第1話
連載です。構想は大きく長い物語なんです。(自信はないけど)
だから、しっかりとじっくりと、ひたすら書き込んで……読み直して。
思った通り書けているだろうか? 皆さんにちゃんと読んでもらえるだろうか? 一人で突っ走ってない? などと不安の種は尽きませんが。
それでも、早く投稿したいという気持ちと、いや、まてまて。しっかり見直さねばと葛藤の末、とにかく第1話投稿です。
前書きも第1話です。この物語の主人公は 木杜 愛沙 と言う高校2年生でゆっくり日常をなぞることになりますがゆっくりとお付き合いください。
シュッ!
やわらかく射す陽光のまだ少し肌寒さの残る放課後、
かすかにそよぐ風を頬に感じながら
愛沙の放った矢は、28m先の霞的に吸い込まれるようにその中心(中白)を穿つ。
「おーっ」
後ろで部員たちの小さなざわめきが起きる。
そのことを特に意識もせず、残心を保ったまま静かに弓を下ろした。
木杜 愛沙17歳。
市が4つしかない県の高校に通う2年生、弓道部員。
今日の矢は全て、一本のみがわずかに逸れて、
それでも一の黒であった以外は、中白を射貫いている。
(どうした私……今日、怖いくらいに冴えている。)
自身でもそう感じるほど冴えている。
今なら遠的でも、なんなら三十三間堂の星的でも中心を射貫ける……そんな感覚。
そよぐ風も、降り注ぐ陽の光も、
虫の声ですら、すべてが自分の体にスッと入ってきて……
不思議なほどの研ぎ澄まされた感覚……
(この感覚を忘れないようにしたい。)
「すいませ~ん。続けて射てもええですか?」
的に視線を向けたまま、後ろで練習を見守る部長へ了承を求める。
「うん。ええよ。」
部長は快く承諾を返してくれる。
「ありがとうございます……では。」
愛沙は集中を途切れさせんようにと、再度背筋を伸ばして深く息を吐く。
集中が自然と高まる。
(うん。この感じ)
部員の話し声、風に揺れる葉の擦れる音も、
射す陽光も土や木の香りも、
周りのあらゆるものが愛沙の体に染み渡っていく……
そして一体となっていく感覚……そして……“無”
弓を上に掲げるように持ち上げ、そこから静かに引き分けていく。
静寂の中、力強くゆっくりと弓を引き絞っていく。
その刹那、一瞬の静の時間が訪れる。
(ん……いま!)
感じたままに、素直に右手を離す。
放たれた矢は、波打ちながら、スローモーションさながらに
的に……的の中心に吸い込まれていく。
パンッ!
矢の刺さる音が、愛沙に流れる時間を正常に戻す。
「おぉー」
ふたたび小さなざわめきが起こり、それに交じる拍手の音も。
愛沙は残心を保ちながら、何も考えずに的を穿った矢を見つめていた。
それから更に3本の矢を放つ。
中心部が矢で埋め尽くされる。
(ありがとうございました。)
そう心でつぶやきながら、愛沙は自然に的に向かって一礼をしていた。
射位を離れ、装具を解きながら他の部員の練習に目をやる。
今射位に入っているのは楓。
(あぁ、またぶれとる……)
楓の放った矢は、かろうじて的の端に引っかかる。
楓の練習を眺める愛沙の表情に、自然と笑みがこぼれる。
カサカサとすれ合う葉の音が耳に心地よく、
そよぐ風が高揚した気持ちを静めて流れていく。
「かえでー。それ終わったら帰ろーやぁ」
射位では弓を下ろした楓が、ちぃーと首を傾げとる。
「あ!うん、わかったわ。先に着替えとってーな……すぐ行くけぇ。」
愛沙の呼びかけに気付いて応えた楓はそそくさと射位を離れた。
部活からの帰り道
遅れて駆けてきた白石 楓は、愛沙の肩をバシッと叩くと脇を駆け抜ける。
駆け抜けた先で急停止すると、満面の笑みで振り返って、
「愛沙、やるがなぁ!すごいが!」
自分のことのように興奮した様子だ。
彼女は、愛沙の親友であり同じクラスであり、同じ弓道部員。
おまけに家族ぐるみの付き合いだ。
「まったく、楓〜、人んこと言う前に、自分の命中率も上げんといけんで〜」
叩かれた肩を擦りながら、愛沙は楓に文句を込めて言葉を返す。
「うち、愛沙みたいに上手に射れんけぇ……やっぱ向いとらんのかもなぁ……」
最近の戦績から反論もできず、少ししゅんとしつつ楓がそう応える。
「楓は、『会』 ん時にちぃーと気持ちが流れとるだが。
