ払う。


連射(ラッシュ)。」


次の瞬間。

無数の漆黒の星が、一斉に戦場を駆け抜けた。

幾筋もの紫銀色の軌跡が、防護結界の中を縦横無尽に走る。

氷槍は一瞬で撃ち抜かれ、次々と砕け散っていく。

それでも鏡野は止まらない。

さらに氷槍を生み出し、水流が退路を塞ぐ。

だが、その全てを漆黒の星が迎え撃つ。


氷を砕き。

水流を貫き。

退路ごと戦場を切り開いていく。

鏡野は攻撃の手を緩めない。

次々と魔法を重ね、休む暇すら与えない。

それでも――。

零は最後まで攻勢へ転じることはなく最後の一撃を漆黒の星が撃ち抜ぬいた。


戦場を覆っていた水流も、ゆっくりと勢いを失っていった。

鏡野は肩で息を整えながら、小さく目を細めた。


「さすがね……。」


その声に焦りはない。

むしろ、闘志はさらに強くなっていた。


「なら――これはどう?」


右手を高く掲げる。

戦場中へ張り巡らせていた水が、一斉に鏡野の前へ集まり始めた。

激しく渦を巻きながら、巨大な龍の姿を形作っていく。

轟々と唸りを上げる水流。

その巨体が、まるで生き物のように鎌首をもたげた。


「水龍!」


鏡野は真っ直ぐ零を見据えた。


「行きなさい。」


水龍が咆哮を上げるように、一気に零へ襲い掛かる。

圧倒的な質量。

圧倒的な速度。

訓練場の空気を震わせながら、水の龍が一直線に駆け抜けた。

零はその姿を見つめ、口元を緩める。


「いいね。」

「その一撃、受けてやる。」


小さく笑う。

右手をゆっくり前へかざした。


銀河星(ギャラクシースター)――バージョン彗星(コメット)。」


紫銀色の粒子が一斉に集まり始める。

漆黒の星が、ゆっくりと姿を現した。

先ほどの隕石とは比べ物にならない。

夜空を切り取ったような巨大な星。

周囲を巡る紫銀色の粒子が、静かに輝きを放っていた。

零は静かに右手を押し出す。


発射(シュート)。」


巨大な漆黒の彗星が、水龍へ一直線に放たれる。

次の瞬間。

轟音。

漆黒の彗星と巨大な水龍が正面から激突した。

衝撃で防護結界が大きく波打つ。

訓練場全体が震えた。

水龍は咆哮するように押し返そうとする。

だが、彗星は止まらない。

紫銀色の粒子を撒き散らしながら、少しずつ龍の身体を貫いていく。

鏡野は歯を食いしばり、さらに魔力を注ぎ込んだ。


「まだ……!」


龍が再び唸りを上げる。

しかし。

漆黒の彗星は、その勢いを失わない。

やがて水龍の身体へ大きな亀裂が走る。

次の瞬間――。

轟音と共に、水龍が四散した。

砕け散った大量の水飛沫が、紫銀色の粒子と混ざり合い、訓練場いっぱいに幻想的な輝きを散らした

澪は思わず目を見開いた。


(私の全力を……。)

(正面から、撃ち破った……。)


今放った水龍は、現時点で自分が扱える最大火力の魔法。

それを真正面から迎え撃ち、押し切られた。

その事実が、改めて2人の実力差を物語っていた。


零はゆっくりと右手を下ろす。

掌に残る魔力の余韻が静かに消えていく。

その視線は、肩で息をする鏡野から離れなかった。

風紀部エース。

その肩書きに偽りはない。

水の三態を自在に操り、戦場そのものを支配する魔法。

ここまで自分を本気で迎え撃ってきた相手は、久しぶりそして日本に来てからは初めてだった。

自然と口元が緩む。

黄金色の瞳が、まっすぐ鏡野を見据える。


「へぇ……。」

「面白ぇ」


その表情にはワクワク感が滲み出ていた。



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