第3話
今日の木杜家の夕食は地元の港で上がった新鮮な魚だ。
この地方は魚もおいしい。
しかし、夕食の席では父誠一が、呆れた様に愛沙の話を聞いている。
一つため息をついたのち、おかずに箸を伸ばしながら、
「しっかしお前はよくもそう……」
おかずである魚の身を一片、口に放り込みながら半ば独り言のようにつぶやく。
その言葉が聞こえているのかいないのか、
学校から帰った後の猟での話を、それはもう楽しそうに祖母や母に話しており、
「うん。うん」
と源治は黙って食事をしながら時折相槌を打つにとどめている。
「でな、その時のじっちゃんが、もうめっちゃかっこえかったんよ!
音はせんのに、なんかこう…リーンって感じでさ!ね。じっちゃん。」
あまりの誉め言葉といきなりの振りに、少々慌てた源治は、
「ほれは…もうええけぇ」
とみそ汁に手を伸ばす。
そんな様子を微笑ましく見ていた亀は愛沙に話しかける。
「ほれ、じいちゃんに聞かにゃいけんこと、ようけあったんじゃなかったかや?」。
「ん?(何の話だっけ?)」
と一瞬呆ける愛沙であったが、そうだったと思い出すと、
「こないだ言うとった、あの杜ん話なぁ、
めっちゃ不思議だったけぇ、もうちぃと詳しゅう聞かせてや〜」
もう今すぐに聞かせろとばかりに迫るが、源治としても今日は勘弁してほしい。
そこまでの年ではないが、さすがにあの猪は重かった。
「それはなんぼでもかまわんけどの、今日はちぃと勘弁してごせや。
明日、学校から帰ってからでええけぇな?」
思えば愛沙もいろいろと忙しかった。
学校の勉強はもちろんだが、弓道部もそうだし、
あの猟の緊張感は心地よい疲労感となっている。
「うん、しゃーないな。お風呂入って、ゆっくりして寝るわ〜。
明日も朝練あるけぇな〜」
その夜ベッドに入った愛沙が眠りにつくのは早かった。
いつもなら何らかの勉強をしたり、
携帯で例の異世界ものを読み漁ったりするのだが、
今日は迷わずベッドに飛び込む。
照明のリモコンを手に取ると、
一方の壁一面に所狭しと貼ってある『狩猟鳥獣』と『間違えやすい鳥獣』の
写真やイラストをサッと眺めながらそれぞれの名を頭に浮かべていく。
(あれはスズガモ、あっちはキンクロハジロ)ってな具合だ。
ひととおり終えるとリモコンを操作して消灯すれば、
もう、10を数える間もなく落ちていた。
「――シャ――ア――シャ」
自分が呼ばれているような気がして、
(お母さんが起こしに来た)と思い目を開けようとするが、一向に瞼が上がらない。
ただ何となく、起こしに来たんじゃない……
呼ばれている感じが(う~ん?)
そう……子供に話しかけている様な……何となくだけどそんな感覚。
夢なのか現実なのかわからないけれど、きっと夢なんだ。
そう感じる感覚がある。
そんなあやふやな感覚の中で(「……最近こんな夢ばかり……」)……
しかし、今日は少し続きがあった。
夢の中に出て来る3歳くらいの女の子。
(この女の子がどうしても自分自身に思えて……いや、まさか。)
そしてその女の子に話しかけている二人……男女
(……私の両親……なの?……)
家の中、暖炉の前でその二人の話に聞き入っている。
そして、今日はその女の子が初めて話したのだ。
(「ふ~ん?お父さんもお母さんもハンターだったんだ。」)
「えッ!ハンター!!」
愛沙は現実世界でガバッと上体を起こす。
夢の中で自分が話したことにも驚いたが、その言葉にもっと驚いた。
そして何よりも驚いたのは……女の子が……愛沙が……確かに言ったのだ
「お父さんもお母さんもハンターだったんだ。」と。
「――っちゅう夢見たんよ〜」
翌朝、朝練の行きがけに待ち合わせた楓に夕べの夢の話をしていた。
「なんか、変じゃ思わん?」
愛沙は、一気にしゃべって最後にこう付け加えるが、
「夢なんて、脳が勝手に片付けしよるだけらしいで?
愛沙、また異世界モン読みすぎて、脳みそ暴走しとるんじゃわ〜」
楓は軽く流す。
「でも、ほんま最近こがぁな夢ばっかし見とるけぇなぁ…」
軽く流されたためか愛沙のトーンは少々低い。
「まぁ、そげん気にせんでええが〜。
それより今日あんたの方が、集中切れて外すかもしれんで?」
楓はもうこの話は終わり。と、歩度を速めて学校に向かって進む。
おいて行かれるかたちになった愛沙は一人ブツブツと、
「それでも不思議なんよ!なんで楓には伝わらんのだろな〜」
解ってもらえないその感覚を、そう言葉にするしかなかったのだが、
深く考えてもわからんしなぁと同じく歩度を速めて楓を追った。
―部活―
「木杜さん。今日も連射?」
部長の問いかけに、愛沙はちょっと考えてから
「5本立で……2セット。 ……良いですか?」
応えているうちになんだか自分の集中力を試してみたくなり、
10本連続で射ることにした。
「ええよ。ちゃんと見とるけぇな」
部長からは思いのほかあっさりと了承が得られた
「最近の木杜さん、なんか集中力がえらい違うが〜。段違いになっとるで」
付け加えられた部長の言葉に内心そうかなぁと思いつつ
「ありがとうございます。」
お礼を言うと準備に取り掛かる。
(いざっ!)
