↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりの世界が触れる場所 ―世界の違うふたり、そのあいだに立つ少女―  作者: SHIRUSHI08


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/25

第15話

打てるだけの手は打った。

楓は肩で息をしながらアイサの前に立ち尽くす。

アイサは目を閉じてぶつぶつ言いながら、時々首傾げ、またぶつぶつ言いだしの繰り返し。

楓は(うちの母ちゃんは、最大最強の壁)をスローガンにアイサに傾向と対策を伝授した。

変化球さえ来んかったら対応は万全。...のはず。

考えられる話題についての基礎知識は詰め込んだ。

だから、...あとはアイサ、あんた次第だ。

アイサにとって最大の弱点は方言。これだけは付け焼刃じゃ誤魔化しきれん。

「うち(私)も、うちの家も、だいぶ言葉きついけぇなぁ..」

楓が美佐子の普段の言動を思い返しながらつぶやく。

(もう、運を天に任せるしかないわ..)

天井を見上げながらそう思った。すると腹がぐぅと鳴る。

「なんか腹減ってきたわ。アイサは大丈夫なん?」

楓は自分のお腹に手をやりながらアイサに聞く。

「多分空いてるんだろうけれど...今は実感がない。

まだこれからなんだろう?」

アイサはこれからのことを思い気が気ではない。

運を天に任せるしかない楓と、

あとはあなた次第と託されたアイサの温度差なのかもしれない。

「もう、やれることはやったけぇ、あとは母ちゃんの勢いに飲まれんこと。

できるだけフォローはするけぇな。」

楓はそう告げた。


いつもなら、お腹が空けばサッサと下に降りて、

料理や、配膳を少しでも手伝い早く食事にありつこうとするのだが、

今日は少しでもかあちゃんとかかわる時間を短くしておきたい。

そう考える楓は、母には悪いなぁと思いながらも、お呼びがかかるまで自室に二人で籠った。


「かえでー、あいさちゃんご飯できたでー! 降りておいでー!」

待ちに待った時間ではあるが、

緊張の強いられる時間でもある食事時間の始まりである。

「ほな、行こか?」

楓が愛沙に呼び掛ける。

「うん。」

アイサの軽快な返事に、二人は軽くハイタッチして勢いよく扉を開ける。

「今行くでー!」

楓は元気に答えると、アイサの手を引いて階下に向かった。


アイサの家では4人用テーブルで食卓を囲む。

「アイサ?今日はこっち座りんさい。」

(愛沙はいつも母ちゃんの正面。今日はそれは危険すぎる。)

正面で向かい合うと緊張もするらしいと何かの本で読んだ記憶を参考にして...

カウンセリングだったっけ?

「うん。今日はこっちだね。」

アイサは意図して笑みを浮かべると用意された席につく。

大皿、小鉢、ご飯にみそ汁、

最後にメインの猪肉が乗った皿がそれぞれの前に配膳されていく。

楓は配膳の手伝いをしながら、配膳が終わりそうになったところでリビングの父に声を掛ける。

「父ちゃん。ご飯できたでぇ」

「おぉ、今行くわ。」

楓が呼び掛けると、隆はリビングで起き上がると、服装を直しながら食卓に向かう。

「あぁ、愛沙ちゃん。いらっしゃい。元気そうじゃなぁ。」

隆は席に着くアイサに気付き、声を掛ける。

「はい。お邪魔してます。」

アイサは隆に向かってにっこり笑顔を浮かべる。

「うん。ゆっくりしていきんさい。」

隆は、食卓に並んだ料理に視線を落とすと

「お!香ばしい匂いは..これかぁ。美佐子!これ愛沙ちゃんからのやつか?」

母ちゃんは流しで簡単な洗い物をすませると、エプロンを外して畳みながら食卓に向かう。

美佐子は席に着いているアイサに目を向けたあと呆れた様に隆に言う。

「あんた、また聞いとらんかったん?」

『ねぇ?』

アイサに向かって“悪いわね”という表情をした後、

「ちゃんと愛沙ちゃんにお礼言っといてよ。」

と隆に念を押す。

ばつの悪い表情を浮かべながらも、隆は

「いつもありがとな。ほんに美味しゅう頂いとるで。」

と言ってからアイサの正面の席についた。


「ほんなら、いただこか。」

皆が席に着いて所で一同を見回した父、隆が手を合わす。

それに合わせるように美佐子と楓が手を合わせるが、アイサがワンテンポ遅れる。

隆はそれに気づいてアイサが手を合わせるのを待ち、声を出す。

「いただきます。」

「「「いただきまーす。」」」


食事が始まって、

コンコン!テーブルの下で楓の肘をアイサが突っつく。

楓がそれに気付いてアイサを見れば、

おとなしく座ったまま、その視線をテーブルの上に置かれた箸に固定している。

(あー、箸のこと忘れとった!!)

即座に察した楓は、急いで自分の箸をテーブルの下でゆっくりと握ると、

持ち方の手本を示す。アイサもそれに合わせて箸を持ち直す。

(こう持って..こう動かせば..物がつかめるけぇ)

楓は握った箸の先を開いたり閉じたりしてアイサに見せる。

しかし、箸の握り方や動かし方が繊細過ぎるため、

アイサは不自然にのぞき込むような姿勢になる。


(何やっとるんかしら?)

その二人の様子が美佐子の目に留まる。

ごそごそと何やらテーブルの下を覗き込むように、何かをしている二人が気になる。

とうとう、訝る美佐子が二人に声を掛ける。

「あんたら、テーブルの下で何をごそごそやっとるん?」


「...あ!別に...ちょっと...ねぇ?」

美佐子の声に、楓の身体がわずかにビクンと弾み、少し慌てながらも同意を求める様にアイサに振り向く。

「う。..うん」

アイサも動揺するが何となく焦った気持ちを隠しきれていない。

「行儀の悪いことしとかんと、はよう食べてしまいや。冷めたらおいしくないで」


「はい。」

楓が二人を代表して答える。

その横でアイサも声にはならなかったが、『はい。』と答えて頷くも、テーブルの下で箸を持ち直し動かす動作を繰り返していた。

「おかしな子やなぁ。」

美佐子は、もう一度見えるはずのないテーブルの下へテーブル越しに視線を向けた。

楓は意を決する。

「母ちゃん! アイサ、今日弦で指しびれとるんよ。箸しんどそうじゃけぇ、ナイフとフォークにしてやってくれん?」

「あら、そうなん? 愛沙ちゃんも自分で言いいなさいよ。」

美佐子はアイサへひとこと言ってから、

キッチンへナイフとフォークを取りに行くために腰を上げる。

「で、指は大丈夫なんね?」

立ち上がったところでアイサへ気遣う言葉もかけながら。


「愛沙ちゃんも遠慮せんではよ言わな。」

キッチンから戻るとアイサにフォークとナイフを手渡しながら言う。

「すみません。」

アイサは(助かったぁ)と楓に顔を向けると、すぐさま美佐子に振り返って頭を下げる。


食事が始まってしばらくは、


「ちゃんと火が通ってる?」

「おいしいね!」

「これは?」


と、父ちゃんが母ちゃんにあれこれ聞きながら、何事もなく過ぎていった。


――やがて、それはやってくる。


『母ちゃんの時間』として。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。