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大賢者の弟子ステファニー  作者: 楠ノ木雫


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107/110

■106 悪魔


 辺りが静寂に包まれた。


 息をしている者は、私とアズライトのみだ。


 そう、私達だけ。



 そんな時、彼を中心に床に陣が展開された。金色の陣だ。彼は驚いているようで、これは彼が開いたものではないのだろう。


 そして、出現した聖水。それは、彼を勢いよく飲み込んだのだ。



「えっ……!?」



 だけど、すぐに引いた。


 出てきた彼の額が光り出し、収まると何かが刻まれていた。


 黒い、模様だ。あれは……ウロボロスだ。尾を飲み込み輪となっている蛇である。




《 罪を悔い改めよ 》


《 我はいつでも、お主を見ておる 》




 どこからか聞こえてくる声。直感で分かった、これは大地の女神の声だ。


 ウロボロスとは、古の時代から罪の証として伝えられている。だからこそ、彼の額にこれが刻まれたのだろう。



「えっ……」



 彼のそんな声が聞こえてきて、そちらに目を向けると……陣が見えたのだ。掌に出現している、____錬成陣が。


 という事は、きっと、この錬金術で罪を償えという事? 人を助けろ、という事なのか……?


 彼は声を上げて泣いていた。今までしてしまった事、そしてガイアの慈悲を受けた事。今彼はどんな気持ちなのかは分からないけど……きっと彼はもう大丈夫だと思う。



「……」



 私はこの惨状を見回した。


 倒れている、参加者達。


 私のよく知る、大切な人達は今魂を抜かれてしまっている。


 そして、もうその魂は焼き尽くされてしまった。


 それは、死を意味する。



「……え……?」



 頭上から光がさしてきて、上を見上げた。大きな、大きな光る穴。それから、ふわふわと落ちてくる小さな光。



「マ、ナが……!?」



 マナが周りを覆っている。そのマナは一つ一つ違く、よく知っているもの達だ。


 まさか、いや、そうだと願いたい。


 そして、光達は違う所へ散っていく。そして……一人一人の身体に入っていったのだ。


 何という奇跡。あぁ、大地の女神ガイア様……



「心から、感謝いたします……!!」





「あらぁ、これって……失敗しましたの?」



 そんな女性の声が響いてきた。オレンジのドレスを着て、日傘をさした見知らぬ女性だ。だけど、おかしい。まだ、周りの参加者達は意識を取り戻していないし、何より、ここは結界が張っているんだ。



「それ、どうしましたの?」


「アント、ネット……」



 アントネット嬢……聞いた事のない名前だ。



「失敗したようですけど、もう私が動いても宜しいわよね。まぁ、はっきり言って貴方の目的なんてはなから興味がなかったですし、ね。それよりも、私は……」



 様子を伺っていると、ニッコリとこちらを見てきた。……私? スカートを抓み挨拶をしてきた。これは……返したほうがいいのだろうか。



「初めまして、私、アントネットと申しますわ。ステファニー様、貴方に、すっごくすっごくお会いしたかったの」



「……私、に、ですか」



「えぇ、お願いを聞いて欲しくって」



 お願い? 初対面の私に……?



「私、蓋を開けてほしくって」



「……蓋?」



 蓋……? 一体、何の……?



「ここから南方にある、未開拓地に位置する……あのエリアにある穴ですわ。ご存じでしょう?」



 ここから、南、未開拓地……何か、覚えがあるような……それに、エリアって……?





「ステファニー!! こいつは悪魔だ!!」





 少し遠くから、アズライトの叫び声が私に向けられた。悪魔……? 悪魔って言った……?


 そして、黙れとアズライトを蹴り飛ばした令嬢。あら、バレちゃった。と少女のように笑うアントネット嬢。……いや、悪魔。


 南方の、未開拓地……南方の……!?



「異界の穴っ!!」



「そう!」



 異界の穴。


 私達の住むこの地上の丁度反対側に、実は似たような世界、[異界]があるのだ。その異界こそ……悪魔の住む世界。


 こちらと異界との間に開いてしまった穴。六百年前に、お師匠様が塞いだ穴である。



「せーっかく頑張って開けたのに、あの糞爺が塞いじゃったものだから。しかも、ご丁寧に私達悪魔じゃ触れる事すら出来ない細工までしてくれちゃって。だから、お願いしに来たの。弟子の貴方なら、出来るわよね?」



