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ふたりの世界が触れる場所 ―世界の違うふたり、そのあいだに立つ少女―  作者: SHIRUSHI08


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13/25

第13話

『今日は、楓んとこに泊まろうと思うけどいい?』

と、楓は練習でアイサに打たせた文書を少し手直しして一文を完成させた。

「こんな感じでええと思う。」

なんせ

『母には、急な要件にて書面で……』

って書き始めるからなんの冗談かと思ったけど、

それだけ文化の違いがあるってこと痛感した。

話し言葉じゃないとおかしいって。

「打つのも、慣れ。

とにかく数をこなさんと上手くならんだけぇ。」

まだまだぎこちない入力。それ自体は仕方ない。

なんだけど、ゼロからにしては上達が早い。

言葉の修正もそうだけど覚えが早いし、理解がいい。素晴らしい適応力。

さすがアイサ....愛沙?

「じゃあ、送っちゃおうか。」

「うん。...送る。」(ちょっとその口調、引っ掛かりましたが...)

抑揚のない単調な返しに、らしくないと反応した楓。

(操作でいっぱいいっぱい……か。)

チラッと時計を横目で確認。

(自転車の練習は...)

……パス。押して帰れば自然だよね。

となれば、次はうちの泊り対策。

と、楓は肝心の自分の家に連絡を入れていないことを思い出す。

「あ~いけんわ。うちもアイサを家に泊めること連絡しとかな。 ……やばっ。」

「ん?楓の御両親にも、私から連絡を?」

携帯を操作しながら、手をちがう、ちがうと振る。

「私が自分でだよ。電話の方が早いから聞いといて。

大体愛沙もこんな感じでうちの親と話すから。」

携帯をスピーカーにして、アイサにも聞こえるようにして電話する。

プルルルル……プルルルル……

『はいはい。もしもし?楓か?どうしただが?』

いつも通りの母の声がスピーカーから流れる。

アイサは楓のアドバイスを受けて、やり取りを聞き逃すまいと

スピーカーからの音声と楓のやり取りに意識を集中する。

「うん。お母ちゃん。急で悪いんだけど、

アイサと部のこととか詰めたいけぇ、今日泊まらせてもええ?」

『そりゃぁ、うちは一向に構わんよ。

愛沙ちゃんとこがええいうんならねぇ。

で何時頃帰って来るね?』

「あー、それは大丈夫。アイサも家に連絡しとる。

帰るのは5時前くらいかな?もうちょっとこっち片づけてから帰るけぇ。」

『わかったわかった。

今日の晩御飯、愛沙ちゃんからもろうた猪肉にしようか思っとったけど、

変えたほうがええかいねぇ?

ちょっとアイサちゃんに代わってえなぁ、なんか食べたいもんあるか聞きたいで。』

「代わるのか?」

アイサは自身を指さし、楓を見る。

(いけん、いけん!)

楓は大きく首を横に振る。

「……え~と、アイサは今、向こうで別の片づけしとるけぇ、あとで聞いとくわ。

でも猪肉でええと思うよ。アイサ肉好きだで。ハハ……。」

楓の額に汗がつたう。

(ヤッバ……代われるかって。)

『そうかいな?愛沙ちゃんのリクエスト、

あったらちゃんと教えてや。早目に言うてごしないよ。』

「わかった、わかった。

ほんなら、うちも片づけ手伝わないけんだけぇ、切るで。」

『はいはい。遅うならんうちに帰っておいでや』

「うん。そうする。じゃあ、ありがと」

ガチャッ


「ふぅー。」

電話を切って大きなため息とともに、

一気に疲れを感じた楓は力なく椅子に座りこむ。

「ごっつう疲れたぁ」

「私も電話で楓の母上に、挨拶すべきだったのでは?」

アイサは、そんな楓の様子を気遣うように、楓に真剣なまなざしで聞いてくる。

「絶対むり! 今のままうちの母ちゃんに話したらそれこそ『誰ね?』って言われる。」

楓の中ではそれは当然の結果、それほどまでに深い家族ぐるみなのだ。

それだけにうちの家族に怪しまれなければ、愛沙の家族も....

(無理ゲーな気がして来たわ。)

それでもやってみて…駄目だったら...

(腹をくくるしかない。)

「よっし!」

今日何度目の気合だろう?楓はアイサに訴える。

「アイサ。ほんっとーに、気合入れて覚えてな。

これからうちの家族のこと教えるけぇ。」

アイサも楓のスパルタは携帯の授業?で既に体験済みなのだが、

新しく家族講座が始まると知ると軽くめまいを覚えた。

「うん。‥しっかり覚える。」

「ここ間違えたら、一発でバレるで。家族ぐるみ半端ないけぇ。」

楓の気迫に押されるようにアイサは背筋をピンと伸ばして強く頷く。

そんなアイサに椅子を引き寄せるように更に近づくと、若干身を乗り出し、

「まずは母ちゃんな。

さっきの電話のとおりな感じで間違いないけぇ。

うちの家族で、愛沙と一番よーけ話しとるし、よう見とる。

勘もええけぇ一番手ごわい。」

「だから、母ちゃんに『あれ?』とか思われたら、即アウトやけぇ。

対応間違えように。...ええね?」

最後の『ええね』に力を込めて言い終えた楓は確認するように頷く。

それにつられるようにアイサも頷いた。

「で、母上の....」

チッチッと、楓はアイサの言葉に一本だけ立てた人差し指を振って見せる。

「それはいけんで。...母上は言わんね。

呼び方は『おばちゃん。』ほら、言うてみ?」

「あっ……すまな……」

アイサの言い間違いに、再び楓の人差し指が揺れる。

「すまんとか、すまないも言わんけぇ。言うなら『ごめん』やな。」

「ごめん。....おばちゃん。」

これでいいか?とアイサは楓の顔を覗き込む。

が、楓にはちょっと固く聞こえた。

「ちょっと固いかなぁ?もっと楽に言っていいんだよ。」

と、自身の肩を大げさにゆっさゆっさと揺さぶり、

アイサにリラックスするようにジェスチャーで伝える。


アイサは肩の力を抜いて、意識的に少し脱力してから表情に笑顔を交えて発した。

「ごめん。おばちゃん」

言い終えたアイサの伺うような表情に楓はしばらく声が出せなかった。

「.........愛沙だわ.........愛沙だった....」




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