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ふたりの世界が触れる場所 ―世界の違うふたり、そのあいだに立つ少女―  作者: SHIRUSHI08


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20/25

第20話

コンコン

楓の部屋のドアがノックされる。あわせて美佐子の呼び声

「愛沙ちゃん、おじいさん来とるでぇ。」

その声にアイサはもちろん、楓も思わずハッとして顔を見合わせる。

「こんな早よから?」

首を傾げながらこぼす楓の言葉にアイサは、不安気に返す。

「何かあったんでしょうか? こちらではそういうものなんですか?」

もし、ここの世界にそう言った習慣なりがあるのなら、

楓が何かしら事前に教えてくれているはず。

だからこそ“おかしい”と感じた。

愛沙の家も、楓の家も過保護ではない。

お互いの家に泊まることなど日常茶飯事とまではいかないもののよくあること。

いまさら、楓のところに泊まると言って、心配されるなどということは皆無に近い。

そしてそれは楓にとっても同じこと。

だからこんなに早く迎えに来るとは...楓も見当がつかない。


「…じいちゃん、でええんだよね?」

アイサが楓に小声で確認した瞬間、バッと扉が開く。

「返事もせんけぇ、寝とるんか思うたが。」

入り口に立った美佐子は、座り込んでいる二人を見て小言を一つ。

「返事くらいせんねぇ。」


「ごめんて。ちょっと話し込んどっただけだが。」

楓が返事をしなかったことを謝りながら、

「愛沙のじいちゃん来とんやろ?」

と聞いてたよアピールをする。

「だで、愛沙ちゃん。おじいさん玄関で待っとらいや。はよ行ってあげんと。」

「うん。ありがとう、おばちゃん。」

アイサは元気な声でそう答える。

それが愛沙の返事だと、楓が何度も何度も言っていたから。

「着替えて、すぐ行きます。」

立ち上がりながら楓と目を合わせると楓は黙って『うん。』と頷きながらも

「じいちゃん、なんの用だがなぁ。」


玄関に降りてみると、外の空気がまだ十分冷たいことが分かる。

源治は玄関に立っており、扉は閉まっているが、しばらく開けていたのだろう。

階段を降りて来るアイサを認めると源治は

「おう。」

と軽く手を上げた。

「え..と。じいちゃん?」

と、アイサは探るように声を出すと、幸い源治には『なんか急ぎ?』とでも聞こえたのだろう。

「終わっただか? その…クラブの話しとったやつ。」

源治は理由を話す前にそう聞き、

「山手の方の罠にかかったんだが、行くか?」

と顎で外を示す。

「..山手?..」

どう答えたものか迷っていると、後ろから楓が降りて来る。

「あ、じいちゃん。お早うございます。」

そして続けて

「山手の罠にかかったんですか?今度も猪ですか?」

とニコニコしながら尋ねる。


「あー。おはよう楓ちゃん。朝早よからすまんな。」

源治も笑顔で返し、

「また猪じゃ。肉はなんぼあっても困らんだらぁ? また愛沙に持たせるけぇな。」

「ありがとう、じいちゃん。頑張って食べるよ。おいしいもんね。」

と言いながら『上がったら?』と手でリビングを示す。

「あー、ありがとな。アイサが行かん言うたら、わし一人で行くしな。」

と愛沙の返事次第ではこのまま猟にいくからと、楓のお誘いに首を横に振り、

アイサに向き直ると、

「こないだのこともあるけぇ誘いに来た。どうするだ?」


(おそらく、猟のことを言ってるんだろうけれど...)

アイサとしてもどう答えてよいか判断できなかった。

楓は源治に気付かれぬよう源治の視界の外から愛沙に頷く。

(...行くしかないよ。)


「はい。行きます。」

そう言って服装を確認する。

「大丈夫?」

つい楓に聞いてしまう。

「え?…大丈夫だが?」

と返しながら、源治を見る。

すると、源治は

「ヤッケ持って来とるけぇ、それ着てけ。」

と言うと、扉に手をかけて

「外おるけぇな。美佐子さん、邪魔したでぇ。」

と奥に声を掛けると、外へ出た。

楓はため息をつきながら

「あんたの荷物、私が家に持って行っとくけぇ。」

と言って『はよ行かんと。』と手で追い出す。


アイサは不安げな表情を楓に向けつつ靴を履き、外へ出ようとしたところで楓に止められる。

「こういう時は『おばちゃん、また来ます』って言うんだが。」

「おばちゃーん、また来るね!」

と、キッチンからの返事が帰って来る前に元気に出て行った。


(え~っと)

外に出たアイサは、見慣れぬ“軽トラ”に目を奪われた。

(...何これ? ...)

低く唸っているような音

中には源治が座っている。

じいちゃんが軽トラの中から『来い。』と手招きされ、恐る恐る近づく。

近づいたもののどうすればいいのかわからないアイサは、

軽トラを外からぐるりと一回り、キョロキョロと目を動かしながら観察する。

源治は車内から孫娘の奇妙な行動を見てと首を傾げる。

(なんしよるだ?)


玄関から顔を出した楓は、アイサが軽トラを観察しているのを目撃し頭を抱える。

(そうやった。...車知らんのや..)

源治は、出てきた楓に『あれ、何しとるんだ?』という目を向ける。


楓は仕方なく叫ぶ。

「アイサ! はよ乗らんと! じいちゃん待っとるで!」

アイサは振り返ると、軽トラを指しながら何か言いたげ。


そうこうするうち、源治が運転席から手を伸ばして助手席側の扉を開け、

「はよ乗れ。」と呼ぶ。

ようやく理解できたのか、アイサが助手席に乗り込むと、

やってきた楓が愛沙にそっと耳打ちする。

「降りる時はここ引くんだで。そしたら開くけぇ。」

「じゃあ気ぃつけてな!」

と二人に元気よく声を掛けると扉を閉めた。

「ほんなら出すで。」

源治は軽トラを出発させた。



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