11話:再襲撃②〜地下へ〜
放たれた隕石が、紫銀色の粒子を星屑のように引き連れながら室内を駆け抜ける。
「ぐっ……!」
窓から飛び込んできた襲撃者の身体が宙を舞った。
続けて二人、三人。
それぞれ別の標的を捉えた隕石が、男たちを窓際の床や壁へ叩きつけていく。
だが、砕けた窓の向こうには、まだ人影があった。
倒れた仲間を乗り越えるように、別の男が窓枠へ手を掛ける。
その時――。
ドンッ!
背後から、大きな衝撃音が響いた。
閉ざされた入口の扉が激しく揺れ、金具が軋む。
「廊下側にも敵が!」
扉を警戒していた護衛の男が、武器を構え直した。
敵はすでに建物内へ侵入し、窓と廊下の両側から押し込もうとしている。
「ったく……キリがねぇな」
零が再び右手を上げかけたところで、護衛が声を掛けた。
「黒神様。ここは、私たちにお任せください」
「私も残ります」
アイリスのそばにいたメイドが、窓へ向き直った。
伸ばした手の先に、薄い光の膜が広がる。
窓から踏み込もうとした男がそれに阻まれ、舌打ちとともに身を引いた。
強引に押し破ろうとする衝撃に膜が揺れても、メイドの足元は動かない。
王女付きの世話役として、最低限の護身術と防御魔法は身につけていた。
「私が扉を、彼女が窓を抑えます。その間に、殿下をお連れください」
護衛の言葉を受け、レオンが部屋の奥にある扉を示した。
「こちらから隣室へ抜けられます。廊下へ出る扉も、別にあります」
続き部屋として使えるよう、二つの客室は内扉で繋がっていた。
隣室の出入口は、廊下の角を挟んだ先にある。
今、敵が押し寄せている扉を突破せずに出られる経路だった。
零は窓と入口を見比べ、それから護衛へ目を戻した。
「……持ちそうか?」
「ええ。元は、私の不覚で招いた事態ですから」
護衛の視線が、一瞬だけ自分の襟元へ落ちる。
そこには、つい先ほどまで発信機が仕込まれていた。
王女を守るためについてきた自分が、敵をこの場所へ導いてしまった。
その悔しさが、武器を握る手に滲んでいる。
「それ、あんただけのせいじゃねぇだろ」
零は低く返した。
「埋め合わせに無茶するつもりなら、置いてけねぇぞ」
「……無茶をするつもりはありません」
護衛は顔を上げ、今度は零の目を見て答えた。
「入口を押さえれば、一度に相手をする人数は限られます。ここで足を止めるよりも、殿下を先へお連れいただきたいのです」
再び扉が揺れた。
割れた板の隙間から、武器の先端が突き出す。
護衛は即座にそれを打ち払い、扉へ体重を掛けた。
「退くべき時には、退きます」
短く言い切った声に、焦りはなかった。
「あなたも、残るのですか……?」
アイリスがメイドを見つめる。
幼い頃から、すぐそばで自分を支えてくれた人だった。
その人が今は、窓から迫る敵を前に立っている。
「はい。ここはお任せください、アイリス様」
メイドは防御魔法を保ちながら、肩越しに顔を向けた。
「伯爵たちと、先へお進みください」
「でも……」
アイリスの視線が、二人の間を揺れた。
自分を逃がすために、誰かを危険な場所へ残していく。
そのことに、すぐ頷くことはできなかった。
「アイリス様」
レオンがそばへ寄り、静かに声を掛ける。
「今は、お二人を信じましょう。作ってくれた時間を、無駄にはできません」
扉が軋む音と、窓際の膜を叩く音が重なった。
迷っている間も、二人は自分たちを逃がすために敵を抑えてくれている。
アイリスは唇を結び、やがて小さく頷いた。
「……どうか、無事でいてください」
「もちろんです」
メイドが柔らかく微笑む。
護衛もまた、力強く頷いた。
「必ず、後ほど合流いたします」
その言葉を聞いた鈴華も、二人へ顔を向ける。
「支部には連絡してあります。お二人も、どうか無理はしないでください」
そう伝え、アイリスの隣へついた。
応援が来るまで、ここで待てる状況ではない。
今は、二人が作ってくれた時間を無駄にせず、アイリスを連れて逃げなければならなかった。
零は、窓と扉を抑える二人を見た。
護衛の迷いのない動き。
衝撃を受けても、防御魔法を保ち続けるメイド。
相手を全員倒そうとしているわけではない。
侵入できる場所を抑え、こちらが離れる時間を作ろうとしている。
「……分かった。ここは頼む」
零は上げかけていた手を下ろした。
「けど、粘りすぎんなよ。俺たちが離れたら、あんたらも引け」
「承知しました」
護衛が短く答えた直後、扉の一部が大きく弾け飛んだ。
木片の向こうに、武装した人影が覗く。
「今です! 行ってください!」
「頼んだ!」
零は踵を返し、レオンが開けた内扉へ向かった。
隣室へ先に踏み込み、さらに廊下側の扉を開ける。
角の向こうから怒号が響いていたが、こちら側に敵の姿はない。
「今だ。行くぞ」
零の合図で、鈴華とアイリス、レオンが続いた。
四人が廊下へ出た直後、元の部屋から扉を破る轟音が響く。
続いて聞こえてきたのは、武器がぶつかり合う鋭い音だった。
零たちは振り返らず、階段へ続く通路を駆け出した。
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「地下駐車場に車を用意してあります」
レオンは走りながら告げた。
「地上へ続く車路を抜ければ、この施設を離れられます」
「おう。道を教えてくれ」
零は前方へ目を走らせる。
先頭に零、その後ろを鈴華とアイリスが追い、最後尾にはレオンがついていた。
「この先のホールを右へ。非常階段があります」
指示された方向へ進みながら、零は通路の奥と、左右の扉へ意識を向けた。
敵があの部屋へ集中しているうちに、距離を稼ぎたい。
やがてエレベーターホールを横切ったところで、鈴華がふと顔を上げた。
「……エレベーターも、止まっているみたいです」
壁の照明は点いているのに、階数を示す表示は消えていた。
通りがかりにレオンが呼び出しボタンへ触れたが、反応はない。
「設備にも、手を入れられたのかもしれません」
レオンの表情が険しくなる。
窓からの襲撃に加え、廊下にも敵がいる。
移動手段まで潰されているとすれば、力任せの襲撃では済まない。
「階段は、そっちだな?」
「はい」
零は立ち止まらず、非常口の表示へ向かった。
「行くぞ。こいつが動くのを待ってる暇はねぇ」
鈴華はアイリスの歩調を確かめ、再び足を速めた。