そこ気ぃつけりゃ、よう当たるようになると思うで」
(これは本当だ。顧問の先生にもよーけ指導されて、そん時はええのに、すぐ元に戻るけぇ)
「ほんにぃ〜?」
楓が前方から顔を覗き込むようにジィ~ッと見て来る。
「ほんに。あとはええけぇ」
その言葉に納得したのか楓は顔を覗き込むのをやめ振り返って前を向く。
「会かぁ~」
後ろ手に組みながら、何となく空を眺めながらそう口にした。
会は弓を引ききって静止する段階のことを言うので、
これがぶれると当然矢が逸れやすくなる。
結果は、的に対し上下左右と定まらない矢が放たれることになる。
当然、楓も重々承知の上なのだが、
愛沙を前に、素直には認めたくない部分もある。
楓は空を眺めたまま
「じゃあさ、愛沙は あん時何を考えとる?」
「あん時? ……そうやね。なんて考えとらんかも」
愛沙は、その場面を思い出してそう答える。
「うち……なんやかんや考えとるかもしれんわなぁ」
楓も同じようにその時を思い出しながら言葉にする。
「楓は、もう邪念まみれだけぇ」
笑いながら、さっきの仕返しとばかりに
楓の背中をパシリとひとつ叩いて愛沙は駆け出す。
「痛ったぁ!」
駆けだした愛沙を追いかけるように楓も駆け出す。
その反応に愛沙は少し後ろを振り返って、満面の笑みを見せる。
「愛沙は、ま~ったく邪念のない観音様だけぇのぉ」
愛沙の後ろから大声でそう言いながら、追い続ける楓
「ちゃうだけぇ!それ言うんなら、大聖女さま~っ!じゃろーが。
拝んでもええよ」
愛沙のその言葉にニヤリと笑いながら楓が返す。
「また始まったわ、この異世界オタクがぁ~」
ひとしきり走った二人は、霞杜神社の鳥居の前でどちらからともなく並んで立ち止まると
「「アハハハ!」」と大声で笑った。
ここは二人の待ち合わせ場所であり、
昔からの遊び場所であり、
学校からの帰り道の分岐点。
左へ向かうと愛沙の家、右に曲がると楓の家となることからよくここで話し込むのだ。
「ほんで今は何か読みよーや?」
「うん。今はな……」
愛沙は携帯を取り出して、有名な小説投稿サイトを開く。
隣の楓と一緒に画面をのぞき込みながら、
「これと、これと、んでな……あー、これこれ!
これがまた毎日更新されとるけぇ、読むの追いつかんのんよ〜!
それとな……あっ、これ!楓も好きそうじゃけぇ、読んでみてみ?」
携帯の画面をスクロールさせながら、自然に楓へとお勧めしている。
「うち、そがな異世界もええけどな〜……
ミステリーもんの方が好きかも〜」
「え〜ってば!これな、主人公がぶっ飛んどって、
前世の知識とチートでバッサバッサ無双するんよ!
あこがれるじゃろ〜?これ、絶対好きになるって!」
愛沙の口調が早くなり、どんどん熱を帯びる。
「どう、どう。」
愛沙の頭に手を置いて宥めるように、楓が自然に髪に沿って手を滑らせていく。
「ほんま、読んでみりゃ分かるけぇ!
ぜぇっっったい世界観ひっくり返るけぇな〜!」
それでも興奮収まらず、熱く説明を重ねる愛沙だが、
「そりゃそーだがな、異世界もんじゃろ?
異世界なんじゃけぇ、こっちと同じ価値観なわけないがな〜?」
楓のもっともな突っ込みに
「あれ……? ……今の、ふつーのこと言うただけ……?」
興奮しすぎた愛沙は???と頭の中が『?』で一杯になる。
「てかさ、あんた……
誕生日きたら狩猟免許取るゆうて勉強しとるんじゃろ?そっちはどげなん?」
楓の振った話に我に返った愛沙はハッとする。
「いけん!」
声を上げると、愛沙は家に向かって走り出す。
「えっ。どしたんね?」
楓は走り出した愛沙の背に向かって声を掛けるが、
「じいちゃんの見回り始まるがぁ〜っ!!
急がんと間に合わんけぇっ!!」
大声で返事しながら『全力か?』と思える速さで遠ざかっていく。
「そぉなん。そう?」
楓は、呆気に取られて半ば独り言のようにつぶやきながら
「ほんなら、また明日な~」
消えかかるほど小さく遠ざかった愛沙へと声を掛けるが、おそらく聞こえていないだろう。
ここ第1話では、この話の中心になる二人が出てきました。愛沙と楓。方言がきついかもしれませんがまあ、その辺りは......ご勘弁を。
今後ともよろしくお付き合いください。




