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ふたりの世界が触れる場所 ―世界の違うふたり、そのあいだに立つ少女―  作者: SHIRUSHI08


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18/25

第18話

アイサが改まった表情で楓の目の前に座る。

「...ところで、楓。」

アイサからこれまで以上に真剣なまなざしで見つめられ、楓は何事かと身構える。

楓が愛沙に向き直ったところで愛沙は切り出す。

「約束なので、断っておきたいのだが...」

「え...約束? なんのことだが?」

楓は心当たりを探したが思い出せない。

楓のキョトンとした表情に少し気抜けのするアイサではあったが構わず続ける。

「...術式の話だ。」

楓は、アイサの言葉に一瞬ドキッとする。

しかし約束と言うよりは、封印という楓としては強い言葉を選んだはず。

「術式の封印のこと、だが?」

楓はアイサに確認する。

「そう。その術式の封印の件だ。」

アイサはその通りと首肯しながら応える。

真剣な話になったためか、愛沙の口調が戻っている。が、そこは仕方がないと割り切る楓。

そこには触れないようにし、話を続けるよう促す。

「元の世界に戻れた時に、訓練不足では困るので訓練を続けたいのだ。それに...」

「え、 ...戻る方法見つかったん!?」

『戻る』という単語を聞き、思わず楓は声を荒げアイサの肩を掴む。


「いや、あくまでも可能性の話だ。」

アイサは肩を掴まれたまま特に抵抗することもなく返答する。

「ごめん..つい、なってしもうて」

楓はアイサの返事を聞くと少し落ち着いたが、

同時に彼女の肩を強く掴んでいることに気付き手を放す。


「大丈夫。気にしないで」

アイサはそう言うと更に話を続ける。

「ただ、術式を使うにあたってこの身体が少々弱いかもしれない。」

「...弱い? 弱いって、どういうことなん?」

楓が疑問を口にする。

「術式への耐性が、この身体では低い...」

アイサはそう言い直す。

「耐性が低い...。」

楓はアイサの言葉を反芻するようにつぶやく。


アイサは楓の言葉を質問だと解釈し続ける。

「そう。実は昨日、術式を行った時、体内で術式の流れが詰まるような感覚があった。」


「流れが詰まる?体ん中で、ってこと?」

(流れる?...詰まる。血管みたいな?それとも『気』というような...)

どう理解すればよいのか楓は迷う。


「昨日くらいのものだと、あれ?って思うくらいで発動自体に影響はない。」

アイサは楓の反応を見ながら、何を感じたのかを正確に伝えようと続けて言う。

「ただ、大きい術式になると抵抗も大きくなる予感がする。」

アイサの正直な感想である。

しっかり理解をし、考えないといけないと認識した楓は大前提から再確認に入る。

「その前に整理させて、術式は魔法って理解でいいのよね?」

「その理解でいいはず。ただ、細かいニュアンスの違いはあるかもしれない。」

アイサの回答は昨日とほぼ変わっておらず、

ニュアンスの差を多少気にしている様子。


「次に、詰まるということは何かが動いているのよね?体ん中を。」

楓はそう言って頭に浮かんだイメージに顔を顰める。

「そう言う理解で間違いではない。」

アイサは一息ずつ置きながらも、しっかりと記憶を確認しながら丁寧に答える。

「では、それはずばり何?」

楓は理解の助けになればと切り込む。。

「エルバ..こちらでは気?」

「気かぁ(そもそも“気”ってなに?‥あ!でも気の流れとか、気を放出するとか言うねぇ)」

楓は以前部員でわいわいと話した中にそんな話題もあったなぁと思い出す。

(あー、何か武術の達人とかそんな人が良く言う

目に見えないエネルギーみたいなやつね?)

