第九話 四人の夕食と、宿泊先
チャッピーは、充電を終えた専用ステーションから元気よく歩き出した。
「お待たせしたワン!」
四人は、テレビ局のスタッフと話をしていた。
「さて、みなさん。今夜の夕食を決めたいワン!」
チャッピーがそう言うと、マルコ・ポーロが尋ねた。
「日本では、どんな料理が食べられるのだ?」
「いろいろあるワン! お寿司、天ぷら、焼き魚、そば、うどん。それに、洋食や中華料理もあるワン!」
「一度に、そんなに多くの料理を食べられるのか?」
マルコは目を輝かせた。
「まずは、みなさんの好みを聞くワン! 苦手なものや、食べられないものも教えてほしいワン!」
四人は、それぞれ違った反応を見せた。
「私は、珍しいものなら何でも試してみたい」
マルコ・ポーロは、すぐに答えた。
「旅先では、見たことのない食べ物に出会う。それも旅の楽しみだからな」
「私は、料理の味だけでなく、食べたときの様子も知りたい」
ルスティケッロが言った。
「人々がどんな顔をして食べるのか。どんな香りがして、どんな音がするのか。そういうことも物語になる」
「私は、各地の料理を比べてみたい」
イブン・バットゥータは落ち着いて答えた。
「同じ魚でも、土地によって調理方法は違う。香辛料の使い方も違うだろう」
最後に、イブン・ジュザイが口を開いた。
「私は、料理の名前や材料、食べ方を知りたい。後から記録を読み返したとき、何を食べたのか分からなければ困るからな」
「なるほど! みんな、食べたいものだけじゃなく、注目するところも違うワン!」
チャッピーは、うれしそうにしっぽを振った。
「それなら、ホテルのバイキングはどうかな? 日本料理も洋食も中華料理もあるワン。好きなものを自分で選べるワン!」
「それは、まさに私向きだな!」
マルコが声を上げた。
「では、ホテルに相談してみるワン!」
チャッピーは、テレビ局のスタッフにホテルバイキングの手配を相談した。
やがて、撮影と食事の許可が取れたホテルが見つかった。
夕方。
四人は、チャッピーとテレビ局のスタッフに案内され、ホテルのレストランに入った。
入口をくぐった瞬間、四人の目の前に、料理が並ぶ長いカウンターが現れた。
色とりどりの料理。
湯気の立つ温かい料理。
ガラスケースに並ぶ冷たい料理。
そして、デザートの数々。
「これは……市場なのか?」
マルコは、料理の列を見渡した。
「いや、食事をする場所だ。しかも、客が自分で選べる」
イブン・バットゥータは、料理の配置を観察していた。
「食べ物を種類ごとに並べている。客が歩いて選ぶ仕組みなのだな」
「これは記録しがいがある!」
ルスティケッロは、すでに興奮していた。
イブン・ジュザイは、料理の説明札を確認している。
「名前、材料、料理の説明。なるほど、情報が整理されている」
「みんな、まずは料理を選ぶワン!」
チャッピーの声で、四人は料理の前へ進んだ。
最初にマルコが立ち止まったのは、寿司のコーナーだった。
小さな酢飯の上に、魚の切り身がのっている。
「これは魚を生のまま食べるのか?」
「そうだワン。新鮮な魚を使ったお寿司だワン!」
「火を通さずに?」
マルコは、少し驚いたように魚を見つめた。
「それは、魚の鮮度が大切になるな」
一貫を皿に取り、口に運ぶ。
ゆっくりと噛んだ。
「ほう……魚の味がそのまま伝わってくる。米には酸味がある。魚と米を一緒に食べるのか」
マルコは、もう一貫を取った。
「これは、ほかの魚でも試してみたい!」
その隣で、ルスティケッロは天ぷらを見つけていた。
「これは何だ? 黄金色の衣をまとっているぞ!」
「海老の天ぷらだワン!」
「海老が、こんな姿になるのか!」
ルスティケッロは、海老の天ぷらを一つ取った。
さくっ。
衣をかじった瞬間、彼は目を丸くした。
「おお! 外側は軽やかに崩れ、中の海老は柔らかい! まるで、衣の中に海の味を閉じ込めたようだ!」
「そんなに大げさに言わなくても……」
マルコが笑った。
「大げさではない! これは物語になる!」
ルスティケッロは、今度は野菜の天ぷらを取った。
「同じ衣なのに、こちらは野菜の味が違う。料理人は、素材によって仕上がりを考えているのだろうな」
「食べながら、もう文章を考えているのか?」
マルコが尋ねた。
「当然だ。忘れないうちに書いておきたい!」
ルスティケッロは、真剣な顔で答えた。
一方、イブン・バットゥータは、料理の材料表示を一つずつ確かめていた。
「こちらは魚か?」
「はい。焼き魚です」
スタッフが答えた。
「香辛料は使っているのか?」
「味付けについては、厨房に確認できます」
イブン・バットゥータは、説明を聞いてから皿に取った。
焼き魚を口に運ぶ。
「魚の香りがよい。素材の味を生かしているな」
次に、野菜の煮物を食べた。
「こちらは、魚とは違う。野菜にだしの味が染みている。土地の食材を、土地の調味料で味わう。旅先で食事をする楽しみは、こういうところにもある」
彼は、ほかの料理にも目を向けた。
「ところで、この料理には豚肉や酒は使われていないだろうか?」
チャッピーがすぐに答えた。
「ホテルに確認してあるワン。二人が食べられる料理を案内してもらっているワン!」
「それなら安心だ」
イブン・バットゥータは、うなずいた。
その横で、イブン・ジュザイは、料理の説明札をじっと見ていた。
