■107 遺品
〝 __今こそ、花開け 〟
その瞬間、彼女、アントネットは何が起こったのか分からなかった。
瞬きをした瞬間、自分は空間の壁にめり込んでいた事に気が付いた。
何があった。
何が起こった。
「ヒッッ……」
いきなり、アントネットの顔がギリギリ外れた所に思い切り刺さってきた、あの杖。もし、あと数センチずれていたらと思うと、彼女はサァーっと顔を青ざめてしまう。
「あ、外れちゃった」
ごめんね、久々なものだったから。そう、足音を一歩一歩鳴らしアントネットに向かって歩いてくる。
アントネットは必死になってその場から飛び上がった。何だ、何だったんだ今のは。明らかに、彼女の〝何か〟が変わった。
『 terra merita 』
杖が刺さった壁から、勢いよく樹木が溢れてきた。それは、止まる事を知らないかのようにどんどん太く、長くどんどん成長していく。そして至る所から枝分かれしていき、魔術により天井に逃げていたアントネットを捕らえ追尾してきた。
ひやり、そう、命の危険を感じた様な、そんな顔を浮かべた彼女は逃げ回る。だが、それでも振り切ることが出来ない。
彼女を追っているのは花を付けた木の枝だ。彼女に向かってどんどん伸びていっている。
避けるには避けられているが、それでも振り切れずにいるアントネット。
その様子を、アズライトは外から見ていた。
「はは、まさか……お師匠様の杖をまた見れることが出来るとはな」
「あれが、か」
アズライトに話しかけてきたのは、アスタロト公爵。
「流石賢者、復活が早い」
「何とか、といったところか。何をした」
「あぁ、これか。『多重聖白結壁』、錬金術の中で最高級の防御力を持つ結界だ」
それを、10枚重ねて作り出した。自分でも作り出すことが出来ないものをここまで精密に作り出せたこの男が、自分より遥か各上だという事をアスタロト公爵思い知った。
だが、その中にいる彼女もまた、化物と言っていいほどの力を発揮している光景にも驚きを隠せずにいる。
「……悪魔は、生命力を奪うことが出来る。それなのに、あの樹木は吸えていないようだが」
「聖水を纏わせてるんだ」
そんなもの、一体どうやっているのか全く理解が出来ていないアスタロト公爵。
そんな時、アズライトが何かに気が付いた。そして、自分の収納魔法陣を開き何かを取り出したのだ。それは、何かの種。
「あれ、は……ッ!?」
気が付いた。あの追尾している樹木に生えている花。動くたびにあの花粉が結界内に舞い散っているのだ。そして充満している。
「あれは……」
「〝ソソレイユ〟という花だ。錬成にはあまり使われない花だが、あの花粉は……」
『 flamma 』
「火を付けると、大爆発を起こす」
彼のその言葉の瞬間、この会場が大きく揺れた。すかさず彼は錬成を始めて先程と同じく同じく『多重聖白結壁』を作り出す。
そう、先程の大爆発で10枚の内9枚を破壊されてしまったからだ。普通の大爆発とは比べられないほどの爆発を起こしたからだ。
勿論、それを起こした彼女は無傷。だがアントネットは大ダメージを喰らわせられてしまった。
爆発で舞った煙で、アントネットは彼女の姿を見失った。そして……
「みぃ、つけ、たっっっ!!!!!」
「ッッッ!?」
いきなり登場した彼女は、思い切り蹴り飛ばした。アントネットはすぐ壁に激突、衝撃で3枚を破壊してしまっていた。
彼女は思っていた。この樹木にだって生命力は備わっているはずなのに、それなのに奪えない。まるで、何かでコーティングされているかのよう。
それに、こんなに大量に作り出してるのであればマナだって大量に消費しているはずだ。なのに、なんで、何でそこまで動けるんだ……
「……待ってよ、あんた、まさか……あん時のッッ!!!!」
あん時の、それは、600年前。悪魔と人間との闘いで、悪魔は敗れた。勝てる戦いであったはず、なのにどうして悪魔側が敗北したのか。その敗因は……
「あの日……いきなり地上に溢れんばかりの樹木が伸びてきて……私達を飲み込んだ……も、しかして……あんた……」
「600年前……?? ごめんね、私最近ボケが始まっちゃったみたいでさ」
「ッッ!?」
アントネットの足元から、枝が伸びてきた。彼女は気付くことが出来ずに捕まる。これだ、これだったんだ。
「捕まえた。さ、結界解いて?」
「ばッ……バケモノッ……」
「化け物?私はただの錬金術の出来る長生きおばあちゃんだよ」
駄目だ、こんなの勝てっこない。そう、彼女は後悔したのだった。
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