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ふたりの世界が触れる場所 ―世界の違うふたり、そのあいだに立つ少女―  作者: SHIRUSHI08


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第11話

楓は表情を引き締め、アイシャの目を見据える。

次の話題は笑って済ませられない。

だから、しっかりと伝えるために、特にゆっくりと話す。

「これから話すのは、大切なこと。」

楓はここで、アイシャに大切さを理解してもらえるようにあえて一息おく。

「この世界には、魔獣はいないよ。」

「えっ!」

アイシャの目が大きく開かれる。

アイシャの世界では魔獣とは一般的とでも言っていい程の存在。

それがここにはいない。

「それとね、ネル……

多分うちらの言葉じゃ魔法の方がニュアンス近いと思うんじゃけど、

それもこの世界には存在せんのよ。」

さらに大きく見開かれるアイシャの目。

「魔獣がいない……それは良い……しかし、ネルグもないだと……」

アイシャの驚きが声に出る。

(では、この世界は……)

……この世界は、アイシャの知る場所とは違う。

けれど、困惑するアイシャに構うことなく楓の言葉が続く。

「そう。 なので、覚えていて欲しいんじゃけど……

さっき見せてくれた“焔”とか“水球”じゃったっけ?

あれって、この世界の人間は使えん。」

アイシャはしばらく黙り、考え込んだ。

(ではこの世界は、どうやって……生活を?)

「……この世界の人の暮らしは不自由ではないのか?」

ネルグは、アイシャにとっては日常のあたりまえ。湧き出る疑問を楓にぶつける。

「その心配はいらんよ。別の方法で便利じゃから。で、ネルグのことね。」

「うむ(……別の方法?)」

「あれは、この世界では封印なんよ!」

楓の声は鋭く、反論を許さないという気迫がこもっていた。

「封印?」

驚くアイシャに楓は優しく微笑みかけ、諭すように伝える。

「ネルグはね……この世界じゃ、絶対に存在しとったらいけんのよ。」

「しかし、これは私達の生活の一部で必要不可欠な手法だぞ。」

アイシャにとっても言わば死活問題。

常識が覆る大問題ともいえる。

しかし楓も譲れない。

「それでもです。

……この世界の人間ができんことを、アイシャは“できる”んよ。」

「そういうことになるな。」

楓の言葉に頷きながらアイシャは答える。

「アイシャの世界じゃどうか知らんけど……

こっちの人間は、それを“怖い”って感じるんよ。」

楓の本気の吐露にアイシャの気持ちが揺れる。

「……怖い……か。」

噛みしめるようにアイシャが反復する。

同時に少し寂しさも覚える。

楓は、アイシャの表情の変化をつぶさに見ていた。

だからこそ気付く。

「私は思う。郷に入りては、郷に従えだけぇ。ないものは、ないんよ!」

楓はニヤッと悪い笑みを浮かべ、淡々と続ける。

「そしてね。昔の書物に書いとったんじゃけど……

昔は“魔女”って呼ばれて、

アイシャみたいにネルグを使う人が、ほんの少しはおったらしいんよ。

でも、その人らは“魔女狩り”に遭うて……火あぶりにされた、って。

今でも……そうなる可能性は、ゼロじゃないだけぇね。」

楓は心の中で、舌を出す。

(脅かしすぎたかも、と思いながらも言わんと伝わらんけぇ。)

アイシャはゴクリと喉を鳴らした。

「忠告、感謝する。」

そういう存在だと周りに知られれば、あなたが危ない。

楓はそう言っているんだとアイシャは理解した。

「うん。でも大切なことだからね。

確認はしておくけど、アイシャは実際にどれだけのネルグを使えるの?」

「どれだけのというと……数か?」

アイシャは首を傾げる。楓の意図は伝わってないらしい。

「う~ん……その、ネルグってさ。

数とか種類とかも気になるんじゃけど……大きさ? 威力?

なんて聞いたらええんか、よう分からんのよ……」

(うちも知らんし……)

仮に魔法の力に単位があったとしても、楓はそれを知り得ない。

言われたところで想像もできないし、理解の外。

ないものへの理解ほど難しいものはない。

う~んと頭を抱えたくなる。

なにせこの世界にない魔法ネルグを何を基準に知ればいい?

楓の知りたいことと違うかもしれないがと前置きをしてからアイシャは話し始める。

「私が習得しているのは、基本のネルグと、その応用。

レベルは中級。中程度の攻撃と防御はできる。」

「……さっぱり分からん。  

まず“基本”って何なん? で、レベルが中級?  

攻撃に、防御……?」

アイシャは、楓の反応を見てネルグというものの理解に苦しんでいるのだろうと推測する。

「だな。ゆっくり説明する。」

説明に入ろうとするアイシャの目の前でゆっくり頭を横に振る楓

「うん、待って。……言葉濁してもいけんで。はっきり聞くわ。」

楓は息をのみ、真正面から問いかける。

「それ……人が殺せるレベルなん?」

アイシャは一瞬だけ表情を曇らせ、そして短く答える。

「簡単だ。」


楓は目をしばたかせ、しばらく固まったまま動けなかった。

でも確認しておかないといけない。

「私にわかる基準になる様なものって何か提示できる?」

「基準か? ……例えばどのような?」

(基準? ……基準!? ……破壊力かな?とすれば...)

基準となり得そうなものを一生懸命に思い起こすが、

軍事に明るい訳でもなく、あれこれとしばらく逡巡して思い至ったのが、“爆弾”。

(これならなんとか、想像はできる……かな?)

「アイシャの本気で、どれくらいのものが吹き飛ばせる?」

「吹き飛ばす? ……それは、風か何かでか?」

「ちがうなぁ……破壊?消滅?

……う~ん例えば、そうね……大岩を破壊するとか?な感じ?」

これで理解してもらえるだろうか。

「あぁ!そう言うことか。」

ポンと手を打つアイシャ。

どうやら曲がりなりにも伝わってくれた?

数秒ほど思考するような間があって

「複雑なんだが、要は組み合わせ次第。

例えば大岩なら……大きさにもよるが……そうだな。

焼いてから水球で冷やすとかか?先人の知恵だが。」

それを聞いて楓は理解する。

(えっ……意外。いきなり ボンッ! じゃないんだ……。)

「直接破砕!とかじゃないんだ……なら、ちなみに、大岩を焼くときの温度とかは?」

「おんど? ……はわからないなぁ。焔で包む感覚だから。

それに、もし直接破砕とか出来たら、それは伝説級のネルグ使いレベルだな。」

「伝説級かぁ……ん? 焔で包む。……包む?」

(そんなに温度が高くないってことかな?)

しかしだ。

(……ネルグが使えるってだけで、アイシャは“異質”になる。

それだけは、絶対に避けんといけん。)

そして、ゆっくり息を吐いて結論を出す。

「……やっぱり封印じゃね。  

今まで当たり前にしとったことが、

急にできんようになるのは大変じゃろうけど……  ここじゃ、本気で危ないけぇ。」


楓はそう言って、ネルグの話をいったん締めた。




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