■105 彼の記憶
『 ________これ以上は、ダメよ。 』
どこからか、聞こえてきた声。
違う、この魂の声、彼女の声だ。
「ど、して……どう、して……」
入ってよッ!!
戻って来てくれよッ!!
嫌だよッ!!
そんな、悲しい感情を乗せた声が彼の口から出てきて。
でも、彼女は答えない。
「もう……一人は……嫌なんだッ……」
まるで、子供の様な。母親に縋りつくような、そんな風に見えた。
でも、彼女は何も答えずそのままその場にとどまり続けていて。
彼女達は、一体どんな関係なのだろうか……
『 ________待ってる。』
「えっ……」
その声を残して、光は上に上がっていってしまった。彼はすかさず捕まえようとするが、それでも捕まえられず上がっていってしまい輪廻の輪に戻っていってしまったのだ。
蒼い炎は燃え尽きた。
声も聞こえなくなった。
魂は還っていった。
輪廻の輪も、消えていった。
彼は、地面に膝を付き呆然としていた。目の前に寝かされている、彼女の身体を見つめ、目を見開いていて。
一体、彼にとって《タリア・ティターニァ》とはどんな人物だったのだろうか。
そんな時、頭に何かが流れ込んできた。
これは、記憶だ。
____見えたのは、悲惨な現場。
壊された魔鉱車と、血だらけの女性、男性、そして子供だった。
その現場に駆け付けたのは、先程見た女性。そう、今は亡き彼女だ。
『ごめんね、間に合わなくて』
女性と男性は亡くなっていて、生き残ったのはその子供のみだった。そう、彼はアズライトだ。大体、10歳くらいだろうか。
彼女は、大怪我をしていた彼にポーションを与え周りに何もない崖を離れ近くの家に向かったのだ。
その途中で、彼女は錬金術を使った。そう、彼女は錬金術師だ。
その様子を見た彼は、彼女に錬金術を教えてほしいと頼んだ。彼女は快く了承してくれた。
事故のあった場所は彼らの家からだいぶ離れていたらしく、家の者が車でこの場に留まる事になった。その間、彼女は知っているものを彼に沢山教えた。
彼は、彼女が教えた事を沢山吸収した。すぐに理解して同じ事を簡単に出来てしまったのだ。
そう、彼は才能があった。
彼自身も、錬金術という未知の世界に憧れ、知れば知るほど魅力を感じ、飲み込まれていったのだ。
だけど、もうそろそろで別れが近づいている事を彼はまだ知らなかった。
彼の叔父と呼ばれる人物がようやく迎えに来た。その為、彼女はお別れを告げた。
彼は止めようとしたけれど、困っている人を助けるため旅をしているからと断った。じゃあ連れてってと言うとそれも駄目だと行ってしまったのだ。
彼は、錬金術を極めた。偶然、大賢者に出会い弟子にしてくれと必死に懇願して許してもらった。
もし彼女のようになれたら、またきっと会うことが出来ると信じたからだ。
それから月日が経った。もう、教える事はないと師匠である大賢者はどこかへ行ってしまった。
そして、旅をした。
困っている人を助け、各地を転々とし……
__そして、願いが叶ったんだ。
凄腕の女性錬金術師が隣の町にいるという噂を聞いた。容姿も合っている。彼女だ。
少年は急いだ。早く会いたい、早く会いたい、そう想った。けど……
『えっ……』
道の途中で、争う音が聞こえてきた。
血の臭いもする。
少年は急ぎ、絶望した。
彼女が居たんだ。彼女と、斧を持った盗賊の一味が。
彼女は血だらけ。相手方は無傷。
そして、一撃を受けてしまっていた。
__彼は、間に合わなかったんだ。
人を傷つける事を嫌う彼女。正当防衛になるにもかかわらず、彼女は彼らに杖を向けなかった。
そんなのおかしい。
そんなのおかしい。
少年の中にある、彼女の記憶は、真っ赤に染まってしまっていて。知らず知らずに、彼は一味を殺していた。
風の噂で、この一味は彼女に、困っているから助けてほしいと頼み込みここまでおびき寄せたらしい。
こんなの間違ってる。錬金術師は、人に尽くす為に生きている。大地の女神ガイアに、人を助けるという使命を与えられる。
でも、こんな奴らの為に尽くす必要なんてあるのか?
命を懸けてまで、する事か?
俺達錬金術師は、人を助けて何を得るんだ?
__その日から、少年は錬金術が使えなくなったのだ。
人はそれぞれに自我がある。
考え方も、人それぞれ。
生き方も、人それぞれ。
大地の女神ガイアは、そんな者達に力を与えた。
錬金術という力を与え、人を助けろと命じた。
彼女は、どんな思いを込めて与えたのだろうか。
……いや、
__その意味を探すことが、一番大切なのではないだろうか。
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