深く深呼吸をすると、気合を入れて丹田に力を込めて声を出す。
「3番射位入ります。」
射場内に愛沙の声が響き渡る。
礼をし、静かにゆっくりと射位に入って行く。
部員たちは、愛沙の発した力のこもった声に練習の手を休めると
それぞれの場所から愛沙の10本立をじっと見守る。
そのころには愛沙はすでに足踏みから胴づくりへと進み、的に視線を送っていた。
(うん、良い)
すぅーっと腕を上げて一瞬の留。それからゆっくりと引き分け……
再びとまる。
一瞬、迷いなく矢がまっすぐに的に吸い込まれていく感覚……イメージが脳裏に浮かぶ。
(ここ)
――シュッ――
イメージ通りに矢が弦を放れ黒点を穿つ。
二射、三射……まるで昨日の再現のようにすべてが中心に吸い込まれていく。
そして十射目。
(ここ!)
イメージが結ばれ、迷いなく矢じりから指を離さんとする。
刹那。
突如として愛沙の周辺の様子が一変する。
(え!なに???)
弓道場から瞬く間に静寂に包まれた森に放り出されたように視界が切り替わる。
あるはずの的はいつの間にか無く、一面に霞が満ちてゆく。
それでも、愛沙は意志の力で視線は動かさない。
的があるはずの一点をじっと見つめたまま、意識のみで周りの変化を探ろうとする。
だが、頭が先にオーバーフローする。
愛沙の思考があまりの変化に追い付かないうちに異様な感覚に包まれる....
(これは何⁉)
変化した景色と異様な感覚に翻弄されそうになる愛沙の視線の先の霞が揺れる。
その霞の先に感じる『何か』
そして愛沙の本能が訴える。『射ろ!』
愛沙には長い時間に感じたが、一瞬の出来事。
本能の訴えに応じ矢は即座に放たれる。
シュッツ
霞の先の、愛沙が感じた『何か』を穿つように、
矢はまっすぐに、ただ霞を切り裂きながら突き進む。
それでいて霞の中に吸い込まれるように……
やがて、矢は霞の先の『何か』を確かに穿つ。
……少なくとも愛沙にはそう感じた。
「何か」を穿った感触を得た瞬間、再び愛沙は弓道場に居た。
(……戻った?……気のせい……)
何かを穿った感覚もまだ残る。
(……あれは、どこ?…… わたし、何を射た?……
……もやは?……森の中? ……だったよね ……あの感じ……なんなん……?)
「丈夫か?」
的から目が離せず立ち尽くす愛沙に、心配する声。
「はい!」
思いのほか自身で感じていたよりも長い時間立ち尽くしていたようだ。
我に返ると、静かに弓を下ろして矢を矢筒へ戻す。
一歩下がって射位を離れるとゆっくりと一礼する。
先ほどの現象が気になる愛沙は、
礼の姿勢から戻ると向きを変えて退場しながら、他の部員たちの反応を伺う。
(……え? 誰も騒いどらん……。うちの気のせい?)
部員たちは、それぞれの練習に戻って行く。
愛沙が退場した後、的中率が気になった後輩部員たちが一人二人と確認に向かう。
矢が的の中心に集中しているのを感嘆の様子で見ていたが、
そのうちの一人、後輩部員の丸山美都が妙なことを口にする。
「あの……愛沙先輩、さっき10本立で……10本、全部射られましたよね?」
それを聞いた同じく的に群がっていた他の何人かが「10本射てた。」と証言する。
しかし先ほどの美都は、
「あの…よう見てみてください。これ、9本しか残っとらんのですけど…」
その言葉に早速検証が始まる。
1本1本的から抜いて並べてみたが、確かに9本しかない。
そこへ遅れて、楓が怪訝そうな声を掛けながらやってくる。
「なにごと〜?どしたん、そんな集まって」
声を掛けられた美都たちは一様に楓の顔を見ると
「楓先輩…あの、愛沙先輩の矢、一本足りんのです…」
楓は、その返答に一本づつ並べられた矢を数えた。
「……外したんじゃないよな?10本、ちゃんと射っとったよな?」
独り言のように口にした。
書いてて思うんです。一文長いなぁって。
これ多分、読んでくださる方、息継ぎというか情報過多に陥らないかなって……
へたくそだなぁ。もう少しうまく文を切れればなぁと思います。
そう言うことですが申し訳ありません。今はこれが一杯です。
書くたびに成長してればいいんですが。なんともはや