と自分の中で勝手な定義が出来上がる。

「その...エルバ?の放出の時に引っかかり程度の詰まりがあった...と。」

「そうだな。」

この肯定をもって解ってもらえたかと安堵するアイサとは裏腹に、

楓はエネルギーが詰まるってどんなイメージ?血栓とか?と理解に苦しみ

「(もう正解がわからない。)未知のものを理解するって無理かもね。」

とひとりごちた。

ふたりにしばらく沈黙の時間が流れる。


ただ、今はエルバが“気”だとか、エネルギーだとか、

そうだとしても伝播の仕組みなどの仮説はどうでもいい。

それよりも重要なこと...

「問題は、無理をした時に愛沙の体がどうなるかだよね。」

楓の中で最悪のイメージが浮かび、自然と重い口調になる。

アイサにも楓の懸念が十分すぎるほどに伝わる。

「そのとおりだ。」

「だとすれば、愛沙の体に害が及ぶようなことは絶対にさせられない。」

楓はきっぱりと宣言する。

(わかっている。)

アイサは、そんな楓に力強く頷いて見せる。

しかし、アイサは楓の目を正面から見据えて続けた。

「ただ...もう一つ懸念がある。いや、こちらの方が重要かもしれない。」

アイサの口調は重い。

「私の本体...アルスレンドルにある身体が、

どうもエルバの負荷に耐え切れず“溢れかけている”のを感じるんだ。」

アイサの言ったことの詳しくは分からない。

それでも重大なことというのは理解できる。

たまらず楓は聞き返し、説明を求める。

「(アイシャの本当の身体に負荷?)...それはどういうこと?わかりやすく。」


「確信は...残念ながら、ない。

...だが、実感として、アルスレンドルにある私の身体との繋がりを感じていて...」

アイサは言葉にする難しさにあえぐ。

そんな言い淀むアイサの手を取ると、楓は続けるよう促す。

そして何とか言葉を紡いでゆくアイサ。

「あちらの身体にエルバが溜まる一方で、発動ができないようだ。」

(エルバが発動できないとどうなるの?)

楓はアイサの言わんとすることの意味が理解できない。

「...それは、何を意味するの?」

楓は続きを促す。

「あちらの私が術式を発動できれば、問題がない。

けれど、どうもうまくできていない。」

「アルスレンドルのあなた?それはつまり...」

楓はそこまで言って口ごもる。

「おそらくは、愛沙殿...ただ、確信はない。わたしは彼女を知らない。」

(彼女は私を知っているようだが...)

この言葉をアイサは言えなかった。

「......(愛沙が...)」

楓は無言で愛沙を見つめる。

それでも愛沙は大切な話を続けなければいけなかった。

「アルスレンドルの身体の余剰となったエルバがこの身体に流れ込んでいる。」

ようやく楓の理解が追い付く。

「アルスレンドルからこっちの世界へ? ...

じゃあ、両方の身体にエルバが満たされたら...。」

「こう言ったケースがないのでわからないが、いい結果にはならないと思う。」

エルバは満たされた器からただ溢れるだけなのか?

それとも...



楓の脳裏に浮かぶ愛沙の表情が苦悶に歪む。

アイサの言うように、アイシャの魂があちらからこちらに来たのだとしたら...

愛沙の魂は、この世界の身体からはじき出され、アルスレンドルのアイシャの体に...

そうあっても不思議じゃない。

不思議じゃないというよりそうであってほしい。

はじき出されて彷徨ってるとか、

消えたとかは...考えたくない。

仮に、アイサの言うことが正しいとすれば...愛沙はアルスレンドルにいる。

アイサの言うことが間違っていれば...どこかの次元を彷徨っている?

楓は、答えを求めるようにアイサに聞く。

「...アイサ教えて...愛沙は、 ...愛沙は、アイシャの体に居るの?」

楓の心の悲痛な叫びは声にも表れる。

「申し訳ないが、私にはわからないんだ!

私からはアルスレンドルが朧げにしか見えない。...少し...わずかにしか感じないんだ。」

アイサは吐き出すように言うと、苦しげな表情を見せた。

楓は息を呑んだまま、アイサの次の言葉を待つしかなかった。


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