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ふたりの世界が触れる場所 ―世界の違うふたり、そのあいだに立つ少女―  作者: SHIRUSHI08


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第2話


「ただいまぁ~!じいちゃんは?」

愛沙は、玄関の戸をガラガラッと勢いよく開けて、家の中に大きく声を掛ける。

その声に家の奥から返事があった。

「おかえり~」

祖母である亀が、ゆっくりと奥から出てくる。

「あ!ばあちゃんただいま~

……じいちゃん、もう出とってか?」

帰宅の挨拶もそこそこに、何より今は源治じいちゃんのことだ。

「山にかけとった罠に、猪がかかったけぇ言うて、

さっき鉄砲持って出ていんさっただが〜」

「え〜、もうちょっと待っとってくれりゃ、うちも行けたのに〜」

こんな時の愛沙は本当に残念そうに話す。

が、それでもあきらめきれない愛沙は、

「で、どこのワナだったん? いつ出たん?」

亀が返事をする間もなく祖母に次の問いを投げかける

「あの橋ん先ぃ行ったとこの、正蔵さんとこの畑の奥ぅらへんだが〜」

やれやれと言わんばかりの亀ばあちゃんから返事を聞きながらも、

カバンを置いて玄関で靴を履き直している愛沙

「正蔵さんの畑の裏んとこね?」

ばあちゃんの返事を聞く間も惜しんで再び玄関から駆け出す愛沙の後ろから

「裏やねぇ、奥だ~。

気ぃつけて行きんさいよ〜」

亀ばあちゃんの声がした。


「あっ!居た。」

橋を越えて正蔵の畑が見えてきた時、

その手前に止まっている使い込まれた白い軽トラが一台。

その軽トラの脇に狩猟用の黄色とオレンジの蛍光色のベストを着用し、

これまた同系色の帽子を被ったハンターが一人。

この人が愛沙の祖父源治である。

ロープと銃をそれぞれ右肩と左肩に掛け、

さあ、いくか!と言わんばかりのタイミングに遠くから

「じいちゃ~ん!」

その声に源治が振り返る。

「愛沙か。...いやいや、しもうたなぁ。」


勢いよく駆け込んできた愛沙が、肩で息をしながら源治じいちゃんに迫る。

「なんで待っとってくれんだったん? 

もうちぃとで帰ってくるん、分かっとったじゃろ〜?」

「ほ、ほれ……今日は部活の日じゃったろうが。

ほいけぇ……おそなるかもしれん思うてなぁ……

待っとれんかったんじゃわ……」

そのあまりの勢いに、気まずくて、スッと目をそらす。

愛沙はそれを見逃さない。

「ほら、間に合うたけぇ!うちも手伝うけぇな!

