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ふたりの世界が触れる場所 ―世界の違うふたり、そのあいだに立つ少女―  作者: SHIRUSHI08


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第14話

アイサ(アイシャ)との帰り道。

「ありがとう。 ...楓」

アイシャと楓は、二人で自転車を押しながら楓の家へと歩く。

「ん?..何が?」

楓としてはいろいろあった1日ではある。

その上で、ある意味楓は高揚感に似た感覚を味わっている。

(だってこんな経験そうそうないじゃろ。)

楓の高揚感とは対照的に、アイサは複雑な思いで居た。

「......いや、私の様な誰とも分からん者に、親切にしてくれて」

(あぁ..そう言えば)

楓はアイサの言葉に感謝とともに寂しさがにじんでいるのを感じる。

横を歩くアイサの横顔を一刻見つめると、また正面に向き直り、ハハハと笑いながら

「それはお互いさまだが。

あんたも目ぇ覚ましたら、いきなり知らん顔が覗き込んどっただけぇ、そりゃビビるだら。」

と、そのシーンを再現するかのように『うん?』とアイサの顔を間近に覗き込む。

急な接近に思わず仰け反るアイサだが、その顔は笑っていた。

「そりゃ~ね。 誰...こいつ!って思った。」 

言い終えて、どう?って表情に切り替わると、楓から力強くサムズアップが返ってくる。

そう。

これもある意味会話の訓練の一部ではあるが、アイサも極めて自然体。

「...あんた、ほんに大変だっただけぇなぁ。

いきなり知らん世界に放り込まれて、

うちはうちで勝手に詰め込んで...... ほんま、ごめん。」

楓は正直な気持ちを隠さず口にする。

「いいや。感謝している。

今は、ただただ、こんな世界もあるんだと驚いてはいるが。」

「それはうちも一緒よ。 愛沙――あ、アイサじゃない方の愛沙な。

あの子、そういう世界の話めっちゃ好きなんよ。」

楓はそこで一旦言葉を切ると、空を仰ぎ見て

「うちは興味なかっただけぇ。 ...うん、こげな話はずっと“本の中の話”やと思っとった。

でも......あるんじゃな、ほんまに。」

そう言うとアイサに向き直る。

「...そう。 私もこんな世界が...