「この料理には、どんな材料が使われている?」
スタッフが説明すると、彼はさらに質問した。
「この煮物は、いつも同じ材料なのか? 季節によって変わるのか?」
「季節の食材を使うこともあります」
「なるほど。料理の内容にも季節が反映されるのだな」
イブン・ジュザイは、説明を聞きながら考え込んだ。
「記録するなら、料理の名前だけでは足りない。材料、季節、調理方法も残しておきたい」
「食べる前から、記録の話か!」
ルスティケッロが笑った。
「食べてからでは、材料を忘れるかもしれない」
イブン・ジュザイは、まじめな顔で答えた。
やがて、四人は茶碗蒸しの前に集まった。
小さな器のふたを開けると、湯気と一緒に、だしの香りが広がった。
「これは、スープなのか?」
ルスティケッロが尋ねた。
「卵を使った蒸し料理だワン!」
マルコは、スプーンですくった茶碗蒸しを口に運んだ。
「柔らかい! 卵が、こんなに滑らかになるとは」
ルスティケッロも一口食べた。
「これは、口の中で消えてしまうようだ。文章にするのが難しい!」
イブン・バットゥータは、だしの香りを確かめた。
「香りが穏やかで、味も優しい。ほかの料理の合間に食べるのにもよさそうだ」
イブン・ジュザイは、器の中をのぞき込んだ。
「卵だけではない。中に別の食材も入っている。小さな器の中に、いくつもの味があるのだな」
四人の皿には、少しずつ違う料理が並んでいった。
マルコは、気に入った寿司をもう一度取りに行った。今度は、魚の種類を確かめながら選んでいる。
ルスティケッロは、天ぷらの食感を何とか言葉にしようと、チャッピーに何度も説明を求めていた。
イブン・バットゥータは、魚料理と野菜料理を食べ比べ、調理方法の違いを楽しんでいた。
イブン・ジュザイは、料理の名前や材料を確かめ、ホテルのバイキングという仕組みそのものにも関心を持っていた。
デザートのコーナーでは、マルコがケーキを見つけた。
「これは、何という菓子だ?」
「ショートケーキだワン!」
マルコは小さく切り分けられたケーキを一口食べた。
「甘い! それに、白い部分は何だ?」
「生クリームだワン!」
「これは、果物ともよく合うな」
ルスティケッロは、別のケーキを選んだ。
「こちらは、また違う味だ。甘さにも、こんなに種類があるのか!」
イブン・バットゥータは、果物を皿に取った。
「旅先では、その土地の果物を味わうのも楽しみの一つだ。これは、どこで採れたものだろう?」
スタッフが産地を説明すると、彼は満足そうにうなずいた。
イブン・ジュザイは、デザートの説明札を見ていた。
「食事の最後に甘いものを楽しむ。これも、このホテルの食事の構成なのだな」
「みんな、ずいぶん楽しんでいるワン!」
チャッピーは、四人の様子を見て、うれしそうにしっぽを振った。
ところが、そこで時計を確認した。
「みなさん、そろそろ時間だワン!」
「もう終わりなのか?」
マルコが驚いた。
「ホテルのバイキングは、二時間制なんだワン。食事のあとも話をしたいなら、別の場所が必要だワン!」
「まだ、聞きたいことがたくさんあるのだが」
ルスティケッロが残念そうに言った。
「食事の続きは、また別の機会にしよう。今夜は、まず宿泊先を決めなければならない」
イブン・ジュザイが、落ち着いて答えた。
そうだった。
夕食だけでなく、宿泊先も必要だったのだ。
チャッピーは、テレビ局のスタッフに相談した。
「みなさん。四人の宿泊先も、手配してもらえないかな?」
「もちろん、制作会社を通して相談してみます。ただ、四人は現代の身分証明書を持っていませんね」
「そうだワン。宿泊施設によっては、本人確認が必要になるワン」
「宿泊施設に事情を説明して、正式に受け入れられる場所を探しましょう。費用についても、番組制作の予算として検討します」
「ありがとうだワン!」
チャッピーは、しっぽを振った。
「それなら、夕食も宿泊も、一緒に相談できるワン!」
Geminiが、すぐに確認事項を整理した。
「宿泊施設の受け入れ条件、本人確認の方法、費用負担、食事の配慮を確認します」
Siriも続けた。
「候補の施設と予約時間の調整も手伝います」
「頼もしいワン!」
チャッピーは、四人のほうを向いた。
「みなさん、今夜の日本料理はどうだったワン?」
「寿司も天ぷらも、初めての味だった。まだ試していない料理がたくさんある!」
マルコは、すでに次の食事を楽しみにしているようだった。
「私は、天ぷらのことをもっと書きたい。あの衣の音と、口に広がる味を、どう表現すればよいのだろう!」
ルスティケッロは、まだ考え込んでいた。
「私は、魚と野菜の調理方法の違いが興味深かった。次は、別の地域の料理も食べてみたい」
イブン・バットゥータは、旅人らしい感想を述べた。
「私は、料理の名前だけでなく、材料や季節、食べ方も記録しておきたい。食文化を知ることは、その土地の人々を知ることでもある」
イブン・ジュザイは、満足そうにうなずいた。
チャッピーは、四人の言葉を聞いて、うれしそうに答えた。
「そうだワン! これも日本紀行の大切な一ページだワン!」
しかし、チャッピーには、まだ大きな仕事が残っていた。
四人の宿泊先を確保すること。
そして、四人の旅を、どんな番組にするのか。
「よーし! 次は、番組の企画だワン!」
チャッピーは、しっぽを振りながら、次の仕事に取りかかった。