で、どこなん?」

自分で勝手に源治に弟子入りしている愛沙は、資格こそまだ持ってはいないが、

罠かけや罠の見回りにも事あるたびに付いて回り、コツや手ほどきを受け、

18歳になれば即狩猟免許を取得したいと

本業の学業の傍らその勉強もしている。

狩猟免許のうち網猟、罠猟は18歳から取れるし、

これだけあれば普通に狩猟はやれる。

ただ、止め差しに銃が使えないので、電気でマヒさせるか、槍様の物で刺突するとか、

いっそこん棒で気絶させてなど方法はいくらでもある。

少々危険が伴うので(猟自体が危険ともいえるが……)お勧めはしない。


源治は愛沙の頭に予備の帽子を被せ、

「ほれ! あっちだ」

得物の動きを止めるための棒状の道具を愛沙に手渡し、茂みの方を指す。

愛沙はそれらを受け取ると、いったん軽トラのあおり扉に立てかけると

「よっしゃ行こーで」

元気にパンパンと両手で自分の顔を叩いて気合を入れる。


相手は動きが制限されているとはいえ野生の猪

命がけであるからこちらも一瞬の油断もできない。

万が一というのはある。

罠の掛かり浅く不十分であるとか、暴れることで足がちぎれるなど

目の前で罠から逃れることがないとは、言いきれず、

そうした場合こちらに向かってくる危険は常にあるのだ。


罠の場所はそう遠くない。

というか落ち着いて耳に意識を戻せば、茂みの奥にガサガサという音が聞こえて来る。

これは、里山集落のほんの目と鼻の先に野生動物が闊歩しているということ。

しかもこいつらは、田や畑の作物のみならず田畑そのものもほじくり返して荒らしていく。

「手前んとこで獲れたん?」

愛沙が小声で源治に聞く。

「ん?そげじゃ」

源治は、銃の作動を確認しつつ12番スラッグ弾をポケットの中に確認する。

「行くか。」

源治を先頭にその後に愛沙が続く。

薄い茂みをかき分けた先に山林が広がり、

その一部が同心円状にえぐられている。

その同心円の中心付近にそいつは居た。

と同時に、じいちゃんから止まれの手信号が来る。

「三十貫もあるかもしれんが〜」

そんなじいちゃんのつぶやきが耳に入る。

現代風に言うと100kg超えといったところか。

比較的風下から接近したのだがやはり音にも敏感な奴は

二人の接近を感じて既に立ち上がっており、こちらの様子を隙を伺うような……

いや、それ以上に隙を伺いあわよくばと身構えている。

自由の身ならば、なおのこと十中八九二人に向かって突進してくるであろう。

案の定、目が合ったと思った瞬間、奴はものすごい勢いで突っ込んできた。

「うわっ!」

分かっていても思わず体がビクンとなる。

幸いくくり罠は奴の前足をくくっていて、固定ワイヤーが限界まで引っ張られると、

それ以上伸びないところで前のめりに地面に突っ伏す。

それでも素早く起き上がりワイヤーの届く範囲を縦横無尽に

やたらめったらに駆けまわって地面をさらにえぐる。

これが同心円にえぐられた地面の正体である。

「思うたより暴れよる…気ぃ抜いたらいけんで」

源治は自分と愛沙に言いながら元折れ式の上下2連の散弾銃にスラッグ弾(散弾ではない単発弾)を2発込めて、銃口を獲物に向け静かに構える。

愛沙は奴の前足のくくりの様子に特に注意を払いながら源治と奴を交互に見る。

忙しなく動き回っていた奴が一瞬動きを止め源治と視線が交わる。

が、それも一瞬

源治が静かに引き金を引き落とす。


パァーーーーン!


乾いた、しかし重い銃声が林の中に響き渡る。

弾丸は見事奴の眉間?を打ち抜いたが倒れる様子がない。

しばらくするとブフーーッツと大きく息を吐いてズズゥーーンと一気に巨体が崩れ落ちた。

その間、源治は微動だにしない。

いつでも二の矢を射れるよう(二発目が撃てるように)静かに銃を構えたまま佇む。

(……すごいなぁ……これが、生きとる残心っちゅうもんかもしれん…)

ちがうかもしれんけど……

道場での……安全な場所でのポーズとは違う本当の緊張感の中での残心。

少なくともその時の愛沙にはそう映ったのだ。

愛沙は思わず奴に対して手を合わせる。

(ありがたく、いただかせてもらうけぇ!)


それからの行動は早い。

じいちゃんと愛沙は協力して素早く血抜きをし、

内臓を取り出して地面に深く埋め戻した後、軽トラに積み込むと、

再び罠を仕掛け直して帰路に着く。

(しばらくは猪ばっかりになるが〜)

そう考えた愛沙の脳裏に楓が浮かぶ。

「じいちゃん、楓にもようけぇ分けちゃってええ?」

という愛沙にやさしい目を向けながら源治が応える。

「どうせ、うちらだけじゃそげ食いきれんけぇ、

たんと持ってってやりんさい。」

嬉しそうに笑顔を浮かべると

「うっしゃー!帰ったらすぐ準備だけぇな〜っ!」

そう言って軽トラの助手席に乗り込んだ。





第2話も読んでいただきありがとうございます。いかがでしたか?気付いたことなどいろいろ書いていただければありがたいです。

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