別の世界があるなんて思いもしなかった。」

アイサは正面を向いて自転車を押しながら応える。

心なしかアイシャの頬に光るものが見えた気がした。

「愛沙は、ほんまに強い子だけぇ。

どんな場所でも、きっと元気にやっとる。

うちは...それだけは信じとるだけぇ。」

「...愛沙...。うん。わたしも...そうあらねばならんな。」

アイサはそう感じ、静かに口にした。


「ほんなら、もう一回やってみよっか。」気分を切り替え、明るく振る舞う楓

「そうやね。」

アイサもぎこちない口調ながら笑顔で応える。

「ええか? 絶対、母ちゃんが玄関まで出てくるだけぇな。

そん時は――『おばちゃん! お世話になります』やで。」

「おばちゃん! おせわになります。」

軽快に言葉を発するアイサ。頷く楓。 

帰り道にみっちりシミュレーションを繰り返す二人


やがて、神社の前に差し掛かる。

いつもはここで「じゃあね」となるのだが、今日は二人一緒に右への道。


「この神社な、私と愛沙の待ち合わせ場所で、遊び場所。」

楓の示した先の神社に、ふと目を向けたアイサは、トクンと胸が跳ねるのを感じる。

「...あ、ここ。」

初めてのはずなのに、なぜか懐かしさを覚える説明のつかない感情が一瞬ですり抜けていった。

「どうかした?」

楓は、アイサが神社に目を向けて動かないのを心配し声を掛ける。

「うん。 ...どこかで見たような懐かしい感じがしてね。」

「あなたの居た世界に似た場所が?」

その問いにアイサは首を傾げて右の足元に視線を落としつつ、

「ないわ。...気のせいだと思う。」

気のせいだと自分に言い聞かせ、楓に笑顔を返す。

「そげ? ならええが。」

楓はアイサの微妙な笑みに気付きながらも笑顔で返す。

そのうちに見えてきた自分の家を指さしながらアイサに紹介した。

「あ、あれがうちだけぇ。」

「ほんでな。愛沙...アイサの家はその道の先なんよ。」

楓は神社の脇を左に延びる道を指して示す。

「また明日教えるけぇ。」

アイサは楓の指し示す先を見つめながら楓にも聞こえないほどの声で呟く。

「...家...か。」


「ただいまー。」

玄関の戸を開けると、楓は家の中へ向かって元気よく声を掛ける。

すると、案の定家の中から返事が返ってくる。


「あー、楓。やっと帰ってきたかいね。

愛沙ちゃん、いらっしゃい! よう来たねぇ。」

前掛けで手を拭きながら、それでも素早い動きで玄関の方へやってくる

『かあちゃん。』 楓の後に続いて入ってきたアイサを見つけると満面の笑みで話しかける。


一瞬動きの止まったアイサではあったが、思わず直立不動になると、練習通り

「おばちゃん、おせわになります!」

とスムースに挨拶できたのだが、

『もう。』

楓は、アイサの直立不動を見ながら軽くため息を吐く。

『固まるなぁー!』

心の中でダメ出ししつつも、楓は母ちゃんに背を向ける形で靴を並べながら助け舟を出す。

「どうしたん? ぼーっとしとらんで、はよ靴脱いで上がりんさい。」


「よー来たねぇ。 特にリクエストないみたいじゃったけぇ、もろうたやつで悪いけど……

朝の猪肉でええよね?」

「あっ!..はい。」

少々ぎこちないアイサの返事が玄関に響く。


その返事にうんうんと頷きながら、

「助かるわぁ。」

と口にし、くるりと向きを変えると、足早に台所へと向かう

「ほんなら、ちょっと用意するけぇ、あんたらゆっくりしときんさい。」

楓とアイサは黙って楓の母美佐子の後姿を見送る。

「こっちこっち」

母ちゃんから死角になる一瞬の隙に、トイレと風呂場の位置をアイサに確認してもらう。

「ええ?」

場所は確認できたとアイサの頷くさまを確認すると、

「じゃあ、母ちゃん。うちら、うちの部屋おるけぇ。」

楓は台所に向かって一声かけるとアイサの手を引いてサッサと階段を上がっていく。

「手伝ってくれてもええんだで〜。」

母ちゃんの声はむなしく響き、扉のバタン!と閉まる音が聞こえた。

「もう。」


『フー』

楓の部屋に入って緊張が解けたのか、アイサは後ろ手で締めた扉にもたれかかると深く息を吐く。

「やばかった~。」

楓もそんなアイサと目を合わせながら笑みを浮かべて安堵の吐息。

「あ~。緊張した。」

楓とアイサは、何とか第1関門を通過できたことに喜んだ。


すこし落ち着いたところでアイサは部屋の中を見回す。

白い壁紙をベースにした四角い部屋には正面に少し大きな窓が一つ。

右側の壁にはベッドが据えられその足元には衣装ケースが並ぶ。

反対側には机と本棚とタンス。

本棚には少なめの参考書と弓道の雑誌が並び、それにファッション雑誌が混じる。

「そがぁじろじろ見んでもええけぇ。」

楓は少々恥ずかしそうに言うが、愛沙なら何度もこの部屋に来ているし泊まることもしばしば。

「あ……つい……。」

初めて目にするものがたくさんの部屋につい見入ってしまったアイサはうつ向く。

「あー、全然ええんだけどな……その……」

『違う違う、そがな意味じゃないけぇ』

楓は『違う』とばかりに手をパタパタと振る。

「うん...ごめん。」

「ええって。気にせんで、好きなだけ見てええけぇ。」

(そがぁな……愛沙なんだし。)

楓はそう思うようにした。

「あ!愛沙用の布団もって来んなな!」

と大事なことを思い出した楓はパチンと一つ手を叩いた。


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