第24話
アイサに家に入るように言ってから、源治は荷台の猪を下ろそうとあおり板を倒す。
倉庫からスロープ台を出し荷台に掛け、顔を上げると、視線の先にはアイサがいた。
(まだ、入っとらんのか)
源治は作業の手を止め、アイサを注視する。
(まじまじと家を眺めて..いったい何を見とるんじゃ?)
不思議に思った源治も家を改めて見てみるが、これと言って気になるところはない。
(ほんに朝から変なことばかりじゃな...)
朝の軽トラに乗り込むまでから、猟でのおかしな態度、罠については手も出さず、かと言って山歩きは一段と良くなっている。
(いったい、なんなんじゃろう?)
気にはなるが、作業も進めなくては終われない。
源治は仕方なく作業を進めた。
「ほら、食器棚からお皿を出して。 箸も出して持って行きんさい。」
台所で調理をしながら美和からアイサへ指示が飛ぶ。
「お皿って...どれ?(お皿を出せと言っても...。 箸って...どこ?)
美和の背後からコンロの上の料理を覗き込みながら聞く。
「目玉焼きだがな。だから...」
美和は振り返って食器棚の皿を示して、
「あのお皿がええわ。」
「..あのお皿ね?」
美和が示したお皿を確認し食器棚からとりだしてコンロの側に持って行く。
「..お箸は?」
「水切り籠になけりゃ、引き出しの中だがな。」
答えながら、美和は水切り篭を見てそこにあることを確認する。
「ほれ、あるがん。」
そう言いながらフライパンに水を注ぐ。
一気に湯気が立ち上がり、美和はふたを被せる。
(じいちゃん、ばあちゃん、母さん、私...あ、お父さん。)
アイサは食卓に着くであろう人数を数えながら箸を数える。
(これで、いいのよね? ...10本...5膳あるし。)
アイサは箸を手に取り食卓へ向かうと各席に
(たしか...こう並べてたわね。)
昨日の楓の家での配膳を思い出しながら、一善ずつ箸を並べていく。
「愛沙、それはじいさんの箸だがな。わたしのは、こっちのやつだで。」
箸の配膳を間違えたようで、ばあちゃんから指摘が入る。
「...じいちゃんは..こっち?」
「そこは誠一の席だがね。じいさんは、そっちの端っこだが。」
「...ああ。そうだった...ね?」
アイサは、ばあちゃんから一つ一つ聞きながらようやく箸の配膳を終えた。
「どしただぁ?
...箸をそげに間違えて。なんか考え事しとるだか?」
ばあちゃんの心配する声がアイサには痛い。
「愛沙、終わったら次これ持って行きんさい。」
美和が焼き終わった目玉焼きを、ひとつずつ皿に乗せながらアイサに言う。
「はい。」
箸を並べ終え、即座に台所に取って返す。
ガラララッ
玄関の扉が開く音がして、源治が家に入ってくる。
「お義父さん、お疲れさんです。もうすぐ用意できるけぇ。」
美和は玄関から入ってくる源治に気付き声を掛ける。
「あぁ、美和さん。ちょっと着替えるでな。..誠一は起きとるか?」
「はい。起きてました。」
美和は源治にそう返すと、アイサへ向かって
「お父さんに“朝ご飯できたで”って呼んできんさい。」
「...お父さん?」
母娘のやり取りを聞いていた源治は、戸惑う表情のアイサをみて、そっと指し示す。
「......あっちだろ」
全員が食卓に着くと、食事が始まる。
アイサはいち早く手を合わせて待つ。
しかし、それぞれが「いただきます。」と呟くように言って食べ始める。
その様子にアイサは思わず手を合わせたまま順に皆の顔を見回した。
その視線に気づいたのか美和が怪訝そうな顔で
「ん?……どしたん?」
「...えっ。(楓の家じゃ皆で頂きますって...)何でもない。」
アイサは少し引き攣った笑顔を美和に返すと
「いただきます」
と呟いて食事を始めた。
『視線を感じる。』
源治と美和が時折送る視線に気づいていたアイサは、内心穏やかではなかった。