 あぁ、因みにこの結界は書き換えちゃったからね。そう笑顔を向けてくる。この中にいる人達全員が人質、という事か。



「そういえば貴方、一体いくつリミッターを付けてるのかしら」


「えっ……?」



 ほら、リザードマンと戦った時。と言ってくる。と、いう事は、リザードマンを仕向けたのはこの人だったのか。


 リミッター、か。何故その事を知っているのだろうか。


 自分に付けた、鎖。ここに訪れてから1つ増やしたので、全部で4つ。



「それに、貴方結界が一番苦手(・・・・・・・)でしょ?」


「……脅し、ですか」


「えぇ!」



 今までの戦闘を、見られていたのか。そう、確かに私は結界が一番苦手だ。だからこそ、下手に強力な攻撃が出来ない。


 結界の中にいる人達は人質に取られている。断るとしたら、この悪魔を捕まえて人質を解放しなければならない。


 ニコニコとこちらを見てくる悪魔。


 どうする、どうすべきだ。


 今手元には私の杖がない事はさっきと変わらない。戦った所で、錬金術は使わせてもらえるかもしれないけれど、周りで倒れている人達を守りながらだと、今の状態じゃキツイ。


 そんな時、視線を感じた。


 __彼の。


 そして、悟った。




「それで、どうする??」



「____断る」


 

 そう一言答え、私は走り出した。壊れたナイフを捨て、新しいナイフを掴んだ。


 〝カヴェアの種〟『Ignisイグニス』『Luxルクス』


 でも、すぐに粘着性のある糸はハラハラと切り刻まれてしまった。魔法か? いや、違う。確か悪魔は魔法とは違ったものを使うんだ。


 【羅影魔術】


 我々の持つエネルギー、[マナ]と違って、悪魔は[魔力]を持っている。そして、その【羅影魔術】とは、時にはエネルギーをぶつけ、時には生命のエネルギーを奪うのだ。


 そう、生命力を奪われる。


 今私がやるべきことは、この悪魔に私含め周りの人達の生命力を奪わせない事と、この結界を解かせること。その二つだ。 


 彼女は、開いていた日傘を閉じた。そして、先からエネルギーを凝縮させ形成した球を撃った。勿論撃った先は私だ。


 『Terra(テラ)


 土魔法で何とか防げたが、でもパラパラと砕け散ってしまった。土の生命力を吸われてしまったんだ。威力もあり私は後退させられる。



「諦めたらどう? 勝ち目、ないでしょ?」



 バンバン撃ってくる球を、何度も何度も土魔法で受け止める。反撃してこないあたり余裕がないのだろうと相手は思っているのだろう。けれど、違う。


 __これは、時間稼ぎだ。




「ステファニーッッッ!!!!!」




 アズライトの、私を呼ぶ大きな声。


 そのタイミングで、私は土魔法を展開した。アントネットをを囲って蓋を閉めた。


 勿論それも触れられて生命力を奪われパラパラと砕け散ってしまう訳だけれど……これは、彼女の視界を遮るだけのものだ。



『我 大地の女神ガイアの代理人なり_____』



 その言葉で、私はアズライトの元へ向き私の収納魔法陣から取り出した、マナ蓄蔵鉱石を投げた。ちゃんと受け取った事を確認出来た。


 彼女が土魔法の壁から出てきてしまったのと、同じタイミング。



『 多重聖白結壁 』




 彼女と、私の足元に大きな錬成陣が広がった。



「……何ですの? これは」



 私達は、彼の作った結界に閉じ込められたのだ。


 周りにいた参加者達はもう既に一ヵ所に移動させられている。私と彼女が攻防戦をしていた時にアズライトが移動してくれたのだろう。


 私達を閉じ込めた結界は、見たところ10枚か。長年錬金術を使ってなかったのに、しかも杖もなく私と同じナイフでこんなものを作り出した。


 しかもこれは、最高級の結界だ。私は到底作り出す事は出来ない代物。



「さっきまで殺しにかかっていた男に助けを求めるだなんてね」



「でも、私の兄弟子だよ」



「ふぅん。それでも、状況は変わってないわ」



 ただ、私は貴方にここから出すよう脅せばいいだけよ。確かにそうだ、けど……



〝舐められたらそのままにせず再起不能にしろ〟



 ……なぁんて言葉を貰った事がある。その相手、分かるかな? そう、あの人だ。



「……なあに、それ」



 私は、自分の収納魔法陣からとあるものを取り出した。


 私の身長より高い、木の枝で作られた杖。上の部分はねじられて、所々細めの枝が出ていて黄色の装飾がされている。宝石のような石が付けられていて振ると音がする。懐かしい、〝あの人〟の遺品だ。


 お師匠様と永遠の別れをした時、これを出すことは、これから先ないと思ってた。けど……


 今、皆を助ける為にはこの悪魔を倒さなければならない。その為に、アズライトがここまでしてくれた。なら、やるしかない。






 〝 __今こそ、花開け 〟



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