東出祐一郎「ケモノガリ」
これはケモノと、ケモノガリの物語――。
いつもの高校の教室、いつもと同じ仲間たちと、話し合って、くだらないことで笑い合う。
欠伸が出そうなほど、たいくつで、だけど満ち足りた日常。
そんな毎日が続く。続くはずだと――心の中で、思っていた。
修学旅行の先、レントブロア共和国。仲間たちと外国の空気を楽しみながら、非日常を楽しみ。
そして、彼らはそのまま、非日常から帰って来られなくなった。
意識を失った彼らは、謎の暗い部屋に閉じ込められる。赤神楼樹は、身体を拘束された状態で目を醒ました。非常事態だ、と認識した彼は、本能に身を任せて拘束している男を、不自然なほど機械的に処理する。
混乱するでもなく、研ぎ澄まされた思考で、彼は貴島あやなをはじめとした友人たちを救ってその窮地から脱出を図る。だが、途中で発覚した事実は恐るべき事実。
人狩りの「クラブ」によって、クラスメイトは全員誘拐され――そして、楼樹が救い出した仲間たち以外は、全員、もうすでに殺されてしまった、ということだった。
悲嘆、混乱、逃避――全員が現実から目を逸らす中、楼樹だけは事実をただ事実と受け止め、現状の打開のために、冷静過ぎるほどに動き出す。
楼樹の一人称によって描かれる、狂ったまでの非日常。それを、冷静に分析する楼樹は、正気か狂気か。
その光景を通じて、楼樹の目覚めていく才覚。だが、それをあざ笑うかのように、凶悪な刺客が差し向けられる。
「クラブ」が娯楽のために保有する、思考を狂わせた殺人鬼――『娯楽提供者』
彼らはその魔手から逃れ、非日常から逃れることができるのか。
シナリオライターでもある東出祐一郎氏の描く、残酷なまでに狂った世界。
狂った苦境の中で主人公が成長していく。だが、狂気に染まりゆく正気を、成長と呼べるのだろうか。
その成長の過程での、覚悟と決断は、何よりも迫真の気迫すら感じる。
覚醒し行く楼樹の、不自然なほど冷静な戦闘の数々は、どこまでもリアルで、血の味を感じるほどだ。
これは日常と非日常、正気と狂気、才能と才覚、そして――ケモノたちの、物語。




